武術とかやった事ないし、武芸に詳しくないので間違ってても流して貰えると……。
『縮地』とは?
武術の流派によって違うだろうけど、ぶっちゃけてしまえば速く動く、速く動いたように見せるための技術である。
例えば、人間がジャンプするときに膝を曲げたりするなどの予備動作といえる準備が必要であり、そういった予備動作(武術的には『起こり』などとも呼んだりするが)を限りなく簡略化し他者に悟られないようにすれば、予想以上の速さで動き出したように見えたりする。
これは『無拍子』なんて呼ばれたりもする技術で、『縮地』はそれを応用して行う移動方法だ。
人間の眼なんて結構いい加減なので、徐々に加速していくならともかく、速度を0から100に一気に上げられたりすると案外目の前にいたのに見失ったりするのだ。
それにプラスして、先程の模擬戦ではお兄様はミスディレクションのような要素も追加して行っている。
模擬戦を見ていた皆は特化型CADを持つ二科生で1年のお兄様より、汎用型CADを持つ一科生で2年生のはんぞー先輩の方が先に魔法を発動すると思い込んでいた。
普通に考えたら特化型の方が汎用型よりも速く魔法を発動出来るんだが……お兄様の入試の成績とか知ってたから、そこから判断したのかな?
そんな訳で、皆は模擬戦の開始の合図と共に先に魔法を発動するであろうはんぞー先輩の方に意識が向いていたこと。
汎用型のCADは魔法を発動するのにキーを打つ必要があるので、はんぞー先輩はCADのキーを打つために一瞬とは言えお兄様から意識を逸らしたこと。
そのほんの一瞬の隙とも言い辛い瞬間を見逃さず、予備動作の少ない速い動きで移動をしたので皆はお兄様が一瞬ではんぞー先輩の後ろに回り込んだと勘違いをした訳ですわ。
そんな感じなことをつらつらと演習室にいた面々に説明してみるが、納得したという顔としてないって顔が半々くらい。
剣術を習ってる渡辺先輩だったり、実際にやられたはんぞー先輩なんかは納得している様子だが、七草先輩はあんまり納得してない様子。
まぁ、『無拍子』や『縮地』という技術は『マルチスコープ』っていう魔法で多角的に人を視て予備動作を見逃さないようにすることが出来る七草先輩のが逆に引っかかりやすいと思うから仕方ないね。
お兄様?相変わらず若干目を細めて警戒した感じでこっちを見てくるよ。
「そこまで理解しているということは、十三束も出来るのか?」
警戒した感じそのままに、お兄様から質問が来ましたわ。
いくら気になるとはいえ、警戒心をもう少し秘めた方がいいよお兄様。そうそういないと思うけど、武術とか習ってなくても勘が良い子には警戒してるのが伝わっちゃうぞ。
まぁ、今までの境遇を考えてもこの時期のお兄様はまだ切れるナイフみたいというか……四葉家を飛び出したばっかりで警戒心バリバリだから仕方ないんだけどさ。
「山でキャンプしてる時に偶然出会った人……俺はじぃさんって呼んでるご老人に教わったというか、無理矢理叩き込まれたから似たような事は出来るよ。あと、十三束じゃなくて鋼でいいよ、同級生だしね」
素直に答えたのだが、どうやらお兄様は俺の答えは本人的に納得いかなかったらしく未だに視線がちょっと鋭い。
まぁ、普通に考えて『縮地』なんて技術をたまたま出会った老人から教えて貰ったとか言われても信じないわな。
でも、まだ俺に対する警戒は続けているが司波だと妹と被るから達也でいいと言ってはくれた。ついでに深雪さんも名前で呼んでくれて構わないそうだ。
ちなみに、山で偶然出会ったじぃさんに無理矢理叩き込まれたのは事実である。
原作の十三束鋼くんがどうだったかは知らないが、十三束家の親族連中から冷遇されるって状況は人生2度目の俺でも結構なストレスを感じるモノであった。
遭遇する度にチクチク言われたり、俺に聞こえるように陰口を叩いてくる連中があまりにも鬱陶しくて、なるべく家や十三束家の関係する場所にいる時間を少なくしたいと考えた時期があった。
