鋼は錬金術師   作:むつきばな

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ちょっとだけ、前進させる。



九校戦編ですって 2

 

「あらっつぁつぁ~や りびだびりんらば りつたんでぃんらん でんらんど~ わばりっぱ~た~ ぱりっぱり~ばりば りびりびりすてん てんらんど~」

 

じりじりと夏の強い日差しが容赦なく照り付ける中、軽快なリズムで義母を名乗る不審者の故郷の歌を奏でていく。

 

魔法で日差しを和らげて風を起こしているので大分楽ではあるが、やはり暑いものは暑いな。

 

手元のカードをシャッフル。ちょっと格好つけてショットガンシャッフルをやってみるが、これが案外難しい。

 

安物の量産品なのでカードが痛んでも問題はないが、何か悔しいからもっとスムーズに出来るように今度練習しよう。

 

パッパッとカードを配って俺も手札を確認する……おふ。

 

なんとなく勘で選んだ1枚を残し、それ以外をポイしてカードを引き直すが、手札が悪いなぁ。

 

「なんなんだ、その気が抜ける歌は」

 

「日本で一番有名なフィンランド民謡」

 

「日本でフィンランド民謡が流行ったとか聞いた事がないぞ。司波は知ってるか?」

 

「真面目な空気でない時の鋼は常識人の皮を被ったナニカだ。気にせずに流しておけばいい」

 

こいつら酷くね?ネギ振り回してサルミアッキを無理矢理食わせるぞ。

 

「ワンペア」「ストレート」「スリーカード」

 

俺がワンペア、達也がストレート、()()がスリーカードっと。

 

宣言と共に出されたカードを念のために確認するが結果は変わらず、俺の負けである。カード運が無さすぎる、これで五連敗だぞ。

 

カード配っているのが俺だからイカサマとかでもなく、純粋に俺の運が無いってのが悲しいね。

 

「俺の奢りか……んじゃ、適当に買って来るわ」

 

やれやれと立ち上がり、校内にある自動販売機へ向け歩き出す。

 

8月1日、九校戦の会場へ向かうバスの前で行われた飲み物を賭けたポーカー対決は、俺の惨敗という結果に終わるのであった。

 

 

 

⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎

 

 

 

さて、何故に俺と達也に森崎がバスの前でポーカーをしていたかと言えば、原作同様に七草先輩から急な予定が入り集合時間に間に合わないと連絡があったのが発端である。

 

事前に今日から九校戦だとわかっていたはずなのに、それでも七草先輩が急遽駆り出されたって事は相当厄介な用事なのだろう。十師族であっても無下に出来ない相手から面会を申し込まれたとかなのかね?

 

毎度思うけど、七草先輩って次期当主とかではないのに七草家の用事とかにやたら便利に使われてるよね……俺もほとんど会った事ないけど、一応次期当主になっている長男とかにもっとやらせればいいのに。

 

長男次男よりも長女の七草先輩のが優秀だし、七草先輩が対応した方が花があって客からの受けが良いのは理解出来るのだけどさ。

 

七草先輩からどれくらい遅れるか不明だから先に会場へ向かって欲しいと連絡があったそうだが、何故か先に行くか待つかというアンケートが取られ「七草先輩が来るまで待ちますね」が多数となったので待つことに。

 

本人が気にせず先に行けって言ったんだから待たずに先に行けばよかったのに……会場まで雇われたバスの運転手さんもいい迷惑であろう。

 

で、マジでよくわからんのが点呼の係をやってたお兄様こと司波達也である。

 

自分は点呼の係なので七草先輩が来るまで外で待機してます。じゃないんだわ。

 

普通に七草先輩から「待たせてしまう事になって申し訳ない。なるべく早く抜け出せるようにするし、抜け出したらまた連絡を入れます」って返信があったのに炎天下の中でずっと待機しようとするなよ。

 

色々な機材が積まれた技術スタッフ用の車両の中で待っているのが気まずかったのかね?技術スタッフの面々が達也の卓越した技術を学びたい、教えて欲しいって感じで人気になってるとか噂で聞いたし。

 

