午後だけTSする病【貞操観念逆転】   作:耳野笑

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【三行で分かる前回のあらすじ】

澪「なんかクラスで目立っちゃってる……」

吉乃「黒タイツエッッッッロ」

吉乃「土下座したらワンチャン処女捨てさせてくれないかな」


第4話 おかしくなっていく親友

「彼氏を作るための作戦会議、略して『彼氏会議』を始めよう!」

 

 吉乃が高らかに宣言し、ふわふわのハーフツインテが揺れた。

 

 放課後の進路室。私たちは机を挟み、向かい合って座っている。当然、午後なので私は男の体になっている。

 

「今日の議題は『男慣れして自信を付けること』だ!」

 

 吉乃は勢いよく言い切った。

 

「男慣れ?」

 

「そう! 男に慣れれば自信がつく! 男子と話す時キョドらなくて済むし、いろんな場面でスマートに淑女的な振る舞いをすることができる!」

 

「まあそうだな。で、どうやって男慣れするんだよ?」

 

 私がそう訊くと、吉乃は突然イスから立ち上がり、私の傍へ来て、床に正座した。

 

「えっ、なに?」

 

 吉乃は手を床に突き、勢いよく頭を下げた。

 

「頼む! 男慣れするために、処女捨てさせてくれ!」

 

「はあっ!?!?!?!?!?!?!?」

 

 私は驚愕し、困惑する。

 

「おいやめろ! 親友の土下座とか見たくないから!」

 

「一生のお願いだ! 処女捨てさせてくれ!」

 

「ムリムリムリムリ! 絶対ムリだからっ!」

 

 私は吉乃の肩を無理やり起こす。彼女の顔は切実で、真剣そのものだった。

 

「頼む、澪」

 

「土下座されてもムリなもんはムリだから! なんでお前とセックスしなきゃいけないんだよ!」

 

「ど、どうしてもか……?」

 

「絶対ムリ。というか私を男として見るな」

 

 吉乃は失意の表情で、ガクッと肩を落とした。

 

「そんなあ……」

 

「お前、本気で行けると思ってたのかよ……」

 

「真剣に頼んだら行けると思ってた……」

 

「何が悲しくて処女より先に童貞捨てるんだよバーカ。私だって処女卒業したいんだぞ」

 

「ま、まあそうだよな……」

 

 吉乃は立ち上がり、向かいの席に戻った。まだしょんぼりしている。

 

 私は腕を組み、吉乃を見つめる。ノリの合う最高の親友は、今や私の体を狙ってくるエロ猿になってしまった。

 

「というかお前、男慣れとか関係なく、ただヤりたいだけだろ」

 

「うっ、ば、バレた……?」

 

「バレるに決まってるだろ。お前のことは私が一番よく分かってるんだから」

 

 吉乃は目を見開いた。少しだけ顔を赤くしつつも、嬉しそうに頬を弛ませている。

 

 私は正しく意図が伝わっていない予感がして、一言付け加える。

 

「……親友としてだからな」

 

「わ、分かってるよ」

 

「変な期待するなよ」

 

「分かってるってば」

 

 ……本当に分かってるんだろうか。

 

 私は半年後に手術を受けて、ただの女に戻るのだ。百歩譲って、それまでに吉乃の処女を捨てさせてあげたとして、そこからは元通り親友に戻らなくてはいけない。

 

 絶対気まずくなる。

 

 でも、性欲に脳が支配されている吉乃には、それが分かっていないのだろう。

 

 私は立ち上がる。

 

「今のは聞かなかったことにしてやるから、もう帰ろうぜ。お前ん家でゲームしよう」

 

「お、おう。そうだな」

 

 *

 

 そして、吉乃の家に移動した。彼女の部屋で、並んでこたつに入ってゲームをプレイしている。

 

「あっ」

 

 吉乃と脚が当たった。よくあることだ。普段なら、彼女はすぐ脚をどけるのだが――。

 