そんな時前世で『ゆ〇キャン』の影響を受けキャンプをしてみたかったけど仕事が忙しくて出来なかったなぁというのを思い出した俺は、家から離れられるし自然の中で過ごすのはストレス解消にも繋がりそうと思い付いた。
キャンプ用品の購入資金については、俺が親族やら何やらに冷遇されたり陰口を叩かれているのを不憫に思ったのか、両親からお小遣いをそこそこ貰えていたので結構いい物を揃えられたし、親族がうぜぇから1人でキャンプしてくるって両親に言ったら申し訳なさそうな顔を浮かべられたが了承してくれた。
まぁ、当時は小学生だったので保護者役というか護衛のような人は付けられたが……これは年齢的に仕方ない。
そんな感じで何度目かのキャンプをしている際に偶然じぃさんと出会い、話をしていたら何やら琴線に触れる部分があったらしく、じぃさんからの提案で武術やら何やらと色々と叩き込んでもらう流れになった。
じぃさん自身は結構忙しい人らしく予定が合えば会うという感じだが、じぃさんから紹介された人とかにキャンプのついでにいまでも色々と教えてもらっている。
なお、じぃさんの名前については聞いてない。
というか、嫌な予感しかしなかったからあえて聞かずに互いに「じぃさん」と「こわっぱ」で呼び合っている。
「こんな山奥でたまたま出会ったんだし、そっちのがロマンがありません?」って言ったらすげぇ渋い顔をされたけど頷いてくれた。
だってさぁ。無駄に威厳がある頭剃ってて左目が白く濁ってる老人なんて……本人かどうかは知らないけど、原作知識を知ってる身からすれば名前なんて聞きたくなかったのだから仕方ない。
近い将来、金髪ドリルのポンコツ娘が養子に来たら嫁にくれません?とか言いたかったが、それを我慢した俺を褒めて欲しいくらいだ。
「さて、これで達也くんの風紀委員入りは確定でいいと思うが……真由美、何故この場に十三束を呼んだのか説明してもらっていいか?」
渡辺先輩の言葉に七草先輩は一度此処にいる全員の顔を眺め、話を始めた。
一科生と二科生の間に差別意識などの大きな溝があり、それを解決したいと生徒会長である七草先輩、風紀委員長である渡辺先輩、部活連の会頭である十文字先輩でこれまで話し合ってきたが、自分達より上の世代はあまり協力的でなかったこともあり、中々成果が出なかったらしい。
まぁ、同じ生徒会に差別意識バリバリのはんぞー先輩がいる辺り本当に成果はないのだろう。
なので、自分たちが最高学年となった今年こそ一科生と二科生の問題を解決していきたいとのことで、その第一歩として二科生でも高い実力を持つお兄様が目に止まり、風紀委員に誘ったらしい。
「それでね、鋼くんは一科生と二科生の差別意識なんてないだろうから、是非とも生徒会か風紀い「却下、拒否します」……ちょっと鋼くん、まだ話の途中なんだけど」
話を遮ったことは悪いとは思うけど、俺が生徒会や風紀委員に入るのは断固拒否したい。
「入学前に誘われた際にもきっぱり断ったじゃないですか」
そう、一高に合格したのを七草先輩に伝えた時に誘われたけど、理由を話した上できっぱりばっさり断ったからまさかまた誘われるとは思ってなかったわ。
生徒会や風紀委員入りしてなくても、相談されればきちんと相談に乗ってるのでそれで満足して欲しいのだけどなぁ。
というか、生徒会は成績的に無理でしょ…一科生ではあるけど、そこまで俺の入試での成績が良いとは思ってないし。
俺に素っ気なくあしらわれた七草先輩を庇うように今度は渡辺先輩が俺に言葉を投げてくる。
「何故だ?校内において差別などない方がいいとは思わないのか、十三束は」
不機嫌そうに言われましても、本来俺や渡辺先輩は差別の是非について語れる立場にいないんですって。
このメンバーで差別についてどうこう言えるのって中条先輩と市原先輩くらいじゃね?はんぞー先輩の服部家も一応百家に近い家だった気がする。
市原先輩に至っては差別された側で、司波兄妹は名字やら何やらを一般家庭に偽装してるけど本質は十師族の四葉家だからね。