外で待つにしても七草先輩から連絡が来るまでは日陰とかに居ても良かったと思うのよ。

 

渡辺先輩が止めても聞かないし、炎天下の中でポツンしてる姿を見せられる多くの生徒たちの気持ちも考えて欲しいわ。

 

深雪さんとか露骨に機嫌が悪くなってたぞ?勝手に不機嫌になるなら兄の横に行って熱中症にならないように冷やしてやれよと言いたくてジト目になってしまった俺は悪くないと思う。

 

ある意味真面目、はっきり言ってしまえば融通の利かない馬鹿の姿には呆れるしかなかったので、最初は無視してバスの中で寝ていようかと思っていたのだが、同じく呆れた様子で達也を見ていた森崎によってバスから引っ張り出されたので、仕方なく3人で色々と暇を潰していたのだが……最終的にポーカーで負け続けたので、2人に飲み物を奢らないといけなくなった、と。

 

「しかし、達也と森崎が普通に仲良くなっているとは……世の中って不思議な事が起こるよな」

 

がちゃこんと音を鳴らす自動販売機からペットボトルを取り出しながらしみじみと呟く。

 

まぁ、仲良くなった理由の半分くらいは俺のせいらしいが。

 

実は森崎、春に起きたブランシュ襲撃事件の際に……遠目ではあるが俺がテロリスト共を蹂躙している姿を目撃してしまったらしい。ついでに、西城と千葉妹がテロリストをノシている姿も。

 

バカにして見下していた二科生が自分たちの力だけでテロリストを制圧していた姿を見て、守護する家系(ボディーガード)である自分は何をやっていた?先輩に援護され比較的安全な場所からテロリストを数人倒しただけで浮かれていた自分は何様のつもりで彼らを見下していたんだ、と疑問に思ったらしい。

 

あと、俺の戦闘風景を見てしまって思わず吐いたとか。アレでも加減してたのに酷くない?

 

で、事件後にどうした物かと悩んでいた所を渡辺先輩に捕まり、先輩として悩める後輩の話を聞こうって半強制的に悩み事を吐かされた挙句「うん、達也くんに相談してみたらいいんじゃないか?」とまる投げ。

 

結局森崎は、当たって砕けろの精神で達也に自分のこれまでの態度や言動を謝罪。恥を忍んで教えを乞うたらしい。

 

そこから達也と森崎は何故か「打倒十三束鋼」という謎な……マジで何故に俺が巻き込まれているのかが謎なのだけど、いつか俺を打倒する為に、風紀委員の空き時間などに魔法について意見を交わしたり、組手をしたりする仲になったらしい。

 

意味がわからないのだけど?本当に何で俺が巻き込まれてんの??

 

二人に理由を聞いても「いや、一高で一番戦いたくない相手が十三束()だから」ってどういう意味よ。近接戦闘が主な俺を目標にするとか訳がわからないよ。

 

遠距離からハイパワーライフルでも並べろよ。それだけで俺なんてほぼ勝てるぞ。

 

たまに魔法無しで組手の相手をしてくれって頼まれるようになったし。それについては俺も色々と勉強になるから助かるけどさ。

 

「買って来たぞー、二人ともスポドリとお茶から好きな方を選べー。おや?」

 

ペットボトルを抱えてバスまで戻って来ると、可愛らしいワンピース姿の七草先輩が達也に詰め寄っていて、その光景に森崎が苦笑していた。

 

「なに、これ?」

 

「司波のちょっとズレてるノンデリ発言」

 

「なるほど。いつものか」

 

森崎にペットボトルを渡しながら返って来た答えに納得する。

 

四葉家の偏りまくった教育の弊害なのか、達也は人間関係的な部分では割と素でズレている事を言うのを何度も見てるので今回もソレが出たのだろう。

 

「もう真由美は着いたのか」

 

「いますけど、七草先輩から連絡来てたので?」

 

バスの中から出て来た渡辺先輩によると10分くらい前に「終わった!30分くらいで学校に着きます!!」とメールが来てたらしい。

 

そのメールに今さっき気付いた渡辺先輩は、外にいた俺たちにメールの事を伝えバスの中で待機してた組も飲み物の準備やトイレとかを促そうかと考えた矢先に七草先輩が到着したっぽい。

 

七草先輩、20分近くもまいたって事は送迎の車を相当急がせたんだろうなぁ。

 

「いつまでも達也くんに絡むな真由美。ただでさえ遅れているんだ、さっさと行くぞ」

 

それはそう……うん?

