澪「インスタ始めよう」
吉乃「澪と相合傘嬉しい」
吉乃「親友オカズにしちゃった……ごめん澪……」
「彼氏を作るための作戦会議、略して『彼氏会議』を始めよう!」
放課後の進路室。月曜恒例の彼氏会議が始まる。今日の議題を持ってきたのは吉乃だ。
「ずばり、筋トレをして体育会系になろう!」
「筋トレ?」
「私たちは帰宅部で、ずっとクネクネしているだけ。当然、心も体も貧弱だ。そこで、筋トレをして体を作る。筋肉も付いて、それにより自信と積極性も付き、ついでに健康にもなれる。一石三鳥だ」
「まあ、一旦受け入れるよ。オタクより体育会系の方がモテるだろうし」
「ということで、目指せ陽キャ! 目指せ体育会系!」
といっても、校内に筋トレできるような場所はない。とりあえず私たちは吉乃の家へ移動した。
吉乃の部屋に入る。こたつを部屋の端に寄せ、運動できるスペースを作った。
ただ制服では動きづらい。体操服へ着替える必要がある。私たちはセカンドバッグから学校指定のジャージを取り出した。
「よ、吉乃と一緒に着替えるの初めてだな」
普段、私は進路室で着替えているので、男の状態で一緒に着替えるのは初めてだ。
「あっち向けよ」
「分かった」
吉乃は素直に反対側を向いた。
「振り向くなよ」
「分かってる。フリだろ?」
「違う!!!」
私はブレザーを脱いだ。次に、ベルトに手を掛ける。カチャリと金具の音が鳴った。
吉乃は大人しくじっとしている。妙だ。嫌な予感しかしない。
そして、私はベルトを外し、ズボンを下ろす。瞬間――吉乃が普通に振り向いてきた。
「やると思ったよ!!!!!」
「うおっタイツエッッッッッッロ」
「見るな変態!!!!!」
吉乃は、黒タイツに包まれた私の脚を凝視している。私の言葉など全く届いておらず、夢中で脚を眺めている。
「うわぁ……男子のタイツエロすぎだろ……」
幸せそうに、感慨深そうに、言葉を漏らす吉乃。
長く見られるのも癪なので、私は手早く着替えてしまおうと急いで手を動かす。
ワイシャツのボタンを外していくのだが――上手くいかない。ワイシャツは男女でボタンが逆に付いているため、どうしても男子のシャツは感覚が違うのである。
結果、ゆっくりと脱衣を見せてあげる形になってしまう。吉乃は鼻息を荒くし、ギンギンに目を見開いて私を見ている。
「うわ、エッロ……!!!」
「こんのッ……! 変態がッ……!」
シャツを脱ぎ、黒インナーを晒す。下はタイツ姿のまま。
吉乃は私の姿を上から下まで舐めるように眺める。顔が真っ赤で、完全に興奮状態だ。
私は急いで学校指定ジャージの上下を着た。すると、吉乃は残念そうな顔になる。
「もうちょっと見せてくれよぉ……」
「マジでぶっ飛ばすぞ。というかお前、まさか初めから私の着替え見たくて筋トレしようって言い出したんじゃないだろうな」
「ち、違う。私はただお前とストレッチする時身体が密着したらいいなって思ってて……」
「なおさら不純だろうが!!!!!!」
「できればお前と夜の運動もしたいという思いはあったけど」
「キモさが留まるところを知らないなお前!」
ともかく、私たちは筋トレを始める。腕立て伏せ、スクワット、プランク、そして――。
私は仰向けになり、上体起こしを行う。二十回くらいで限界を迎えた。
はぁはぁと荒い呼吸になり、胸を上下させる。
すると吉乃は、私の胸の辺りを見下ろしてくる。妙に粘着質で熱い視線だった。
「な、なんだよ」
吉乃の目がぎらついている。今にも襲い掛かってきそうだ。
「ちょっとだけ
「ダメに決まってるだろ」
「じゃあ雄っぱいに顔ダイブしたい」
「尚ダメに決まってるだろ」
*
翌日、体育の時間。まず、準備運動を行う。