「日本の魔法師社会は十師族を頂点とした
本当にこう、どうしてそういう部分にこの人たちは気付かなかったのだろうか。
まだ高校生であるから仕方ない部分もあるとは思うんだが、七草先輩とかは既に十師族としての権力を動かす側だから、こういう視点を持ってない訳ではないだろうに。
「今回、二科生の達也を風紀委員に入れることで一科生と二科生の溝を埋めたいって考え、実行に移した事は良い事だと思いますが。来年以降はどうするつもりなんです?」
まさか、自分達は卒業するから後は任せたって無責任なことにはならないよね?ちゃんと考えて……るといいなぁ。
「今年どれだけ二科生の達也が風紀委員で活躍したとして、来年以降も二科生が達也だけってなったら「あぁ、あの人は特別だから仕方ない」ってなるだけですよ。特に達也の場合は妹である深雪さんが学年主席で生徒会入りしているのですから余計に」
「こういう言い方はあまり好きではないのですが……さっき判明した通り、達也は国や学校側が求める魔法技能以外は優秀な『
普通の二科生って自分たちで座学も学習もクリアしていかないと魔法科高校の卒業資格すら貰えないっていう、学校に毎日登校してるのにやってることは通信制の学校と同じようなことしてるんだからね。
正直な話、二科生で部活に毎日のように参加出来ている人って割と上澄みの方でしょ?本当に成績がギリギリでヤバい人なら部活なんてやってる暇ないだろう。
「一科生と二科生で差別があるって問題をどうにかしたいなら、制服のデザインを揃えてテストとかの成績で一科生と二科生で入れ替えが起きるって
もしくは一科生、二科生制度その物を失くして成績でAクラスから順に所属される実力主義万歳な環境にするかだけど……それはそれで最底辺クラスへの差別が起こるだけか。
そういや、前世で妹と魔法科高校の事を話してて疑問に思ってたことがあるんだけど、ついでだし聞いてみるか。
「というか、そもそも聞きたかったんですが。制服が一科と二科で違ったり、長年にわたり指導教員が足りてない状況が続いているのは、運営である学校側の怠慢や不手際になるのですが」
「これだけ待遇が違う一科生と二科生で、学費は同じ金額を払ってる事実のが実際問題ヤバくないです?」
「同じ金額の学費を払ってるのに待遇に差があって、それを是正しようとする姿勢が学校側にないってのをマスコミやら教育委員会やらに知られて、そこから芋蔓式に生徒間での差別問題まで掘り出されたりしたら……どうなるでしょうね」
「さらに言えば、生徒から学費を取ってるとはいえ、魔法科高校は国立なので運営費の大部分は国からの予算。つまりは税金で賄われてますよね?」
「税金で運営されている組織が適切な運営がされてないのって、割と洒落にならないくらいのバッシングが世間で起こると思うのですが?特に、魔法をよく知らない非魔法師の一般納税者は、魔法師は国防において重要な役割を担ってるって説明をされているから魔法に恐怖はあれど必要だから仕方ないって思ってくれてる部分もあるのに」
「そんな魔法師を杜撰な運営体制で育成してます。運営資金は税金ですって言われて、理解も納得もしてくれる人がどれだけいますかね」
「そういった危機感が学校側にまるでないのに、生徒会や風紀委員がどれだけ問題解決に向けて努力しても、学校側が変える気がないなら何をしても解決出来ないのでは?」
そんな感じで閉めた俺の言葉に全員が暗い顔して俯いてしまっていた。
司波兄妹までもが暗い顔してるって、一体どの部分が刺さったのだろうか?
つか………やべぇ、これ間違いなく言い過ぎたわ。
前々から気になってた部分もあったとはいえ、問題を真剣に解決しようとはしてる人たちに「無駄な事なんでやめたらいいのでは?」って突き付けた感じですよね。
どうしよ、空気がお通夜を通り越して葬式どころか墓に納骨してるわ。
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