ホロウの中で人のGO!を咎めるおじさん 作:究極の出来損ない
郊外寄りの駐屯基地前、脇目も振らずに一心不乱に走ってきた私は、一度走るのを止めて深呼吸を行う。
「すぅぅ・・・やるか」
当に覚悟は決めたが、私の中の怒りは鎮火する事無く轟々と燃え盛り、肉体にエネルギーを注ぎ続けているのを自覚しながらゲート前の守衛に、堂々と姿を曝して歩き出す。
「止まれ。ここは防衛軍の駐屯基地だ。許可のない者は・・・プロト1?」
「軍属番号0506210が報告する。任務は失敗。繰り返す。失敗だ」
「何が起きた?他の隊員は?それにその恰好はどうしたんだ。我々では判断が着かない。駐屯基地に入って佐官以上の者に報告をしろ」
幸いにも、何度か顔を会わせた事のある守衛が、銃口を下げていたアサルトライフルを此方に向けて警告を発するのを両手を、頭上に掲げて後頭部にゆっくりと組み、敵意がないのをアピールして事実のみを告げる。
元より、奴等は生かして帰す訳にいかなかったが、それはこいつらには知る由もないだろう。場合によっては、この基地ごと貴様等にも消えてもらう予定ではあるがね。
知っているにしろ、知らないにしろ。奴等に与するなら後の禍根に成る。
銃口を下げられたが、私の動きを監視しながらゲートを通り過ごさせた守衛から遠ざかり、早朝故に疎らに活動を行う兵士達を通り過ぎてズカズカと基地内の指揮屯所に歩を進めて行く。
「プロト1か。何故、報告と帰投が遅れた。それにその恰好は・・・?」
「守秘義務に抵触する為、報告出来ません。直属の大隊指揮官であるエラルド中佐に直接報告の義務があります。この格好については保護して頂いた方からのご厚意としかお答えは出来ませんな」
好奇の視線を振り切りながら、私の上官に値する大隊の副官に呼び止められ、足を止めて、簡素ながら口頭で報告する。名前は・・・残念ながら忘れてしまった。真面であったのは記憶しているが、生憎接点は最低限であり、良くも悪くも私自身の立ち位置を理解していないだろう。何せ、長年勤めていたエラルドの副官は前々回の共生ホロウ鎮圧作戦時に不慮の事故で戦死したからだ。
・・・こいつは残しても良いかもしれんな。
最悪、武装蜂起した際のメッセンジャー代わりにはなるか。いや、正確には他の防衛軍への警報か。
そんな物騒な事を表情には務めて出さぬ様に気を使いつつ、煮え滾る腸の怒りが、ゴポリとこの考えを肯定する様に蠢いたのを感じた。
「まぁいい。その恰好のまま、中佐殿に会うのは流石に不適切だ。私が中佐殿に取次ぎを行うから、装備を整えて来い。緊急出動も有り得るのにその恰好で報告させると私が叱られてしまう」
困った様にそう話す副官殿に、納得した様に頷きを1つ返して敬礼を行い、踵を返して予備の兵装が保管されている物品庫へと足を進める。
物品庫に寄って装備を整える手段を誤魔化す手間が省けた。お陰で大手を振って武装出来る。サイコウェーブの出力が過去最高潮だろうと、油断も焦りもしない。目的遂行の為に使える物は全て使わせて貰う。
それにしても、あそこに行けばアイツがいるな・・・。アイツが嫌でなければ、私と一緒に来て欲しいが・・・私にとっては今生での初めての友達だ。出来れば一緒に生きていきたい。
◇◇◇◇
周囲からの好奇の視線を振り切り、物品庫に辿り着いた私はさっさと指紋認証で、ドアのロックを解除して内部へと侵入する。幸いな事にボンプや作業機械以外は人気・・・というか人間はいない。
早朝からガヤガヤと、カートに乗り込んだキリッとした目付きのボンプを、三匹のボンプがカートの縁を押して一生懸命爆走している姿を目撃してフッと口角を上げて笑みを溢してしまう。どうやら弾薬や、ガンオイル、液体エーテル燃料入りの密封缶等の雑品を所定位置に運び込んで、往復の時間にまた遊んでいるらしい。
