「くそう、こうなったら先生ボコして皆の評価をあげるしかない。あの罵倒は気持ちよかったけど」
何やら不屈の闘志で立ち上がった貞次。彼の目には憎き先生が“品川”に到着したのが見えていた。なので、もう2足歩行許可である。
だというのに自分は未だアリアダスト教導院の橋の上。まあ、問題はないだろう。本気でジャンプすれば武蔵程度なら縦断出来る。この前やりすぎて月に行っちゃった時は本気で焦ったが別に問題なかったのでさっさと“品川”に行くとしよう。
『“武蔵”より市民の皆様に警告です。宮本副長が本気で跳びます――以上』
そんな警告がされる。市民は全員一斉に安全な場所へと避難を開始した。その速度は迅速と言わざるを得ず、一瞬にして武蔵表層から人がいなくなってしまった。
屈伸をやってから気合いを入れて地面を蹴った。
凄まじい爆音とともに階段と橋が爆ぜて粉々の粉みじんになって武蔵全艦を揺らす。それと同時にまさに弾丸と言わんばかりの衝撃を巻き上げながら禿全裸マントが飛翔する。
加速とばかりに空中でバタ足。蹴られた大気で雲がちぎれて武蔵が揺れる。速度は上がる上がる上がる。もはや、何だあれ状態。
股間がスースーして気持ち良い貞次は拳を握る。一瞬にして目の前にいるリアルアマゾネス。それに拳を放った。
「ちょっ!?」
慌てるリアルアマゾネス。アマゾネスの名が聞いてあきれるが貞次相手だとそれも仕方がない。なにせ、こいつ強すぎるのだ。
ワンパンで大抵なんでも解決できるこの規格外相手だとアマゾネス程度だと相手にならない。
ゆえに、オリオトライの判断は迅速だった。弱パンチでも相当やばい。今は更に高速巡航ならぬ跳躍の衝撃もまだ残っているヤバイ。
というわけで剣を前に出す。
剣程度で防げるならば良いのだがそうではない。剣を前に出した瞬間、それを避けるように貞次が軌道を変える。
それに追従して剣を移動させる。また変える、追従。
そう貞次は人の物に攻撃できない。弁償が怖いから。雑草で生活している貞次だ。金がない。バイトは全て断られているのだ。
接客業? 全裸マントそれも禿に接客をやらせろと? では機関部。確かに重宝される。1人で武神並みの働きが出来るのだから。
でも、ハゲな上に全裸。色々とある。テクノヘクセンのアシスタント? アホか。こいつにそんな繊細なことができるわけないだろ。
ゆえに全部断られちゃったのである。金はない。雑草栽培で生きるしかないのだ。その雑草もかなりやばい。
なので、彼には破壊してはならない武器を前に出しておけばその一撃を防げる。高度な心理判断と彼の速度に追従できるだけの高速判断が必要になるが、幸いにもオリオトライには両方あった。
というか磨いた。この生徒を持ってから殴られ続け、今年で三年生。スピード、パワー共にもうあの人狼女王など屁でもないレベル。
下手したら大罪武装でも駄目なんじゃね? とか噂があるこいつ相手に如何に怪我しないでなんとか乗り切れるようになるにはどうしたらいいかと本気で考えた。
あのオリオトライがである。なにせ、初めて殴られた時は一週間は生死の境をさまよったのだ。流石にそうなってしまったらやるしかない。
というか、殴られて全治一週間で済んだのは流石のリアルアマゾネスであると梅組連中は感心したものだった。
「絶対殴る!」
「いやよ!」
「殴る!」
固い決意を胸に頑張る禿全裸マント。もはや千日手である。オリオトライの集中力が切れた瞬間に全てが終わるだろう。
いつまでも続くかに思われた攻防。目的地の事務所など貞次がやって来た際の暴風に巻き込まれて消滅している。
「これが俺の自慢の拳だああああああ!!!」
「ガハッ――」
寸勁発動。鎧通しとも言う。術式など使わずに素の体術で衝撃だけ剣を素通りさせた。吹き飛ぶリアルアマゾネス。
“品川”の事務所跡地一歩手前に堕ちる。そこに待機していた梅組。全員が弱パンチを当てていく。
