澪「TSしちゃった」
澪「私を男として見るのはやめろよ」
吉乃「検討させてください」
おはよう、私は午後だけ超絶美少年にTSする女・琴澪だ。
今日は月曜日。TS病になってから初めての登校だ。
といっても、午前時点では女なので、まだいつも通りだ。
教室に入ってすぐ、ふわふわ金髪ハーフツインテの親友・吉乃を見つけた。
「おはよう、吉乃」
「おはよ~。いつもの澪だな」
「それはそうだろ」
「なんか残念なような、ホッとするような、不思議な気分だわ」
「なんだそれ」
吉乃は腕を組みながら、複雑そうな顔をしていた。
そして――SHRの時間になる。先生から、私のTS病について説明された。
午後になると男の体になってしまうこと。また、着替えの時は私だけ特別に進路室を使わせてもらうことが、クラス全体へ伝えられた。
――SHRが終わった。授業開始まではあと10分ある。
すると、クラスメイトが話し掛けてきた。私が普段話すのは、吉乃含め女子数人だけだが、その内のひとりだ。
「澪、TS病になったってマジ?」
「うん」
「今見た目なんも変わってないから信じられないわ」
「だろうなあ」
現時点では、いつも通りの私なのだ。無理もない。
結局、TS病についての話題で私に話しかけてきたのは、彼女だけだった。まあ、こんなものか。
*
何事もなく、三時間目まで終わった。時刻は十一時五十分だ。
私はセカンドバッグを持って席を立ち、吉乃へ話しかける。
「吉乃、進路室行ってくるわ」
「あっ、そうか」
吉乃は時計を見た。もうすぐTSする時間である、と納得したのだろう。
そして、私はひとり進路室へ移動した。扉のカギを掛けて、カーテンを閉め、少し待つ。十二時になり、四時間目のチャイムが鳴った。
同時に――私の身体が男に変わった。
相変わらず、無音で唐突だ。
私はセカンドバッグから、下着と男子用制服を取り出す。制服はこの学校の卒業生である兄から借りたものだ。
まず下着を穿き替える。女性時と男性時でサイズが違うので、下着も着替えないといけないのだ。
次に、ワイシャツ、ズボン、ブレザーを着る。ズボンはスカートと感覚が違いすぎて、変な感じがする。
というか、チ○ポが揺れて落ち着かないんだけど。
これ、男子っていっつもこうなの? 歩く時とか気にならないの? う~ん、分からん。
私は脱いだ下着と制服をバッグに詰めて、進路室を出た。既に授業が始まってしまっているため、足早に歩く。
毎回四時間目だけ数分遅刻することになるが、これは仕方ない。
そして、私は教室の前に立つ。嫌な緊張感がある。目立つのは得意な方ではない。
私はゆっくりと、教室の扉を開いた。
クラスメイトたちが私を見る。一瞬で、教室がざわつきだす。
「えっ」「あれ琴さん?」「めっちゃ可愛くね?」「うわすごっ、マジで男になってるじゃん」「ウッソだろ、可愛すぎるでしょ」「え、すっげ……」
と、男子女子の両方から色々な声が聞こえてくる。
吉乃は親指を立ててドヤ顔しながら「見なよ……私の澪を」みたいな顔をしていた。なんかムカつく。
席に戻る。先生が「琴さん、大丈夫でしたか?」と聞いてきた。
「あ、はい」
「では授業を再開します。みなさん静かに」
授業が再開される。しかし――周囲からはチラチラと見られているし、ひそひそと話し声が聞こえてくる。
お、落ち着かない……。
*
四時間目が終わり、昼休みになった。吉乃が隣に来て――。
「おつかれ、澪」
「うん、マジで疲れた」
すると、吉乃に続いて他の女子たちも私に近付いてくる。
「ホントに琴さんなの?」「それ男子の制服じゃん、どうしたの?」「琴さんすごいね、超かわいいじゃん」「男子に変わる時ってどういう風に変わるの?」
と、女子たちが一斉にすごい勢いで話しかけてきた。吉乃は私を庇うように立って――。
「はいストップストップ。澪に話しかけたいなら事務所通してください」
「タレントか」
私は質問してきた人には返答し、それから吉乃と机をくっつけて弁当を食べ始めた。
「はぁ……疲れる……」
「ほんとおつかれ」
弁当を食べながら、ちらりと周りを見る。男子たちが、私の方を見ながらひそひそ話している。はっきりとは聞こえないけど「琴さん」という名前だけは聞き取れた。
男子たちの会話に私の話題が出るの凄いな……。普段は五軍女子の私なんて、見向きもされないし。