「なんでどかないんだよ」

 

「男子と接触してるの嬉しい……」

 

「ほんとキモいなお前!!!!!」

 

「ちょっと脚絡めていい?」

 

「きっしょ!!!!!!!!!!」

 

 私は脚を放す。こたつに入った状態ではあるが、できるだけ身を引いて吉乃から距離を取る。

 

 吉乃はこたつ布団を持ち上げ、中を覗き込む。彼女の目は、私の足部分――黒タイツに包まれたところを見ている。

 

「ほんとごめんだけど、黒タイツエロすぎる。エロい目で見ないのは無理だ」

 

「じゃあもうタイツ穿くのやめようかな」

 

「無駄だぞ。靴下でも同じくらい興奮するから」

 

「カスの両対応やめろ。詰みじゃん」

 

「裸足もエロくて好き」

 

「全狩りすんな! 何も打つ手ないだろそれ!」

 

 私は吉乃が持ち上げている布団をバッと引き下ろし、足を隠す。

 

「もしこの世に『キモい人すぎるよ展』があったらお前が目玉展示だろうな」

 

「『いい人すぎるよ展』みたいに言うな!」

 

「実際キモいだろうが!!!!!」

 

 吉乃はコントローラーを置き、じっと私を見てくる。嫌な予感しかしない。

 

「澪、タイツ触らせてくれない?」

 

「嫌」

 

「お願い、ちょっとだけだから」

 

「ちょっとで済むわけないだろ」

 

 タイツを触らせるだけで大人しくなってくれるなら、まあ触らせてやってもいい。でもコイツは絶対、他の所も触りたいと要求してくる。

 

 だから、絶対触らせちゃダメだ。一度でも許したら、際限なく要求が過激になっていく。

 

 性欲に突き動かされているエロ猿に、エサを与えてはいけないのだ。

 

 **1

 

 澪が帰った直後、私はこたつへ突っ伏した。

 

 ガード硬ったぁ!!!!!!!

 

 ヤらせてくれないどころか、足を触らせてもらうことすら許されないとは。マジの男子みたいなガードの硬さだ。

 

 けどその一方で、並んでゲームする時、肩が触れ合う距離で座ってくるし。めちゃくちゃいい匂いするし。ありえん性欲を刺激してくるし。

 

 生殺しすぎるだろ。

 

 分かってるのか。こっちがどれだけ我慢してるか。どれだけつらい思いをしてるのか。

 

 エロすぎるんだよ。子宮がつらいんだよ。

 

 私は横になる。こたつ布団にくるまり、寝返りを打つと――。

 

 あ、アイツの座ってたところ、めっちゃいい匂いする……。うわ、ヤバい、めっちゃオナニーしたい。

 

 でもなあ……。澪をオカズにするのは、罪悪感あるなあ……。

 

 堂々と合意の上でヤるならともかく、勝手にコソコソオカズにするのは嫌だ。

 

 だから、私はまだ澪をオカズにはしていない。私だって澪との友情を大切に思っているのだ。

 

 **2

 

 現代文の授業。題材は、カフカの『変身』だ。

 

 主人公のザムザは、ある朝目覚めると毒虫になっていた。そんなザムザのことを、彼の家族は疎ましく思い、嫌いになっていく。ザムザは変わらず家族を愛していたが、最後には家族の手によって殺されてしまう。

 

「果たして、本当に変身してしまったのは、誰なのだろうか――という問いを投げかけられる一作です」

 

 教師がそういって、授業は終わった。

 

 本当に、変身してしまったのは……。

 

 私はちらりと吉乃を見る。気の置けない親友だったアイツは、いまや私を狙ってくるようになった。

 

 アイツは変わっていく。私自身は、何も変わらないのに。

 

 ……。

 

 カフカの作品にTSした自分を重ねるの、世界で私だけだろうな。

*1
吉乃視点

*2
澪視点

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