「良くやったわ。褒めてあげるわよハゲ!」
ノリノリの喜美が貞次の頭をぺしぺし叩きながら言う。
「ふ、ふははは、どうだ!」
「あのリアルアマゾネスを倒すなんて流石ですね」
巫女も褒める。
「いや、自分信じていたでござるよ」
「拙僧も信じていたぞ」
「小生も信じていました」
「カレーですね」
「いやいや、本当君は飽きないよ」
男子組が褒める。
「ふ、ははは! そうだろ! 困ったことがあったらなんでも言っていいぞ。」
もはや絶交宣言だとかそういうのは過去の彼方。
「良し、言質とりましたよ!」
「さすが単純さね」
「自分、本当貞次殿が来てくれてよかったでござる」
ちょろすぎるぞこの男。by梅組一同。
「おいおい、なんだこの状況どうなってんの?」
少年の声に皆が振り向く。悠理は小さく溜め息をついた。
そこにいたのは茶髪に、笑ったような目の、鎖付きの長ラン型制服を着崩した少年。左の小脇には紙袋を二つ抱えて、パンを食いながら歩いてきた。
「トーリ“不可能男(インポッシブル)”葵……」
少年の名を誰かが言った。
「――うん、俺俺。って、何だよ皆、俺、葵・トーリはここにいるぜ?」
彼は笑みを崩すことなく、異様な状況の全てをスルーして葵・トーリは皆の前に来た。凄まじいスルースキルと感心する。
もはや壊滅状態とも言っていい事務所前。いやはや、よくもまあ、ここまでやったものであるが。大事なところはきちんと重力障壁で防いだうえ、貞次も避けていたので問題はない。
どちらかというと教導院前の方が悲惨だ。
「しっかし皆、こんなとこで奇遇だな。やっぱ皆も並んだのかよ!?」
「並んだに決まってるだろ!」
貞次がそう答える。え? と振り返る皆。
「なんだ? みんなして俺の収穫物に興味あんのか?」
しかたねえなとばかりにどこから取り出したのか貞次が紙袋の中身を皆に見せる。
それは本日発売のR元服のエロゲ“ぬるはちっ!”であった。初回限定版で泣かせると有名なエロゲである。まかり間違っても公衆の面前で取り出して良いものではない。
「これ超泣かせるらしくて初回限定が朝から行列でさあ。トーリに並んでもらっててな。ここに来る前に買ってきたんだよ」
「そーなんだよ! 俺、今日帰宅したら涙ボロボロこぼしがらエロいことするんだ!
ほら、点蔵も欲しいだろコレ!? ――ってあれ? 点蔵は? あいつの親父、店舗別特典求めて他の店にも忍者走りで行ってたけと、あいつもそっち行ってんのかな? てか、先生はどーしたんだよー? 先生にも聞いてほしいことがあったんだけど」
「おー、それならここで寝てる」
「なんだよ、だらしねえな」
気絶してるからって言いたい放題である。
「まあ、いいや。てか、貞次お前また全裸かよ。よし、なら俺もっと」
全裸二人爆誕。
「じゃあ、皆聞いてくれ。――明日、俺、コクろうと思うわ」
●
トーリの言葉を聞いた誰しもが、え? という反応。貞次だけが、奇遇だな、俺もだよとか言ってる。だが、すぐに、ああ、と納得に変わる。
そして、皆の中、喜美は乱れていた髪を掻き上げながら、立ち上がると、首を傾げてトーリを見据える。
「フフフ愚弟、いきなり出てきて説明も無しにコクり予告とは、エロゲの包み持ってる人間の台詞じゃないわね。
コクる相手が画面の向こうにいるんだったらコンセントにピー(自主規制)突っ込んでしびれて死ぬといいわ! 素敵!」
「俺はそのつもりだ! 今から楽しみだぜ!」
「あんた、死なないじゃい! それともなに? テクノブレイクでもする気なの! あんた、モロだしの丸出しの全裸で禿な上に死因テクノブレイクとかどんだけ後世に名を残すつもりなのかしらこのハゲは!」
「俺は後世に名を残す男だぜ!」
おそらくいい意味と悪い意味で。
「おいおい姉ちゃん貞次何二人していい空気吸ってんだよ。これは明日コクるからエロゲ卒業のために買ってきたんだぜ?
