ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
夜だった。
島は静寂に包まれている。
昼間はあれだけ賑やかだった港も、今は波の音しか聞こえない。
家々の明かりも消え始めていた。
皆が眠る時間。
だが。
レインの一日は終わっていなかった。
「……よし」
小さく呟く。
窓の外を確認する。
父親も。
母親も。
既に眠っている。
レインはそっと部屋を抜け出した。
床が軋まないよう慎重に歩く。
玄関を開ける。
夜風が頬を撫でた。
少し冷たい。
だが嫌いじゃない。
むしろ心地良かった。
誰もいない夜の島。
秘密基地へ向かう少年。
少しだけ冒険している気分だった。
洞窟へ辿り着く。
草を掻き分ける。
暗い通路を進む。
巨大な鉄扉の前へ立つ。
今ではすっかり見慣れた光景だ。
それでも毎回胸が高鳴る。
ここには未来が眠っている。
誰にも知られていない。
世界政府すら知らない。
八百年前の技術。
その欠片が。
ここにある。
鉄扉がゆっくり開く。
低い振動音。
青白い灯り。
地下施設は今日も静かに動いていた。
レインは自然と笑う。
「ただいま」
誰もいないのにそう言った。
地下施設中央。
レインは自分専用の机へ向かう。
もちろん元々あったわけではない。
廃材を拾い集め、自分で組み立てた。
小さな作業台。
ノート。
工具。
設計図。
まだ子供の秘密基地みたいなものだった。
だが。
レインにとっては世界一大切な場所だった。
机の上には新しいノートが置かれている。
レインはゆっくり表紙を開いた。
そこには文字が書かれていた。
『レイン研究録』
前世でも似たものを作っていた。
アイデア帳。
事業計画書。
技術資料。
成功した経営者ほど記録を残す。
思いつきは忘れる。
だから書く。
それがレインの習慣だった。
レインはペンを走らせる。
『目標』
・発電機試作
・照明開発
・通信技術研究
・飛行機開発
・古代技術解析
書きながら笑ってしまう。
どれも今の自分には途方もない目標だった。
だが。
不可能とは思わない。
前世でもそうだった。
会社だって最初は無理だと言われた。
それでも作った。
なら今回も同じだ。
一歩ずつ進めば良い。
レインは古代手帳を開く。
何度も読んだページ。
だがまだ理解できない部分が多い。
数式。
構造図。
理論。
その中で。
最近気になるものがあった。
発電装置だ。
地下施設が今も動いている理由。
八百年経っても止まらないエネルギー。
意味が分からない。
だが面白い。
レインは紙へ図を書き始めた。
歯車。
回転軸。
発電機構。
前世知識を思い出しながら形にしていく。
気付けば時間を忘れていた。
「……ん?」
ふと顔を上げる。
地下施設の壁が目に入った。
青白い光。
規則正しく流れる配線。
機械。
金属。
そして。
その向こうに眠る未来。
レインは静かに呟いた。
「絶対作ってやる」
飛行機を。
通信網を。
未来を。
誰かのためではない。
世界のためでもない。
ただ。
面白いから。
作りたいから。
それだけだった。
気付けば夜明けが近かった。
レインは大きく伸びをする。
肩が痛い。
首も痛い。
完全に集中しすぎていた。
前世でもよくあったことだ。
何かに夢中になると時間を忘れる。
レインは机を片付ける。
ノートを閉じる。
古代手帳も元の場所へ戻す。
そして地下施設を後にした。
家へ戻る。
静かに玄関を開ける。
誰にも気付かれない。
そのはずだった。
「おはよう」
声がした。
レインの身体が固まる。
恐る恐る振り向く。
そこには。
母親がいた。
笑顔だった。
だが。
目だけ笑っていない。
「レイン?」
「はい」
「どこ行ってたの?」
「散歩」
即答だった。
母親は頷く。
「そう」
「夜中から朝まで?」
「……」
沈黙。
母親はため息を吐く。
「最近寝不足よね」
「気のせい」
「目の下にクマできてるわよ」
「気のせい」
「絶対気のせいじゃないわ」
レインは目を逸らした。
まずい。
これはまずい。
父親なら誤魔化せる。
だが母親は無理だ。
妙な勘の良さがある。
母親はしばらくレインを見つめていた。
やがて小さく笑う。
「何してるかは聞かない」
レインは少し驚く。
「聞かないの?」
「聞いても教えてくれないでしょ?」
「まぁ」
「でしょうね」
母親は苦笑した。
そして。
レインの頭を優しく撫でた。
「でもね」
その声は優しかった。
「無理だけはしないこと」
「ちゃんと寝ること」
「ちゃんとご飯食べること」
「それがお母さんとの約束」
レインは少しだけ黙る。
前世にはなかった感覚だった。
心配してくれる人。
待っていてくれる人。
それが少しだけくすぐったかった。
「……うん」
「約束する」
母親は満足そうに笑った。
窓の外では朝日が昇り始めている。
レインは知らない。
この約束を。
未来の自分が何度も思い出すことになることを。
そして。
この平和な日々が永遠ではないことを。
まだ知らなかった。