ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
朝。
レインは珍しく寝坊していた。
いや、正確には寝坊ではない。
昨夜、地下施設で見つけた手帳を読み込んでいたのだ。
気付けば深夜。
そのまま机へ突っ伏して眠ってしまった。
窓から差し込む朝日が眩しい。
海鳥の鳴き声も聞こえる。
平和な朝だった。
「レインー!」
一階から声が響く。
聞き慣れた声。
母親だった。
「朝ご飯できてるわよー!」
レインは目を擦りながら起き上がる。
「今行くー」
階段を降りると、焼きたてのパンの香りが漂ってきた。
思わず腹が鳴る。
テーブルには父親も座っていた。
既に食べ始めている。
「遅い」
「育ち盛りなんだから」
「寝坊助の間違いだろ」
父親が呆れたように言う。
母親は苦笑していた。
こういう何気ない朝が、レインは案外好きだった。
前世では一人暮らしだった。
忙しかった。
朝食なんてコンビニで済ませることも多かった。
だからこそ今の時間が少し新鮮だった。
「そういえば」
母親がパンを並べながら言う。
「工房作るんですって?」
レインが顔を上げる。
「聞いたの?」
「お父さんから」
母親は父親を見る。
父親は平然としている。
「別に隠すことでもないだろ」
「まぁそうだけど」
母親は少し困ったように笑った。
そしてレインを見る。
「本気なの?」
「本気だよ」
即答だった。
迷いはない。
前世で会社を作った時もそうだった。
やると決めたらやる。
それだけだ。
母親は少し考え込む。
そして。
優しく笑った。
「レインらしいわね」
反対されると思っていた。
だが違った。
母親は最初から応援するつもりらしい。
「ただし」
母親が指を立てる。
「無理はしないこと」
「まだ子供なんだから」
レインは苦笑した。
何歳になっても親は親らしい。
「大丈夫だよ」
「本当かしら」
「多分」
「その返事が一番信用できないのよね」
食卓に笑いが広がった。
その日の午後。
レインは父親と一緒に工房予定地へ来ていた。
港から少し離れた場所。
空き倉庫になっている古い建物だった。
壁は古い。
屋根も少し傷んでいる。
だが。
十分だった。
レインは建物の中を見回す。
頭の中では既に完成図が浮かんでいる。
作業台。
工具棚。
設計机。
材料置き場。
将来的には研究室も欲しい。
夢はどんどん膨らむ。
「顔がニヤけてるぞ」
父親が呆れたように言った。
「仕方ないでしょ」
「未来が見えてるんだから」
「怖ぇこと言うな」
レインは笑う。
だが実際、その気分だった。
工房はまだない。
だが確実に近づいている。
その時だった。
遠くから声が聞こえる。
「レイーン!」
振り返る。
母親だった。
大きな籠を抱えている。
「差し入れ持ってきたわよー!」
父親が苦笑する。
「わざわざ来なくても」
「こういうのは気持ちよ」
母親は胸を張る。
籠の中にはサンドイッチが入っていた。
手作りらしい。
レインは一つ手に取る。
美味かった。
前世の高級レストランより美味い気がした。
不思議だった。
ただのサンドイッチなのに。
「どう?」
母親が聞く。
「美味しい」
素直に答える。
母親は嬉しそうに笑った。
しばらく三人で話をした。
工房のこと。
港のこと。
将来のこと。
何気ない会話だった。
だが。
レインは思った。
こういう時間も悪くない。
世界を変えるのも良い。
技術を発展させるのも良い。
だが。
今この瞬間は二度と戻ってこない。
夕方。
帰り道。
レインと母親は二人で歩いていた。
父親は先に港へ戻っている。
潮風が吹く。
空は赤く染まり始めていた。
母親が不意に口を開く。
「レイン」
「ん?」
「あなたはきっと特別な子なのよね」
レインの足が少し止まる。
母親は前を向いたまま続ける。
「昔からそう思ってた」
「同じ年の子と全然違うもの」
レインは少し苦笑した。
確かにそうだろう。
中身は前世持ちの大人なのだから。
母親は笑った。
「でもね」
そして。
レインを見る。
その瞳はどこまでも優しかった。
「お母さんにとっては普通の息子なの」
レインは黙る。
母親は続けた。
「世界を変えるのもいい」
「夢を追うのもいい」
「工房を大きくするのもいい」
少しだけ間を置く。
そして。
優しく言った。
「でもちゃんと帰ってきなさいね」
「お母さんとの約束」
波の音が聞こえる。
レインはしばらく黙っていた。
その言葉が妙に胸へ残ったからだ。
やがて小さく笑う。
「うん」
「約束する」
母親も笑った。
夕陽が海を赤く染めている。
未来はまだ遠い。
工房もこれからだ。
だが。
レインは知らなかった。
この何気ない約束が。
未来の自分を何度も支えることになることを。
そして。
二度と戻らない幸せな日々の象徴になることを。
まだ知らなかった。