わっかんねえかな、この俺の真面目なメリハリ具合!」
「フフフ、いい感じで駄目人間だわ愚弟、エクセレント!
さあ、賢姉を相手にコクり練習よ。――相手は誰かゲロしなさい、さあ!」
「馬っ鹿、知ってるだろ? ――ホライゾンだよ」
トーリが告げたその人の名、しかし、それは有り得ない名。
「馬鹿ね」
肩を落として喜美が言った。
十年前、トーリがコクると行っている相手ホライゾンは亡くなった。トーリの嫌いな“後悔通り”で。墓碑だって作られた。それはトーリも解っている。
「解ってるよ。ただ、そのことから、もう逃げねえ。
コクった後、きっと皆に迷惑掛ける。俺、何も出来ねえからな。それに、その後にやろうとしていることは、世界に喧嘩売るような話だもんな」
トーリの言葉に誰も疑問も異論も挟まない。ただ、黙って聞く。
「明日で十年目なんだ、ホライゾンがいなくなってから。皆、憶えてねえかもしんねえけど」
だから、
「明日コクってくる。
彼女は違うのかもしれねえけど、この一年、いろいろ考えてさ、それとは別で好きだと解ったから、――もう逃げねえ」
「じゃあ愚弟、今日はいろいろ準備の日よね。そして、……今日が最後の普通の日?」
「安心しなよ姉ちゃん。俺は何も出来ねえけど、――高望みは忘れねえから」
彼が言葉を終えると彼の肩を叩く貞次の手があった。親指を立ててグッジョブとばかりの笑顔。熱い抱擁を交わす馬鹿二人。
ネーム切りまくりのテクノヘクセン一人。
このカオスな事態が収まったのはなんとか復活したリアルアマゾネスにトーリがぶっとばされてからだった。
●
体育の授業が終わったあとは教室に戻っての座学である。座学であるのだが、梅組の連中は一部を除いて誰一人として真面目に聞いていなかった。
トーリと貞次はエロゲのパッケージ開けてアンケート書いたり特典を相手に喋り倒しているし、シロジロは商人らしく肩に走狗である白狐のエリマキを乗っけて表示枠で商談を行っている。
ネシンバラは小説の原稿を書いている。ナルゼとナイトはネーム書いてるし、ノリキはほぼ寝ている。
クラスの制度として“御高説”という、生徒に説明させる制度があり、それによって自分でやらずに済ませてるせいもあるのかもしれない。何が言いたいかと言えば生徒は教師の鏡ってこと。
今は鈴が御高説している。なにやらトーリが殴られるなら任せとけとか言っていた。
とりあえず御高説の内容をまとめれば、百年後までの歴史を提示する聖譜によって、現実側の神州と異世界側の神州にわかれて、歴史再現してた。
しかし、現実側の神州で南北朝戦争が勃発。帝から神器奪取が決行され、取り返すまでの間に地脈の制御が失われちゃって重奏神州が崩壊、それによって重奏統合争乱に流れ込んでしまった。
結局、神州は降伏し極東と名を改められ、その土地は重奏世界にいた各国に分割されて暫定支配されているのが現状。
だいたいこんな感じである。あと、南北戦争あたりでトーリが騒ぎ出した。それにつられて教室が騒がしくなる。
●
さて、トランプのキングにしか思えない中年の男と旅行鞄を引きずる小柄な少年。教頭兼武蔵王のヨシナオと帝の子供である東は今現在どうしようかと思案中だった。
帝の子である東を迎えにヨシナオが向かってここまで来たは良いのだが教導院に入れないのである。理由は明白、橋と階段がぶっ壊れているからだ。