私の目には、こいつらが何時もやっている事だから何気ない日常の一風景なのだが、今日でもしかしたら見納めかもしれないという思いが、ノスタルジックな気持ちにさせてくる様だ。
そして今、私が一番会いたかった相手が、何時も通りに私から背を向けて、精一杯小さな背格好で自分の体より大きな軍用車両をスパナ片手に、オイル塗れになりながら整備をしている。
また、他のボンプの組み立てが間違えていたのか。それは分からないが、正常に車両を稼働させる為にミスに気付いて、大急ぎで分解整備をしていたのだろう。何時もの事ながら、ボンプとは思えない程に器用で、責任感が強い個体だ。
ボンプにしても珍しい配色のモスグリーンのデジタルカモで、目立ち辛い自己主張が激しいボンプという種族柄、派手な装甲色や装飾を大多数の個体が好むのに対し、逆に暗褐色系やシンプルなアクセサリーを好む本ボンプの趣向のせいで、周囲から目立っているある意味頓珍漢な、私の大事な友達の―――――
「ハロー」
抑え切れない思いが、口から漏れ出た。ああ、どうして、本当はもっと普通通りに『何時も通り』に声を掛けるつもりだったのに、漏れ出た私のあいつを呼ぶ声は頼りない程に小さく僅かに震えた。
それだけでもあいつは気づいたのか。車両の下で寝そべっていた体を勢い良く、車両の下へと放り出す様にゴロゴロと転げ出て来て、車両整備中に、引っ掛けない様に伏せていた長い耳をピンと伸ばして私の方へと勢い良く振り向いた。振り向いてくれた。
「ンナッ。ンンンナァァァァァァァッ!!」
(レガリアッ。レガアァァァァァッ!!)
短いあんよをポテポテと動かして、走って来る俺の今生の唯一の友達、ハローが左手に持った使い古したスパナを床に叩きつけて、加速してくる。私は片膝を付いて、彼が私に飛び込んで来るの予想出来ていたので、その勢いのまま懐に飛び込んで来た小さな友人をこの腕の中に抱き締める。
備品は大事に・・・。まあ良いか。
「帰って来るのが遅くなったな。すまないなハロー」
「ンナワタ。ンナナ。ナナンナ」
(帰投予定時刻を過ぎても帰ってこないから、遂にくたばっちまったかと心配したよ。レガ。生きて戻ったから良いさ。心配したよ。何があったのさ)
「話したい事は山程有るが、今は報告に出頭を求められていてね。装備を整えたら直ぐに中佐殿の所へ召喚される。ハロー。時間がないから単刀直入に聞く。何があっても私と一緒に来てくれるか?」
「ンナナン。ンナ、ワッタ!」
(当たり前だよ。ワタシは防衛軍のボンプでもあるけど、その前にレガのたったひとりの相棒だからね!)
「ありがとう。その言葉が、聞きたかった・・・。一番、聞きたかったよ・・・」
眉間に皺が寄り、常ですら目付きが鋭く、ガタイもデカく近寄りがたい雰囲気の私にこうして、屈託のない笑顔で、秒ですら悩む事なく決断してくれた俺の大事な大事な友達。
無垢の信頼を寄せてくれるこの小さなボンプが、今日まで俺を支えてくれたから俺は今も生きている。
状況に流され、自らの良心を押し殺し、良心の呵責から耳を塞ぎ苦悶して、任務を果たして生きる事だけに思考停止をして、心が折れ、諦めかけていた時に隣に座って慰めてくれたこの子がいなければ、俺はとうに命令に従うだけの生きているか死んでいるのか解らない人モドキになり果てていただろう。
声が震え、涙声になるのも構わずにオイル塗れの彼のボディに頬を寄せ、強く抱き締める。ハローは嬉しそうに私の頭をちいさなおててでギュッと抱き締め返してくれた。
目尻に浮かんだ涙を、瞬きで散らし、人肌の様に温かいモッチリした彼のボディから頬を離して、正面からハローの目を見つめ返す。相変わらず、嬉しそうに、ニコニコと笑っているハローの笑顔に私も笑みを返す。
「これからも宜しく頼む。相棒」
「ンナ!ワーーッタ!」
(それはこっちもそうだよ!あーいぼっ!)
