男子「メイクしてあげる!」
吉乃「可愛すぎる。私の彼氏になってほしい」
澪「なるかアホ!!!!!!!!」
「彼氏を作るための作戦会議、略して『彼氏会議』を始めよう」
私はそう宣言した。
放課後の進路室。私と吉乃は、月曜恒例の『彼氏会議』を始める。ただ、いつもと違う点がひとつ。今日は私が議題を持ってきた。
「ということで今日の議題は、インスタだ」
「インスタ?」
先週、私たちは男子と買い物をした。その帰り際「インスタ交換しようよ」と言われたのだが、私と吉乃はどちらもインスタをやっていないせいで交換できなかったのだ。
「私たちは、インスタをやっていなかったせいで男子と繋がる接点をひとつ失った。これは大きな機会損失だ」
「ま、まあそうだな」
「ということで、インスタ始めるぞ。今ここで」
「えっ今!?」
「ああ、今インストールする。スマホ出してくれ」
「ま、マジか。心の準備が……」
「こういうのはノリと勢いだろ」
私たちはスマホを取り出し、インスタをインストールした。
早速アカウントを作り始めたが、一手目でつまずいた。
「なあ澪、アイコン画像ってどうすればいいんだ?」
「普通は自分の顔が映った写真にするらしい」
と言いつつ、アルバムを開いた瞬間、大量のエロ自撮りが表示された。
「あっ」
「どうした?」
「いや、なんでもない」
あっぶな。エロ自撮り見られるとこだった。
私は時々、男の体で制服を着崩したり脱いだりしてエロ自撮りを撮影している。その時の画像が、大量に保存してあるのだ。
「澪、私気付いたんだけどさ、アイコンに使えそうな写真ないわ。オタクは自撮りをしない生き物だからさ」
「あー……また今度いい感じの写真撮ろう。吉乃も手伝ってくれ」
「今じゃダメなの?」
「私いま男だぞ」
「別にいいんじゃない?」
「女の私じゃないと意味ないだろ」
ということで、一旦適当な画像を設定した。吉乃は昔撮った観光地の写真。私は最近通学路で撮った猫の写真だ。
最後にお互いを『親しい友達』リストに入れて、アカウント設定は完了した。
「よし、とりあえずアカウントは作れたな。今日中になんか投稿しよう」
「ソシャゲのガチャ結果とか?」
「ここはツイッターじゃないんだぞ」
「最近食べたラーメンの画像は?」
「映えなさすぎだろ。オシャレなカフェとかじゃないとモテないぞ」
「う~ん、あとはエロゲのスクショくらいしかないな」
「お前もう船下りろ。インスタから出てけ」
「でもインスタって何投稿すればいいの?」
「……今後の課題ということで」
*
ということで彼氏会議を終了し、私たちは行きつけのファミレスに来た。
私が普通に料理を食べていると――。
「澪、一枚撮っていい?」
「ん、いいぞ」
私はウインクしながら横ピースをして、撮影に応じる。
「うわ超可愛い!!!!!」
「ど、どうも」
「でもお前そんなことするキャラだっけ?」
「いや……」
吉乃から訝しげな眼差しで見られて、私は目を逸らした。
実は自撮りで慣れている、なんて言えるはずもない。
「なあ澪、この写真インスタに上げていい?」
「ん、まあ、いいよ」
吉乃は画面を操作し始める。すると――。
「あ、全員が見れる投稿と、親しい友達だけが見れる投稿があるみたいだぞ」
「え、そうなの?」
「うん、一投稿ごとに、どっちにするか選べるみたい」
「いいなそれ。じゃあ親しい友達だけの方で投稿してよ」
「おけ、いま投稿したわ」
私もインスタを開き、吉乃の記念すべき初投稿を見る。
映し出される、美少年の画像。私の姿だ。自分とは思えないくらいキラキラした陽キャ男子高生だった。
そして、投稿文は――「かれぴと放課後デート!」だった。
「誰がかれぴだ!!!!! 消せ!!!!!」
吉乃は満足そうにニヤニヤしながら画面を見つめている。