バービージャンプで上下に跳ねたり、腰を折り曲げて両手を地面に付けたりする。
すると――後ろの方から声が聞こえてくる。
「琴さんエロくね?」「うお尻のラインえっっろ」「後ろから思いっきり抱き着きてえ……」「集中できねえ」「もう誘ってるだろあれ」「眼福だあ……」「頼んだらおっぱい触らせてくんねーかな」
な、なんかクラスの女子たちにまで性的な目で見られてる……。最悪だ……。
すると吉乃が、女子たちに向かって――。
「人として最低だぞお前ら!!! セクハラされる方の気持ちを考えろ!」
「どの口が言ってんだ!!!!!」
吉乃は何のことか分かりませんみたいな顔をしている。ムカつく。
そして準備運動が終わり、ランニングが始まる。決められた回数グラウンドを周回するという授業内容だ。
ちなみにそれが終わると、自由時間として遊ばせてもらえる。みんなサッカーや野球など好きなことをして遊び出すのが恒例だ。
私は数十分掛けてランニングを終えた。あまり運動は得意ではない。男子の体でも女子の体でも、タイムは大して変わらない。
ジャージの袖で汗を拭う。歩きながら呼吸を落ち着けていると――既に走り終わっていた吉乃が近付いてきた。私は手を突き出して、彼女を制止する。
「私いま汗臭いから近寄るなよ」
「え、うん」
吉乃は私から少し距離を置いたところで止まる。
私は自分の体を見下ろす。発汗のせいで、ジャージの中に熱が籠もり、むわっと湯気のように熱気が放出される。
うわあ絶対匂うじゃん、恥ずかしいなこれ……。
すると、吉乃はじぃっと私の体を見てくる。妙に粘着質な視線だった。瞳孔はギンギンに見開かれており、飢えた獣のような威圧感がある。
「澪……」
吉乃は私の名前を呼びながら近付いてくる。
「吉乃?」
「ごめん澪っ! もうガマンできないッ!」
――吉乃に抱き着かれた。
何が起こったのか理解できず、脳が硬直する。
さらに次の瞬間、吉乃が顔面を私の首筋に埋めてくる。彼女は鼻をぴったりと私の首にくっつけ、す~~~~っ!と深呼吸した。
「きゃ~~~~~~~ッ!!!!!」
私は全力で吉乃をビンタした。バチィン!という快音が鳴り、吉乃はふらついた。彼女の頬には、赤い手型が付いている。
「痛ったあ!?!?!?」
「お前っ……! ついにやりやがったな……!」
私は自分の体を抱きしめながら、吉乃を睨む。
今まではなんだかんだ、冗談の範疇で収まるセクハラだけだったのに。遂に、初めて触られた。しかも抱き着かれて匂いを嗅がれた。
「ごめん澪、でももうガマンできなくて……!」
「その瞳孔ギンギンの目やめろ!!!!!」
「頼む、もう一回だけ抱きしめさせて!」
「うわ~~~!!! 来るな変態!!!!!」
私は逃げ出す。授業が終わるまで、私と吉乃の追いかけっこは続いた。
*
帰宅後、私はシャワーを浴びる。吉乃のせいで余計に走ることになったので、だいぶ汗をかいてしまった。
シャワーで汗を流しながら、私は自分の体を見下ろす。吉乃が死ぬほどこの光景を見たがっていると思うと、変な感じがした。
もし吉乃に見せてあげたら、どんな反応をするのだろう。
……。
……。
なんでアイツに見せてあげるところなんて想像してるんだ、私は。
*
さらに翌日。私は吉乃の家に来たが、筋トレはせず普通にこたつへ入った。
「あれ、澪は筋トレしないの?」
「あ~ごめん、普通にゲームしてる方が楽しい」
「そ、そんな!?!?!? 私、もっと澪と筋トレしたい!」
「どうせエロい目で見てくるじゃん」
「そ、そんなことないし」
私が半目で吉乃を睨むと、彼女は目を泳がせた。
「……ま、まあ、たまになら付き合ってやるよ」
「ホントに!?!?!? ありがとう澪!」
「ちょっ、抱き着いてこようとすんな!!!!!」