彼をそっと床に下ろし、私は浮かれた気分のまま、片手でサイコキネシスを使用して、物品庫の片隅にひっそりと配置されている私専用の鍵付きロッカーを人差し指を自分側にくいっと引き寄せる動作で、中の装備を自分へと引き寄せる。
「ナナン・・・?!」
(ちょっと見ない間にとんでもなくすごい事出来る様になってる・・・?!)
「ハハッ、何、後でちゃんと話すとも。とりあえず以前から使えてた力が強くなったとだけ覚えてくれれば良いさ」
目を見開いて、驚くハローの姿につい可笑しくなり軽く笑って説明する私。よく見てみれば、瞳・・・っていうか全身を使って、床から飛び跳ねながら何故か凄く喜んでいる。さては、これで空中遊泳でも楽しむのを想像したな?
今の出力なら簡単に出来るだろうが・・・、うーむ、この能力増強が、精神の高揚に伴う一時的な物の可能性が高いので、保証できんのだがね。
まあ相棒が喜んでいるなら良いか。
お世話になった雲嶽山の寝間着を脱ぎ捨て、全裸のまま宙に浮かべたままの下着・・・(私はトランクス派だ。)
を手早く着込み、オリーブドラブの古臭いお下がりの戦闘服を着用して、その上から肘、膝のプロテクターを装備して胸部と背部のアーマーを胡坐を組んで座り込んで、相棒の手を借りて装着。
防具面で不備がないのを目視で簡易的にチェックして、周りをグルグルとしてさらに核にした相棒が笑顔で両手で頭上に〇を作ったのを頷いて返答を返した私は、武器類を引き寄せ様として、気付く。
「そういえば相棒。ウィザードって予備はもう無いよな?」
「ナンナナナ」
(昨夜の内に他の基地に行ってたサンプルが返還されてるから1つだけあるよ。やっぱりレガ並みに操作できる人はいなかったみたい)
予備のEBRを両手で抱え、Eパックを両大腿部の外側に着けたダンプポーチと胸部アーマーのマガジンポーチ詰め込めるだけ詰め込んでいた私の質問にシレッとそう返した相棒が指先・・・手を指した先には、他の雑多な物品に紛れる様にウィザードが積み込まれていた。
他に使用者が生まれない再現性のない装備だから、廃棄予定のステーションに放り込まれてやがる・・・。
最悪のプランの場合は、この基地を壊滅させて脱走しなければ成らない為、限界以上に火力が欲しかった私は廃棄予定のウィザードを知らんぷりして背のアーマーに接合させて使用する事にした。
背のアーマーに接合させて、背部から延びるベルトが自動で肩回りに巻き付いて固定完了。
完全に装備が整った私は相棒に頷き、準備が完了した事を伝える。相棒は待ってましたとばかりに、器用に私の体をよじ登り、空けていた左腕に収まった。ハローの小さな体を左腕でしっかりと抱き抱え、薄暗い物品庫を後にする。温かなモッチリボディを抱き締めながら、明るい廊下を二人で歩む。
何が起きても、もう此処へは二度と戻らないと確信しながら。
ハロー
元はレガリアがホロウ内で出会ったボロボロの軍用の整備用ボンプだった。とある作戦中、ホロウ内のエーテリアスの爆発的な増加により所属していた部隊は全滅、このボンプも混乱の最中に襲撃の衝撃により、一時シャットダウンしていたがレガリア率いる救援部隊により九死に一生を得る。その部隊の唯一の生存者であり、記録を受け継ぐ者。
その後、機密保持の観点と保護観察の為、レガリアのいる駐屯基地に所属する。
名前の由来は、ガンダムのハロから取ったのと、レガリアへの最初の言葉がHelloだったためである。自分も大変だったのに、にこやかに挨拶を返して礼を言うボンプに、レガリアは何を思ったのかは・・・。
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