「澪も私の写真撮って『かのぴとデート』って投稿していいぞ」
「誰がするか!!!!! はよ消せ!!!!!」
――結局消してくれなかった。
そして、ファミレスを出たのだが、急に天気が悪くなってきた。黒々とした雲が空を覆う。日が落ちる時間帯なのもあって、一気に暗くなる。
吉乃は空を見ながら――。
「放課後やけど空暗くなってきた、どういうことや?」
「なんJ民みたいにいうな」
すると――突然大雨が降ってきた。
「うわっ、澪傘ある?」
「折り畳み傘ならある」
私は折り畳み傘を開く。吉乃に近付き、肩を抱き寄せて傘の中へ入れる。
「えっ、い、いいの?」
「当たり前だろ」
「男子と相合傘嬉しい……」
「私は女だって」
元々小さい折り畳み傘をふたりで相合傘しているため、かなり肩が濡れてしまう。私たちは早足で、吉乃の家へ駆けこんだ。
「うわあ肩濡れちゃった、最悪」
「ちょっと待ってて。タオル取ってくる」
玄関で吉乃を待つ。すぐに戻ってきた彼女からタオルを受け取り、濡れた肩を拭く。幸い、頭や胴、脚などは濡れていない。
のだが――吉乃は私を凝視していた。特に、肩のあたりを。
私は自分の肩を見る。水気を帯びたワイシャツがぴったりとくっつき、黒いインナーが透けて見えていた。
「濡れ透けエッッッッッロ」
「見んな!!!!!」
そして、私たちは吉乃の部屋へ移動した。ふたりでこたつに入る。
「暖房付けるわ」
「助かる」
風邪を引かないよう、強めに暖房を付けてくれた。
私は窓の外を見る。勢いのある雨粒で外が白く塗りつぶされ、景色が見えない。ざあざあという雨音が世界を包んでいる。
「雨やまなかったら、帰りデカい傘貸してくれ」
「いいぞ」
「じゃあゲームやるか」
「うん」
と、吉乃は返事をしたものの、動く様子がない。私をじっと見つめている。妙に気恥ずかしくて、私はこたつに深く入って体を隠す。
「見るなよ、変態」
「いやエロすぎるだろお前」
まあ、エロいのは知ってるけど。私も自撮りしてオカズにしてるし。
ともかく、私たちはゲームを始めた。
ガンガン暖房を付けている上に、こたつにも入っているので、風邪を引く心配はない。服もだんだん乾いてきた。
一方、雨は弱まる様子がない。強い雨音がずっと聞こえている。
「澪、今日泊まっていったら? 服の替え持ってるんだし」
私は午前中だけ女なので、女性用制服と下着を持っている。半日しか着ていないので、明日着ても問題はない。けど――。
「嫌だ」
「え~なんでだよ」
「絶対変なこと考えてるだろ」
「そんなことない。澪と一緒にお風呂入りたいだけだよ」
「考えてるじゃねえか。キモいからやめろ」
「お前だけ男の裸見放題なのズルいって。私にも見せてくれよ」
「ムリ」
**1
しばらくゲームで遊んでから、澪は帰った。
私は、澪の座っていたところに座った。こたつへ入って寝転がると、男のエロい匂いが鼻腔を直撃する。
うわ、エッロ。
エロい匂いのせいで、体が昂る。
私は、先ほどの光景を思い起こす。澪のシャツは水気を帯びて体にぴったりと張り付き、肌色と黒いインナーが透けていた。
普段は見れない、澪の下着……。
私はこたつ布団へ顔を埋め、すぅ~~~!と深呼吸した。澪の淫靡な匂いが、脳髄へと直撃する。
理性や罪悪感が、情欲の炎に燃やし尽くされていく。
下腹部が熱を帯びて、つらい。
だめだ。
もうムリ。
ごめん……!
ごめん、澪……!
そして、私は、下半身へ手を伸ばした。
――それから、十数分後。
私は寝転がったまま脱力感に浸り、天井を見上げている。外では相変わらず、大雨が激しい音を立てている。
ヤバい……やっちゃった……。親友オカズにしちゃった……。
ほんとごめん澪……。
でも抜いたらすっきりした……。
ああ……動物たちが住む森や自然を守りたい……。