ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
ガープという災害が去ってから一週間が経った。
ようやくレイン商会には平穏な日々が戻ってきていた。
朝になれば仕事をし、昼は現場を回り、夕方には鍛錬をする。
そんな規則正しい毎日である。
「平和ですねぇ……」
執務室で書類を整理していたルークが、しみじみと呟いた。
「そうだな」
レインも頷く。
最近は悲鳴も聞こえない。
空から人が降ってくることもない。
廃船場から爆発したような轟音が響くこともない。
実に平和だった。
「社長」
「何だ?」
「俺、最近普通に仕事ができることへ感謝するようになりました」
「分かる」
レインも本気で同意した。
あの二か月は色々とおかしかったのである。
すると、その時だった。
プルルルルル。
執務室に置かれた電伝虫が鳴き始める。
「電話か」
レインは書類から顔を上げ、受話器代わりの電伝虫を持ち上げた。
「もしもし、レイン商会です」
『私だ』
低く落ち着いた声が響く。
レインは一瞬だけ眉をひそめた。
どこか聞き覚えがある。
そして電伝虫の表情を見る。
眼鏡。
鋭い目つき。
独特の威厳。
レインは思わず固まった。
「……まさか」
『気付いたか』
「センゴク大将?」
『うむ』
即答だった。
隣にいたルークが目を見開く。
海軍大将。
海軍最高戦力の一人である。
そんな人物から電話が掛かってくるとは思わなかった。
『突然ですまんな』
センゴクは落ち着いた声で続けた。
『まずは礼を言わせてくれ』
「礼ですか?」
『ガープとクザンがお世話になった』
レインは納得する。
どうやらその件らしい。
『ガープから報告は受けている』
「報告したんですね」
『珍しく真面目な報告だった』
「珍しいですね」
思わず本音が漏れた。
電話の向こうでセンゴクが苦笑した気配がする。
『あとガープから伝言だ』
嫌な予感しかしない。
「何でしょう?」
『すまん』
「それだけですか?」
『それだけだ』
レインは頭を抱えた。
どう考えてもセンゴクに怒られたのだろう。
そして謝罪だけ押し付けてきたに違いない。
「まあ、元気そうなら何よりです」
『元気過ぎて困っておる』
センゴクが疲れたように答える。
妙に説得力があった。
ルークも無言で頷く。
その気持ちは痛いほど分かる。
するとセンゴクが話を続けた。
『ガープから散々言われたと思うが』
レインは嫌な予感しかしなかった。
『私も海軍へ入ってほしいと思っている』
レインは危うく叫びそうになった。
(お前もか!)
心の中で全力で突っ込む。
しかし相手は海軍大将である。
流石に飲み込んだ。
『もっとも』
センゴクが続ける。
『半分は冗談だ』
レインは少し安心した。
だが次の瞬間、
(半分かよ!)
と再び心の中で突っ込んだ。
残り半分は本気らしい。
全然安心できない。
「申し訳ありませんが、今のところその予定はありません」
『だろうな』
センゴクはあっさり頷いた。
どうやら無理に勧誘するつもりはないらしい。
レインは少しだけ安心する。
するとセンゴクは話題を変えた。
『そこで一つ提案がある』
「提案ですか?」
『海軍本部へ来てみないか?』
レインは瞬きをした。
「海軍本部ですか?」
『うむ』
センゴクの声には興味が混じっていた。
『ガープから色々聞いてな』
『君の商会のこと』
『技術のこと』
『そして強さのこともだ』
レインは苦笑する。
あのガープのことだ。
余計なことまで全部話していそうだった。
『実は私だけではない』
センゴクは続けた。
『コング元帥も君へ興味を持っている』
今度はレインが驚く番だった。
海軍元帥。
海軍最高責任者。
その人物が自分に興味を持っているという。
流石に予想外だった。
「俺なんかにですか?」
『十二歳で商会を経営し』
『東の海で名を上げ』
『ガープが絶賛し』
『クザンを鍛えた少年だ』
『興味を持たない方がおかしい』
確かにそう言われると反論しづらい。
レインは少し考えた。
海軍本部。
いつか見てみたいと思っていた場所ではある。
世界最大の軍事組織。
海軍の中枢。
そして数々の強者が集まる場所。
悪い話ではなかった。
「見学みたいなものですか?」
『そう思ってくれて構わん』
センゴクは答える。
『もちろん無理強いはしない』
レインは少し考えた後、頷いた。
「それくらいなら」
『来てくれるか』
「はい」
電話の向こうでセンゴクが笑った気がした。
『助かる』
『日程はこちらで調整しよう』
「分かりました」
そして最後に、センゴクが付け加える。
『迎えは軍艦を出す』
「ありがとうございます」
『ガープに任せておこう』
その瞬間、レインは即答した。
「それだけはやめてください」
沈黙。
数秒後、電話の向こうから笑い声が聞こえた。
『理由を聞いても?』
「島が壊れます」
即答だった。
ルークも全力で頷く。
『なるほど』
センゴクは納得したらしい。
『善処しよう』
「ぜひお願いします」
電話が切れる。
執務室に静寂が戻った。
レインは大きく息を吐く。
ルークも椅子へもたれかかった。
「社長」
「何だ?」
「海軍大将って思ったよりまともですね」
「ガープさんと比べるな」
レインは即座に突っ込んだ。
比較対象がおかしいのである。
だが、海軍本部か。
レインは窓の外を見る。
東の海のさらに向こう。
世界の中心。
どうやら次の目的地が決まり始めたらしい。
そしてその頃、海軍本部では――
「また断られたぞ」
センゴクがため息を吐く。
その向かいではガープがせんべいを齧っていた。
「わっはっはっは!」
「当然じゃろ!」
「お前が散々勧誘した結果だろうが!」
センゴクの怒鳴り声が部屋に響く。
だがガープは笑うばかりだった。
海軍本部もまた、今日も平和ではないらしい。