「なあ澪、あれ」
「ん?」
「廊下にやたら人がいる」
廊下に人だかりができている。おそらく他のクラスから私を見に来たのだろう。
「だる~」
「なんか転校生みたいだな」
「あ~、確かにそんな感じかも。私も昔、別のクラスに転校生来たら見に行ったし」
これから数日は、注目の的になるのだろう。そう考えると、普段通りの吉乃がいてくれてありがたい。持つべきものは親友だ。
「ま、いつも通りのお前が一番ほっとするわ」
「……。……非常に申し訳ないんだけどさ」
「ん?」
「男子とお昼食べるの初めてだからテンション上がってる」
「なんでだよ、男扱いすんな。私は女だ」
「でもマジで可愛いんだよお……」
可愛いのは同意だ。私も鏡を見る度そう思ってるし。
ただ、吉乃からそういう目で見られるのは勘弁してほしい。親友に男扱いされるのは、距離感が変わってしまったような気がして嫌だ。
*
放課後になった。
月曜日なので、普段なら、彼氏を作るための作戦会議――略して『彼氏会議』を行う日だ。しかし、今日はそんな気分じゃない、という理由で開催を見送った。
「うち来る? ファミレス行く?」
「あ~、ファミレス行こう」
「おけ~」
そして、私たちは行きつけのファミレスに移動した。
吉乃は、なんだか上機嫌そうにニヤニヤしている。
「やばい、放課後デートしてるみたいで超楽しい」
「おいやめろ、私を男として見るな」
「あ~、なんか彼氏持ちの一軍陽キャになった気分だわ。感動をありがとう、澪」
「私を勝手に彼氏と見做して気分良くなるな!」
虚しくないのか。そういうのはちゃんと本物の彼氏を作って味わうべき幸せのはずだろ。すっかり腑抜けやがって。
よし、来週からの『彼氏会議』は私が頑張ろう。吉乃の目を覚まさせて、一緒に彼氏を作るための建設的な努力を再開しなければいけない。
*
私は帰宅した。
自室に戻り、鏡を見る。制服姿の美少年が映っている。
艶のある黒髪。切れ長の瞳。鋭く冷ややかな眼差しは、威圧感のある美しさを帯びている。
可愛い。もしクラスにこんな男子がいたら好きになってしまうかもしれない。
なんとなく、一枚写真を撮ってみる。しっかり可愛かった。
着替えるため、ブレザーを脱ぐ。ネクタイを弛め、ワイシャツのボタンを二つ外したところで――鏡が目に入る。薄いシャツを着て、胸元を露出させている男子高生の姿。
エッロ。
エッッッッロ。
エッッッッッッッッッッッッロ。
欲求が膨らみ、私は自撮りをする。さらに、制服を着崩したり、半脱ぎになったりして、写真を撮ってみる。あっという間に、アルバムが大量のエロ自撮りで埋まっていく。
「うおエッロ……!!!」
想像以上に、来る。エロい。やばい、余裕でオカズにできる。
早く女に戻って、思いっきりオナニーしたい。
……。
……これ、吉乃に送ったらビックリするだろうな。いや、流石に送らないけど。ホントに男として見られかねないし。
私はエロ自撮り画像を、自分だけの宝物にすると決めた。
画像を見ながら、改めてありがたみを感じる。男子高生のエロい姿なんて、普通は見れないものだ。
まあ、彼氏ができればセックスするとき見れるんだろうけど。いつか、当たり前にそんな光景が見れるようになりたい。
そのためにも、頑張って彼氏作らなきゃなあ……。
*
翌日の放課後。私は吉乃の家に来た。今日はゲームで遊ぶ予定だ。
玄関で靴を脱ぎ、框へ足を踏み入れようとすると――。
「えっ!?!?!?!?!?」
吉乃が突然、大声を上げた。彼女は私の足元を見て、目が飛び出さんばかりに驚いている。
「な、なに」
「お前黒タイツ穿いてんの!?!?!?」
「え、うん。寒いし」
「私のために!? ありがとう!!!」
「なわけあるか!!!」
私は框へ上がった。黒タイツに包まれた足が、彼女の前に晒されてしまう。吉乃は、私の足をじっと見つめながら――。
「エッッッッッッッッッッッッッッロ」
「見んなアホっ!!!」
ヤバい、足見られるの恥ずかしい。私は逃げるように、廊下の奥へ進む。吉乃も後ろから追いかけてくる。
すると、ちょうどリビングの前を通るところで、ばったりと吉乃のお姉さんに会った。
「えっ????????????」
彼女は、私を見るなり愕然とした。そして、ご近所中に響き渡りそうな大声で――。
「い、妹が男連れ込んでる!?!?!?!?」
