ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
結局、レインとクザンは港の倉庫からロープを持ち出し、どうにかルークの救出に成功した。
風船の束を見つけた時には、既にかなりの高さまで上昇していたため、二人とも少し焦った。
レインが見聞色でルークの位置を把握しながら走り、クザンがロープを投げる。
何度か失敗したものの、どうにか風船の束へ引っ掛けることに成功した。
その後は慎重に引き寄せ、最後はレインが飛び上がってルークの体を抱え、そのまま地面へ着地した。
それから十分後、ルークは鍛錬場の隅で膝を抱えていた。
顔色は真っ青だった。
目にはうっすら涙まで浮かんでいる。
普段は真面目で落ち着いているルークだが、流石に今回は限界だったらしい。
「もう嫌です……」
力なく呟く。
「俺は副社長候補であって、海兵じゃないんです……」
「まだ副社長じゃないだろ」
レインが即座に突っ込む。
「そこですか!?」
ルークは涙目で叫んだ。
「もっと他に言うことありません!?」
「無事で良かったな」
「今言いましたよね!?」
「言ったな」
「絶対思ってないじゃないですか!」
鍛錬場にクザンの笑い声が響く。
「ははは……」
「ルークさん、思ったより元気そうですねぇ」
「元気じゃないです!」
ルークは即答した。
「死ぬかと思いました!」
「大袈裟じゃのう」
ガープが腕を組みながら言う。
その言葉を聞いた瞬間、レインの眉がぴくりと動いた。
「大袈裟じゃないでしょう」
「ん?」
「本当に危なかったんですよ?」
ガープは首を傾げる。
まるで何が問題なのか分からないと言いたげだった。
そして真面目な顔で言う。
「ふむ」
「何ですか」
レインは嫌な予感しかしなかった。
「まだ早かったかのう」
その瞬間レインの額に青筋が浮かんだ。
「早いも何もないでしょう!」
思わず声が大きくなる。
「ただの虐待ですよ!」
鍛錬場が静まり返る。
ルークは何度も首を縦に振った。
「そうです!」
「その通りです!」
「社長、もっと言ってください!」
珍しくレインとルークの意見が完全に一致していた。
ガープは不満そうに頬を膨らませる。
「じゃがのう」
「じゃがじゃないです!」
レインは本気で頭を抱えた。
この男...本当に将来のルフィの祖父なのだ。
そしてレインは知っている。
未来のルフィがどんな目に遭うのかを。
崖から谷底へ突き落とされる。
ジャングルへ放り込まれる。
猛獣だらけの森で生き残れと言われる。
今思えば、とんでもない幼少期である。
正直な話、今回の風船事件などまだ序の口だ。
レインは頭痛を覚えながら空を見上げた。
そして、ふとある疑問が浮かぶ。
(まさか……)
嫌な予感しかしない。
(ドラゴンさんもやらされたのか?)
未来の革命軍総司令官。
世界最悪の犯罪者。
モンキー・D・ドラゴン。
あの男も幼い頃はガープの息子だった。
つまり...当然、ガープに育てられている可能性が高い。
レインは想像してみた。
幼いドラゴン。
その横には若いガープ。
そして、
『強くなれ!』
と言いながら崖から突き落とすガープ。
『強くなれ!』
と言いながら海へ投げ込むガープ。
『強くなれ!』
と言いながら森へ放置するガープ。
……あり得る。
むしろ容易に想像できる。
レインは遠い目になった。
(いや……)
(聞かない方が良いな)
真実を知るのが怖い。
もし予想通りだったら、ドラゴンが革命家になった理由の一つが説明できてしまう。
レインは黙って口を閉ざした。
知らない方が幸せなこともある。
きっとそうだ。
その時だった。
隣でクザンがぽつりと呟く。
「ガープさんって、昔からこんな感じなんですかねぇ」
レインは即答した。
「知らない方が幸せですよ」
ルークも全力で頷く。
「本当にそう思います」
「心の底から同意します」
「今後の人生のためにも知りたくないです」
クザンは苦笑した。
ガープだけが納得していない。
「何じゃお前たち」
「ワシはちゃんと考えてやっとるぞ」
「どこがですか!」
レインとルークの声が綺麗に重なった。
クザンが吹き出す。
「はははは……」
ガープも負けじと笑う。
「わっはっはっは!」
結局、反省する様子は一切なかった。
そんな中、ガープは何かを思い出したように顎へ手を当てる。
「そうじゃ」
嫌な予感しかしない。
レインとルークとクザンの表情が同時に固まった。
ガープは満面の笑みで言った。
「今度は海へ放り込むか」
静寂。
風の音だけが聞こえる。
数秒後。
「やめてください!!」
ルークが絶叫した。
その声は島中へ響き渡った。
「俺、泳げますから!」
「泳げるなら大丈夫じゃな!」
「そういう問題じゃありません!!」
ルークは涙目で叫ぶ。
レインとクザンも全力で頷いた。
「やめた方が良いと思います」
「俺もそう思いますねぇ」
珍しく二人の意見も一致していた。
しかしガープは心底不思議そうな顔をしている。
本当に悪気がないのだ。
それが一番厄介だった。
夕暮れの鍛錬場。
赤く染まる空の下で、海軍の英雄は豪快に笑っていた。
未来の海軍大将は苦笑し。
天才発明家は頭を抱え。
未来の副社長候補は半泣きになっている。
今日もまた賑やかな一日だった。
そしてルークは心の底から思う。
右腕になるというのは、もっと書類仕事をしたり、商談をしたりするものだと思っていた。
少なくとも、空を飛ばされたり、海へ投げ込まれたりするものではない。
絶対に違う。
しかし周囲を見る。
レインは普通に強くなっている。
クザンも楽しそうに修行している。
ガープは当然のような顔をしている。
もしかして、おかしいのは自分なのだろうか。
そんな考えが一瞬だけ頭をよぎった。
だが次の瞬間、
「よし! 明日は崖から飛び降りるか!」
というガープの言葉を聞いて、その考えは綺麗さっぱり消え去った。
やっぱりおかしいのはこの人だ。
ルークはそう確信したのだった。