「どうしましょうか」
「…………」
この原因がわかっているだけに、どうしようもないというか怒り心頭のヨシナオ。そこにやってくる怒りの原因。
「迎えに来ましたぜー、王様と東ー」
「宮本副長!」
そのあまりの悪気のない気軽な声に怒るトランプの王様。
「王様は元気だな、だが、俺の元気さには勝てまい。みよ、俺の息子を!」
「ええい、この変態め!」
「え? え?」
教育に悪いもん東に見せるわけにはいかないヨシナオが東の目をふさぐ。
「とりあえず、さっさと行くぞ」
そんなわけで目をふさいだままレッツゴー。なんとか無事に教室前へ。ヨシナオは早く東を教室に入れるように言おうとして、教室のドアを開けて一瞬で閉じた。
見えたのは笑顔の全裸だ。あんな教育に悪いもん東に見せるわけにはいかない。前門の全裸、後門の全裸。やばい、囲まれた。
「ど、どうしたの教頭先生!? 何かあったの!?」
「何でもない。何でもないよ」
しかし、ヨシナオの気遣いなどお構いなしなのがあの男、葵・トーリである。
「おーい、麻呂ー、麻呂だろ今のよお――。入りたいなら入って来いよー。誰もオマエのこと嫌ってねえしさー」
「あ、こらトーリ、さっきから君、こっち手伝わないで何全裸でやってんのそんなとこで。というか、こんな時に役に立つ貞次はどこいったのよ。あいつがいれば1人でこんな穴どうにかすんでしょ」
いや、逆に穴広げそうだよ。壁なくなれば穴もなくなるとか馬鹿理論で。
「あ? 先生、貞次なら麻呂といたぜ。てか、何か麻呂が教室入りたそうにしてんだけど、照れて入れねぇっぽいんだよ!
アイツいつも痩せたトランプのコスプレしてっから友達いねえし、こういうときの場慣れってもんがないんだよな!
いいかよ皆? 今度から麻呂が一人で寂しく漫画読みながらうつむいてクスクス笑ってたら、恐れずに話しかけてやるんだぞ!」
……あのガキ、今度ブチ殺してやろうか。
と、気がつくと、東が呆然とヨシナオをみていた。
「あれだっけ? 先日ワゴンセールされてたIZUMO製脳トレ系ゲームの“コミュニケーション訓練・寂しい人の友だちづくし”を買い占めて王様の家に箱で送りつけたんだよね?
添付の手紙には“王様は友達がいなくて可哀想過ぎるので、これを友達と思って頑張って下さい・武蔵生徒一同”って、あれ、僕が代筆したんだけどね。王様、今はあれが友達なんだよね。貞次君も友達で買い占めようとしていて骨が折れたよ」
妻がやたら心配した顔をしていた理由がわかってしまった。
もう怒りにまかせてヨシナオはドアを開け放った。そこにいたのは担任の女教師オリオトライ。
ちょっと片付けてるから待ってくれと言おうとして、東がいることに気がついた。
王様は無視して東をさっさと入れて、なあなあで誤魔化すことにした。
そんなわけでヨシナオに何も言わせることなく東をさっさと教室に入れたオリオトライは、さっさとドアを閉めてしまった。
「「…………」」
後ろの全裸は適当に教室に入って行った。立ち尽くす王様。武蔵は今日も平和である。
たぶん続かないと思ってけど、続いてほしい人がいるらしいので更新してみました。
たぶん、この先は続かない気がする。
わかりません。
とりあえず旧作の方の改稿もやるかも。
全ては未定です。リアルが忙しくて。
――以上