「いや違います」
お姉さんは吉乃に対し、畏敬の眼差しを向ける。
「妹よ、すごいな……。お前は姉を反面教師にしてちゃんと普通の人生を生きてるんだな……」
吉乃は爆笑していた。さらに、私の肩に手を置き――。
「紹介するね。私の彼氏だよ、可愛いでしょ?」
「誰が彼氏だ!!!!! ぶっ飛ばすぞ!」
私は肩に置かれた手を払いのけ、吉乃を睨む。お姉さんは不思議そうな顔をしていた。
私は改めてお姉さんに向き直り、事情を説明した。
「――ということで、私は琴澪です。TS病なので、午後だけ男なんです」
「え、えぇ~~~~~っ!?!?!?」
お姉さんは驚き、興味深そうに私を見る。そして、ホッとしたように溜め息を吐いた。
「ま、まあよかったよ。妹が遥か先を行っているのかと思って焦った」
あまりにも切実な言葉だった。なんとも言えない気分になる。女として気持ちは想像できるから悲しい。
そして、私と吉乃は二階へ上がった。
吉乃の部屋へ入り、こたつへ並んで入った。狭いこたつなので、自然と肩が当たるくらいの距離感になる。
「うわお前めっちゃいい匂いするんだけど」
「やめろキモい」
のんびりとゲームをしながら、私たちは雑談する。
「なあ澪、風呂入る時とか、自分の裸見て興奮しない?」
「え、めっちゃする。正直自分の体見て勃起しちゃうわ」
「勃起って痛くないの?」
「痛くないよ」
「マジ?」
「マジ。私たち女は、打撲とか捻挫の腫れをイメージしちゃうから勝手に痛いって思い込んでるけど、実際男の勃起って全く痛くなかった」
「すげえ、それガセじゃなかったんだ。じゃあ、ほっとくと勝手に治まるってのもマジ?」
「マジだよ」
「すごい、不思議すぎる。気になるから見せてよ」
「みっ、見せるわけないだろ。バカかよ」
私はゲーム画面から視線を外し、吉乃の方を見る。すると、こっちを見る彼女と目が合った。性欲まみれでギンッギンの目だった。
「ズルいだろ! お前だけチ○ポ見れるの!」
「自分のだからいいだろ!」
「私だって男のチ○ポ見たい! 見せて!」
「見せないし! キモいからやめろ!」
私は吉乃から逃げるように、ちょっとだけ身を引いた。
「私が私のことを性的な目で見るのはいいけど、お前はダメだ」
「それは理不尽だろ!」
「私が嫌なんだよ! というか、いくら体が男でも、中身私だと思うと萎えるだろ!」
「いや全然エロいが勝る」
「な、なんでだよぉ……」
「困惑した顔も可愛いね」
「キモっ!!!!!!!」
その後、私たちは雑談しつつゲームをプレイした。だが、吉乃はいつもより動きが悪かった。私の方を何度もチラチラ見ているせいだ。
しばらくゲームをやって、私は帰ることにした。帰り際、私は吉乃の方を振り返り――。
「吉乃」
「なに?」
「お前処女すぎる」
「急になんだ!!!!! 喧嘩売ってんのか!!!」
「私の方見すぎなんだよ。学校でそんな男子のことジロジロ見てたら絶対キモがられるからな」
「え……ぅ……」
吉乃は急所を突かれたように呻き、顔を伏せた。
「だって、お前が可愛すぎて……」
「ぅ……私を男として見んな、あほ」
私は吉乃の家を出た。何度も「可愛い」と言われて、変な気分だった。
溜め息を吐く。本当は、吉乃にエロ自撮りを見せて「このアングルエロくねギャハハ」みたいな下ネタを楽しく話したかった。親友のアイツとなら、それができると思っていた。
でも、無理そうだ。今は、吉乃との距離感がおかしくなってしまっている。
とはいえ、慣れれば元通りになるはずだ。なんなら明日にでも「やっぱお前相手に興奮するとかどうかしてたンゴねえ」とか言ってきてもおかしくない。
吉乃を信じよう。アイツだって普通の男子と付き合いたいはずだし、本気で私を狙ってくることはないだろう。
**1
私と姉貴は、リビングで向かい合い、ジュースを飲みながら話している。
「つまり、親友が突然めっちゃ可愛い美少年になったってこと? それなんてエロゲ?」
「最近めっちゃ楽しいわ」
「だろうなあ、羨ましい」
姉貴も私と同じで、彼氏いない歴=年齢の陰キャだ。同族だし仲もいいので、とても話しやすい。
姉貴はジュースを飲み干し、空になったコップを傾けながら、にたあと笑った。
「お願いしたら処女捨てさせてもらえるんじゃない?」
「土下座すればマジでワンチャンあると思ってる」