ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
翌日。
レインとルークは朝から仕事へ戻っていた。
流石に毎日ガープの修行へ付き合っているほど暇ではない。
レイン商会は今や東の海でも有数の企業になっている。
造船依頼は増え続けているし、採掘場や鍛冶場の管理もある。
社長であるレインと、その右腕を目指すルークには山ほど仕事があった。
一方その頃、ガープとクザンは島の外れにある廃船場へ向かっていた。
そこには解体待ちの船が大量に並んでいる。
漁船。
商船。
輸送船。
中には数十年前の古い船もあった。
ガープはその光景を見ると満足そうに頷いた。
「よし」
「何がですか〜?」
クザンは欠伸をしながら聞く。
するとガープは近くにあった古い船へ歩いていった。
そして、
ドゴォォォン!!
拳を叩き込んだ。
船体全体が大きく揺れる。
木片が飛び散る。
クザンは固まった。
「……」
「これじゃ」
「何がです?」
「軍艦バッグじゃ」
聞き慣れない言葉だった。
クザンが首を傾げる。
ガープは再び船を殴った。
バキィッ!!
今度は船体へ大きな亀裂が走る。
「覇気はなし」
「え?」
「悪魔の実もつかってはいかん」
「はぁ」
「拳だけで殴る」
クザンは船を見る。
ガープを見る。
再び船を見る。
「無理じゃないですか〜?」
素直な感想だった。
するとガープは豪快に笑う。
「だから鍛えるんじゃ!」
その日から地獄が始まった。
ひたすら殴る。
とにかく殴る。
船を殴る。
また殴る。
さらに殴る。
クザンの拳は昼頃には真っ赤になっていた。
夕方には皮が剥けていた。
それでもガープは止めない。
「続けろ!」
「痛いですねぇ……」
「慣れる!」
「慣れたくないですねぇ……」
そう言いながらもクザンは殴り続けた。
流石に見込みがあると言われるだけはある。
弱音は吐く。
文句も言う。
だが逃げない。
気付けば日が傾き始めていた。
そして仕事を終えたレインとルークが廃船場へやって来る。
「終わりましたね」
「あとは書類確認だけです」
二人は並んで歩いていた。
その時だった。
視界に飛び込んできた光景を見て、二人とも足を止める。
「……」
「……」
しばらく言葉が出なかった。
廃船場の景色が変わっていた。
いや...消えていた。
大量に並んでいた廃船。
その半分近くが無くなっている。
船首が吹き飛んでいる。
船体が砕けている。
原形を留めていない船まであった。
まるで嵐でも通り過ぎた後のようだった。
レインはゆっくりと振り返る。
「ガープさん」
「なんじゃ?」
「いくら何でもやり過ぎでしょ」
本気だった。
解体予定とはいえ限度がある。
ガープは首を傾げる。
「そうか?」
「そうですよ!」
ルークも思わず叫んだ。
「半分くらい無くなってるじゃないですか!」
「鍛錬しとったらこうなった」
「普通はならないんです!」
レインは頭を抱えた。
すると近くで座り込んでいたクザンが手を上げる。
「お疲れ様です〜」
いつもの気の抜けた声だった。
だが拳には包帯が巻かれている。
レインは眉をひそめた。
「大丈夫ですか?」
「痛いですねぇ」
クザンは苦笑する。
ルークも少し心配そうな顔になる。
「怪我してるじゃないですか」
「まぁ修行ですからねぇ」
クザンはそう言いながら近くの船を指差した。
レインはそちらを見る。
そして少し驚いた。
船体に無数の拳跡が残っている。
小さなへこみ。
細かな亀裂。
何百回、何千回と殴ったのだろう。
その中で一ヶ所だけ。
大きなひび割れが走っていた。
「これ……」
レインが近付く。
クザンは少し照れ臭そうに頭を掻いた。
「さっき出来ました〜」
レインはひびを触る。
思ったより深い。
まだ船を壊すには程遠い。
しかし確かに木材を砕き始めていた。
ガープが満足そうに頷く。
「筋が良い」
「そうなんですか?」
レインが聞く。
「一週間でここまで行けば十分じゃ」
ガープは真面目な顔だった。
「普通なら傷を付けるだけでももっと掛かる」
クザンは照れ臭そうに笑う。
「そう言われると嬉しいですねぇ」
レインは改めてクザンを見る。
拳はボロボロだ。
疲労も溜まっている。
それでも目だけは死んでいない。
むしろ来た時より鋭くなっていた。
(やっぱり凄いな)
後の海軍大将。
その片鱗が少しずつ見え始めていた。
するとガープが突然立ち上がる。
「よし!」
嫌な予感しかしない。
レインとルークとクザンが同時に身構えた。
ガープは満面の笑みを浮かべる。
「明日から量を倍にするぞ!」
静寂。
数秒後。
「えぇ〜……」
クザンが心底嫌そうな顔をした。
ルークも引き攣った笑みを浮かべる。
レインは空を見上げた。
どうやらこの島の平和は、まだしばらく戻ってこないらしい。
そして翌日、廃船場から再び轟音が響き始めるのだった。