 

七草先輩が俺がいる事に気付いた途端、顔を真っ赤にして横を向いたのだけど?何、その乙女みたいな態度。

 

ほら、余りにもおかしな態度を取るから渡辺先輩や達也に森崎だってどうしたんだ?って顔してますよ。

 

「あー、真由美さん。何かあったんですか?」

 

「なっ、何でもにゃいわ!大丈夫よ!!」

 

えぇ……明らかに何かあった反応ですよね、それ。

 

にゃいわって可愛く噛むくらいテンパってるの珍しいなぁ。本当に何があったのやら。

 

何か知ってるのかって視線を向けて来た渡辺先輩に首を横に振っておく、マジで何も知らんからね。

 

様子がおかしい七草先輩は放って置くとして、全員揃ったので準備して出発するみたいなので技術スタッフ用の車両へ向かおうとする達也にも買って来たペットボトルを渡しておく。

 

これから二時間近くバスの人になるので、念の為トイレへ行きバスへ乗ろうとした所で端末にメールが入っているのに気付く。

 

誰だろ?と思ったら、何と珍しい事にじぃさんからだったのだが……おまっ、さっきの七草先輩の態度はアンタが原因かこのハゲ!!

 

『春の件の褒美だ。先程、七草家当主と同伴させた長女とで会食を行なった。儂と小童に繋がりがある事を仄めかしておいた。小童の好きに使え』

 

元老院でも最上位にいるじぃさんと俺に繋がりがあるって事を十師族の当主に仄めかすなよ!マジでこれが褒美とか何考えてんだよ!?

 

そりゃ七草先輩も九校戦よりそっちを優先させますわ。元老院から長女も連れて来いって指名されたら断れる訳ねぇもん。

 

当主の腹黒タヌキ、呼び出しの知らせを理解した瞬間は血の気が引いて胃が痛くなったんだろうなぁ……元老院からわざわざ娘も連れて来いとか普通はあり得ないし。

 

で、びっくびくで会場に行ったら元老院と俺が知り合いですって知らされた腹黒タヌキが何を思い付いたかくらい容易に想像出来るぞ。

 

『小童は小童らしく、稀には何も気にせず己が望みのまま動いてみせよ』

 

…………マジで余計なお世話だぞ、じぃさん。

 

でもちょっとだけ、うん。

 

本当にちょっとだけ感謝しとこう。

 

俺はじぃさんにメールの返信をすると、バスへと乗り込むのであった。

 

あの……バスに乗り込んだら乗り込んだで、顔が真っ赤なままの七草先輩に服を掴まれ、無言で空いている七草先輩の横の席をぺしぺしされたんですけど。

 

座れと?バスの中にいるほぼ全員から注目されてるこの状況でソコに座れと??

 

躊躇ってたら無言のまま上目遣いでダメ?って顔するの卑怯なのでやめて頂けますかね。普通に可愛い以外の感想が出て来なくて勝てないんですわ。

 

仕方なく七草先輩の隣に座るが、相変わらず顔は真っ赤なままでこちらに視線は向けて来ないのに手だけを差し出された……ニヤァという悪い顔をして覗き込んでいる渡辺先輩を全力で無視して七草先輩の手を握る。

 

周囲の嫉妬やら興味やらその他諸々を含んだ視線は全て無視するが、今から二時間はこのままなのかという事実に少しだけ気が萎える。

 

唯一の救いは、未だにこちらに顔を向けてくれないのに繋いだ手だけはしっかりと握り返している……七草先輩の手の温かさだけであった。

 

 





ハゲ(偉い人)「うむ。これなら小童も喜ぶであろう(ドヤ顔)」


Ievan Polkka、ロウヒのバレンタインの方だから楽曲コードとかいらんよね?いるってなったらなったで、誰の曲でコード書けばいいか困るけど。

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