ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
海軍本部へ到着した翌日。
レインたちは、本部内に用意された宿舎で朝を迎えていた。
窓の外からは、既に海兵たちの訓練する声が聞こえてくる。
まだ朝早い時間だというのに、海軍本部は活気に満ちていた。
東の海では見られない光景である。
ルークは窓際に立ちながら外を眺めていた。
「流石は海軍本部ですね」
感心したように呟く。
「朝からあんなに人が動いてるなんて……」
父も窓の外を見ながら頷いた。
「世界中から海兵が集まる場所だからな」
「東の海とは規模が違う」
一方、その頃のレインはというと、既に机へ向かっていた。
紙と鉛筆を広げ、何やら図面を書いている。
ルークが呆れたような視線を向けた。
「社長」
「何だ?」
「旅行先でも仕事ですか?」
「違う」
レインは顔を上げる。
「昨日見た軍艦の構造を思い出してる」
「やっぱり仕事じゃないですか」
「違う」
「違いません」
そんなやり取りをしていると、部屋の扉がノックされた。
コンコン。
「入るぞ」
聞き覚えのある声だった。
扉が開く。
そこに立っていたのはセンゴクだった。
「おはようございます」
レインたちは立ち上がる。
センゴクは軽く手を上げた。
「そんなに固くならなくて良い」
「よく眠れたか?」
「はい」
レインが答える。
センゴクは満足そうに頷いた。
「それなら良かった」
そして少し笑みを浮かべる。
「今日は海軍本部を案内しようと思う」
その言葉にルークの目が輝いた。
父も興味深そうな表情を浮かべる。
海軍本部見学。
普通なら一生経験できないことだ。
しかし、
「ドックはありますか?」
レインだけ反応が違った。
センゴクが一瞬固まる。
「……あるぞ」
「見たいです」
即答だった。
ルークが頭を抱える。
「社長」
「何だ?」
「普通は訓練場とか本部施設じゃないんですか?」
「軍艦の方が気になる」
「でしょうね!」
ルークはため息を吐いた。
父も苦笑する。
センゴクは肩を震わせながら笑った。
「ガープの言う通りだな」
「何て言ってたんです?」
レインが聞く。
センゴクは即答した。
「船を見せれば機嫌が良くなる」
レインは否定できなかった。
結局、最初の目的地は巨大ドックになった。
海軍本部の港を抜ける。
途中ですれ違う海兵たちは、皆忙しそうに動いていた。
補給品を運ぶ者。
訓練へ向かう者。
会議へ向かう将校。
東の海では見たことのない規模で人が動いている。
そして数分後、目的地へ到着した。
レインは思わず立ち止まる。
言葉が出なかった。
広い...とにかく広い。
目の前には巨大なドックが広がっていた。
何十隻もの軍艦が並んでいる。
修理中の船。
補給中の船。
建造途中の船。
どこを見ても軍艦ばかりだった。
「でか……」
レインが呟く。
ルークも同じだった。
「これは凄いですね……」
父も圧倒されている。
センゴクはその様子を見て満足そうだった。
「海軍本部最大のドックだ」
「常時数十隻の軍艦を整備している」
レインは既に歩き出していた。
吸い寄せられるように軍艦へ近付いていく。
そして船体を見上げる。
厚い船板。
補強材の配置。
砲門の数。
帆の構造。
船首の形状。
その全てを目で追う。
「なるほど……」
思わず声が漏れる。
「東の海の軍艦より船体が厚い」
センゴクが眉を上げた。
「分かるのか?」
「分かります」
レインは船体を軽く叩いた。
「補強も多いですね」
「グランドライン仕様だな」
「その通りだ」
センゴクは感心する。
レインはさらに観察を続ける。
「航続距離も長そうだ」
「補給量が違う」
「長期航海前提ですね」
「その通りだ」
再び正解。
センゴクは苦笑した。
僅か数分見ただけでここまで見抜く者は少ない。
やはりガープの報告は間違っていなかった。
一方、その頃、周囲の整備兵たちはざわついていた。
「あれがレイン商会の社長か?」
「本当に子供じゃないか」
「十二歳らしいぞ」
「クザンを鍛えたって聞いた」
「ガープ中将が絶賛してた奴だろ?」
噂は既に広がっている。
しかし本人は全く気付いていなかった。
軍艦しか見ていないからだ。
ルークが苦笑する。
「社長」
「何だ?」
「見られてますよ」
「そうか」
興味がないらしい。
再び軍艦へ視線を向ける。
ルークは呆れた。
父も苦笑するしかない。
そんな時だった。
レインの足が止まる。
視線の先には建造途中の軍艦があった。
他の船とは少し構造が違う。
まだ骨組みの段階だ。
しかしレインはじっと見つめている。
センゴクが気付いた。
「どうした?」
レインは建造中の船を指差した。
「あの船」
「うむ」
「設計した人、かなり優秀ですね」
センゴクが驚く。
まだ骨組みしか完成していない。
普通なら何も分からない。
しかしレインは続けた。
「重量配分が綺麗です」
「速度も出したい」
「でも安定性も捨てたくない」
「そんな設計ですね」
センゴクは黙る。
レインはさらに続けた。
「恐らく以前の設計で問題があったんでしょう」
「だから船尾側を改良している」
数秒の沈黙...
そして、
「正解だ」
センゴクは苦笑した。
レインの予想はほぼ当たっていた。
ルークと父が驚いた顔になる。
「骨組みだけで分かるんですか?」
ルークが聞く。
「分かるだろ」
レインは当然のように答えた。
「分かりませんよ」
即座に否定された。
センゴクも同意だった。
そんな人間は普通いない。
するとレインの目が輝いた。
「その人に会えますか?」
「設計者か?」
「ぜひ」
完全に技術者の顔だった。
その様子を見てルークが呟く。
「本当に船が好きなんですね……」
父も頷く。
「昔からこうなんだ」
センゴクは少し考えた。
そして静かに口を開く。
「面白いな」
「何がです?」
レインが首を傾げる。
「海軍本部へ来た人間は、大抵強い海兵や将校へ興味を持つ」
センゴクはレインを見る。
「だがお前は違う」
「そうですか?」
「軍艦しか見ていない」
レインは少し考えた。
そして真面目な顔で答える。
「強い人は鍛えれば増やせますが...」
センゴクが目を細める。
「ほう」
「でも良い船を作れる人は少ないです」
レインは建造中の軍艦を見る。
「船は人を運ぶ」
「物を運ぶ」
「世界を繋ぐ」
「だから良い船を作れる人は凄いと思うんです」
センゴクはしばらく何も言わなかった。
なるほど...この少年は根本から違う。
強さを求める人間ではない。
何かを作る人間だ。
だからこそ十二歳で会社を興した。
だからこそガープも気に入ったのだろう。
センゴクは小さく笑った。
「コング元帥が喜びそうな話だな」
「そうなんですか?」
「ああ」
センゴクは意味深に頷いた。
レインはまだ知らない。
近いうちに行われる元帥との対談が、自分の将来について考えるきっかけになることを。
そして海軍本部には、まだまだ多くの出会いが待っていた。
未来の大将たち。
世界を動かす英雄たち。
そして後に歴史へ名を刻む者たち。
海軍本部編は、まだ始まったばかりだった。