ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
海軍本部へ向かう航海は順調に進んでいた。
リヴァース・マウンテンを越え、グランドラインへ入ってからも大きな問題は起きていない。
海王類こそ何度か見かけたが、おつる中将率いる軍艦へ近付いてくることはなかった。
そして数日後、
「見えてきましたよ!」
見張りの海兵が大声を上げる。
その言葉に船上が少し慌ただしくなった。
レインも船首へ向かう。
ルークと父も後ろから付いてきた。
やがて、水平線の向こうに巨大な影が見え始める。
最初は小さかった。
しかし軍艦が近付くにつれ、その全貌が明らかになる。
巨大な城壁。
無数の建物。
要塞のような構造物。
そして数え切れないほどの軍艦。
東の海では決して見られない光景だった。
ルークが口を開ける。
「でか……」
父も思わず息を呑んだ。
「これが海軍本部か……」
レインも言葉を失う。
前世の記憶で知っていた。
海軍本部が巨大な施設だということも。
世界最大級の軍事拠点だということも。
しかし実際に見るのと知識で知っているのでは全く違う。
圧倒的だった。
東の海で最大規模を誇るレイン商会の工房や港ですら、小さく思えてしまう。
レインは巨大な防壁を見上げた。
「何人で建設したんだ……」
最初に出た感想がそれだった。
ルークが呆れた顔になる。
「そこですか?」
「そこだろ」
レインは真面目な顔で答える。
「これだけの石材を運ぶだけでも大変だぞ」
「普通は規模に驚くんです」
「俺は建設方法が気になる」
「職業病ですね」
完全に職業病だった。
すると隣のおつるが小さく笑う。
「ガープから聞いていた通りだね」
「何がです?」
「普通の人とは見る場所が違う」
レインは少しだけ恥ずかしくなった。
しかし気になるものは仕方がない。
巨大なクレーンが欲しいな。
石材運搬用の設備も欲しい。
そんなことばかり考えてしまう。
軍艦はゆっくりと港へ入っていく。
すると周囲の海兵たちがざわつき始めた。
「あれがレイン商会の社長か?」
「本当に子供じゃないか」
「十二歳らしいぞ」
「クザンを鍛えたって噂は本当なのか?」
「ガープ中将が仰っていた来た天才だろ?」
ひそひそと話し声が聞こえてくる。
ルークが苦笑した。
「もう噂になってるんですね」
「ガープさんがいる時点で諦めろ」
レインは遠い目をした。
あの人が黙っているはずがない。
やがて軍艦が港へ接岸する。
縄が投げられ、固定作業が始まった。
その様子を見ながらレインは周囲を観察した。
軍艦の数が異常だ。
東の海で見る軍艦とは大きさも質も違う。
船体の厚み。
砲門の数。
補強材の配置。
どれを見ても本部所属の船だと分かる。
「なるほどな……」
思わず呟く。
「東の海の軍艦と比べて構造が違う」
「気付いたかい?」
おつるが少し驚いた顔をした。
「強度を重視している」
「グランドライン仕様だな」
「その通りだよ」
おつるは感心したように頷いた。
僅かな観察だけでそこまで見抜く者は少ない。
やはり技術者としての才能は本物らしい。
そんな話をしているうちに桟橋へ人影が現れた。
海兵たちが一斉に敬礼する。
その様子だけで相手の立場が分かる。
一人はアフロ頭の男。
眼鏡を掛けた厳格そうな顔。
そしてもう一人は前世、漫画で見慣れた人物だった。
「センゴク大将」
レインが呟く。
センゴクは笑みを浮かべた。
「ようこそ海軍本部へ」
軍艦が完全に接岸する。
レインたちはタラップを降りた。
するとセンゴクの隣に立っていた男が一歩前へ出る。
威圧感が違った。
ガープともセンゴクとも違う。
まるで巨大な山がそこに立っているような感覚。
レインは一瞬で理解した。
この人が...海軍の頂点。
「初めまして」
レインは軽く頭を下げる。
男はレインを見下ろしながら言った。
「君がレイン君か」
低く重い声。
海軍元帥コングだった。
その瞬間、ルークの背筋が伸びる。
父も緊張した表情になる。
だがコングはレインを見ながら静かに笑った。
「話は聞いている」
「ぜひ一度会ってみたかった」
レインは内心で少し驚く。
海軍元帥自ら出迎えに来るとは思わなかった。
その横でセンゴクが苦笑した。
「元帥が待ちきれなかったんだ」
「おい」
コングが睨む。
センゴクは肩を竦めた。
どうやら事実らしい。
レインは少しだけ笑った。
海軍の頂点というからもっと堅苦しい人物を想像していた。
だが思ったより人間味がある。
もちろん威圧感は桁違いだが。
「長旅で疲れただろう」
コングが言う。
「まずは休むといい」
「ありがとうございます」
レインは素直に頭を下げた。
そして改めて海軍本部を見上げる。
巨大な要塞。
世界最強の軍事組織。
数え切れない強者たち。
東の海では見たことのない世界が目の前に広がっていた。
技術者として。
経営者として。
そして一人の人間として。
胸が高鳴る。
ここには自分の知らないものが山ほどある。
そんな予感がしていた。
海軍本部編。
その幕が今、上がろうとしていた。