ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
ガープが来島してから数日後。
海軍の英雄はなぜかまだ島に居座っていた。
「なんでまだ帰らないんですか?」
執務室で書類仕事をしていたレインは、目の前でせんべいを食べている老人を見て呆れた。
「暇だからじゃ」
「帰ってください」
「冷たいのう」
ガープは全く気にした様子もない。
まるで自分の家である。
レインは深いため息を吐いた。
そんな時だった。
ガープが何かを思い出したように口を開く。
「そういえばじゃ」
「何ですか?」
「二年前に海軍へ入隊した若いのがおる」
レインは書類から目を離さず返事をした。
「へぇ」
「クザンという男じゃ」
その名前を聞いた瞬間。
レインの手が止まった。
もちろん知っている。
将来、海軍大将『青キジ』と呼ばれる男だ。
だが表情には出さない。
「それが?」
「なかなか筋が良い」
ガープは楽しそうに笑う。
「ワシの弟子にしようと思っとる」
レインは頷いた。
ガープが弟子を取ること自体は不思議ではない。
むしろ当然だろう。
「良いんじゃないですか?」
「じゃろ?」
ガープは満足そうだった。
しかし次の言葉で全てが崩れた。
「だからここで育てようと思う」
「は?」
レインは顔を上げた。
「今なんて言いました?」
「ここで育てる」
「海軍でやってくださいよ!」
思わず机を叩く。
ガープは不思議そうな顔をした。
「何故じゃ?」
「何故じゃじゃないですよ!」
レインは頭を抱えた。
ガープは真面目な顔で指を折り始める。
「軍艦がある」
「ありますね」
「海がある」
「ありますね」
「広い」
「広いですね」
「廃船もたくさんある」
「ありますね」
「完璧じゃろ?」
「全然完璧じゃないです!」
ガープは納得していない。
むしろ名案を思い付いた顔をしている。
そして追い打ちをかけるように言った。
「それにお前さんもおる」
レインは嫌な予感しかしなかった。
「まさか」
「クザンに覇気を教えてやってくれ」
執務室が静まり返る。
レインは天井を見上げた。
「なんでだよ……」
思わず本音が漏れる。
ガープは豪快に笑った。
「見聞色ならお前さんの方が上手そうじゃからな!」
「勝手に決めないでください」
「頼んだぞ」
「だから聞いてください」
話にならない。
するとその時、
コンコン。
執務室の扉が叩かれた。
「失礼します」
入ってきたのはルークだった。
十五歳となった今ではレイン商会の中核を担う存在である。
書類整理、現場管理、職人たちとの調整。
レインの右腕として十分すぎるほど成長していた。
その姿を見た瞬間、レインの脳内に名案が浮かぶ。
「ガープさん」
「なんじゃ?」
「その話、受けても良いですよ」
ガープの顔が明るくなる。
「本当か!?」
「その代わり」
レインはルークの肩を掴んだ。
「こいつもお願いします」
ルークが固まる。
「……はい?」
ガープがルークを見る。
レインは満面の笑みだった。
「ルークです」
「将来の俺の右腕です」
「鍛えてください」
数秒の沈黙。
そして、
「嫌です」
ルークは即答だった。
レインは首を傾げる。
「嫌か?」
「嫌に決まってるじゃないですか!」
ルークは思わず声を上げた。
相手は海軍の英雄である。
嫌な予感しかしない。
「右腕になりたいんだろ?」
「なりたいですけど!」
「じゃあ強くならないとな」
「話が飛躍してます!」
ルークは必死だった。
レインは真顔で続ける。
「強くなりたくないのか?」
「なりたいです!」
「なら決まりだな」
「決まってません!」
ルークは全力で首を横に振った。
しかしガープは面白そうに笑っている。
「ほう」
「なかなか元気な小僧じゃな」
「嫌な予感しかしません!」
ルークは後退る。
だがレインは逃がさない。
肩をしっかり掴んでいた。
「社長!」
「何だ?」
「俺、事務仕事なら頑張ります!」
「知ってる」
「営業も頑張ります!」
「知ってる」
「だから鍛錬は勘弁してください!」
「駄目だ」
即答だった。
ルークの顔から血の気が引く。
ガープは豪快に笑った。
「わっはっはっは!」
「安心せい!」
「死なん程度には加減してやる!」
「死にかける前提じゃないですか!」
ルークは絶叫した。
レインは満足そうに頷く。
これで自分だけ面倒事を押し付けられずに済む。
素晴らしい解決策だった。
たぶん...
「鬼畜ですー!!」
ルークの悲鳴が執務室に響き渡る。
その様子を見ながらガープは上機嫌でせんべいを齧った。
そして数週間後、未来の海軍大将クザンが、この島へやって来る。
それがレインとクザン。
二人の天才が出会う瞬間になることを、まだ誰も知らなかった。