ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第百十五話「海軍造船部」

 

巨大ドックの見学を終えた後も、レインの興味は尽きなかった。

 

目の前に広がる軍艦の数々。

 

グランドライン仕様の船体構造。

 

東の海では見たことのない設計思想。

 

どれもが新鮮で、技術者としての好奇心を刺激していた。

 

レインは建造中の軍艦を振り返りながら呟く。

 

「やっぱり気になるな……」

 

センゴクが苦笑した。

 

「まだ見足りんのか?」

 

「見足りません」

 

即答だった。

 

「設計した人に会ってみたいです」

 

その目は本気だった。

 

ルークは額に手を当てる。

 

「社長、本当に船のことしか考えてませんね」

 

「失礼だな」

 

「失礼じゃありません」

 

父も横で苦笑していた。

 

「昔からこうなんです」

 

「船を見ると周りが見えなくなる」

 

センゴクは思わず笑った。

 

ガープから聞いていた話そのままだったからだ。

 

「分かった」

 

センゴクは頷く。

 

「そこまで言うなら案内しよう」

 

レインの表情が一気に明るくなった。

 

その様子は、とても東の海で名を馳せる商会社長には見えない。

 

ただ純粋に船が好きな少年だった。

 

一行は巨大ドックの奥へ向かう。

 

港周辺とは違い、この辺りは技術者や整備兵の姿が多かった。

 

大量の木材が運ばれている。

 

鉄材を積んだ荷車が行き交う。

 

至る所で金槌の音が響いていた。

 

レインは歩きながら周囲を見回す。

 

それだけでも面白かった。

 

「凄いな……」

 

思わず声が漏れる。

 

「どうした?」

 

センゴクが聞く。

 

「人の数です」

 

レインは辺りを見渡した。

 

「これだけの軍艦を維持するには、船大工だけでも相当な人数が必要でしょう」

 

「当然だ」

 

センゴクは頷く。

 

「海兵だけでは海軍は成り立たん」

 

「船を造る者」

 

「修理する者」

 

「補給する者」

 

「そういう人間も必要だ」

 

レインは納得した。

 

前世で会社を経営していた経験もある。

 

組織は前線だけでは動かない。

 

裏で支える人間がいて初めて成り立つのだ。

 

そして数分後。

 

目的地へ到着する。

 

大きな建物だった。

 

入口には、

 

【海軍本部造船部】

 

と書かれている。

 

レインの目が輝いた。

 

「おお……」

 

思わず声が漏れる。

 

ルークが呆れた顔になる。

 

「子供みたいですね」

 

「十二歳だからな」

 

レインは真顔で返した。

 

ルークは反論できなかった。

 

確かにその通りである。

 

建物の中へ入る。

 

すると目の前に広がったのは、無数の机と図面だった。

 

壁一面に貼られた設計図。

 

積み上げられた資料。

 

大型模型。

 

そして忙しそうに働く技術者たち。

 

海軍本部の頭脳とも言える場所だった。

 

その中の一人がセンゴクへ気付く。

 

「センゴク大将」

 

男は慌てて立ち上がった。

 

周囲の技術者たちも一斉に姿勢を正す。

 

「忙しいところ悪いな」

 

センゴクはそう言うと、隣のレインを見た。

 

「今日は客を連れてきた」

 

技術者たちの視線が集まる。

 

そして、

 

「……子供?」

 

誰かが呟いた。

 

当然の反応だった。

 

レインはまだ十二歳。

 

どう見ても少年である。

 

「まさか」

 

「レイン商会の?」

 

「東の海の社長か?」

 

徐々にざわめきが広がる。

 

噂は既に海軍本部へ届いていた。

 

世界最年少社長。

 

東の海で急成長を続けるレイン商会。

 

ガープ中将お気に入りの天才少年。

 

しかし、実際に見ると想像以上に若い。

 

「本当に十二歳なのか?」

 

「社長には見えんぞ」

 

「クザンを鍛えたって本当か?」

 

周囲から声が上がる。

 

ルークは苦笑した。

 

レイン本人はというと。

 

既に別のことへ意識が向いていた。

 

壁へ貼られた設計図である。

 

「ほう……」

 

小さく呟く。

 

そのまま一枚の図面の前で立ち止まった。

 

そして眉をひそめる。

 

技術者の一人が気付いた。

 

「どうした?」

 

レインは図面を指差す。

 

「この補強材です」

 

「うん?」

 

「強度は上がりますけど、重くなりませんか?」

 

その場の空気が変わった。

 

技術者たちが顔を見合わせる。

 

レインは続けた。

 

「船首側へ重量が寄り過ぎている気がします」

 

「そのままだと速度が落ちませんか?」

 

沈黙。

 

技術者たちの表情が変わる。

 

それは今まさに議論になっていた問題だった。

 

まだ正式な結論は出ていない。

 

当然、外部へ漏れているはずもない。

 

「何故分かった?」

 

年配の技術者が聞いた。

 

レインは首を傾げる。

 

「図面を見れば分かりますよね?」

 

「分からん」

 

即答だった。

 

周囲の技術者たちも一斉に頷く。

 

レインの方が驚いた。

 

「え?」

 

「え?」

 

変な空気になる。

 

ルークが頭を抱えた。

 

いつもの光景だった。

 

レインにとって当たり前のことは、他人にとって当たり前ではない。

 

それを本人だけが理解していないのである。

 

技術者たちは改めて図面を見る。

 

そして気付く。

 

確かに言われてみれば、その通りだった。

 

「なるほど……」

 

「言われてみれば……」

 

「だから試験結果が悪かったのか」

 

レインはさらに図面を見る。

 

「あと船尾側も変えました?」

 

今度は技術者たちが固まった。

 

「何故分かる?」

 

「前の設計だと安定性が足りないですから」

 

「改良したんですよね?」

 

完全に正解だった。

 

センゴクが思わず苦笑する。

 

ガープから報告は聞いていた。

 

だが実際に見ると想像以上だった。

 

技術者たちも同じだった。

 

先程まで子供扱いしていた目が変わる。

 

明らかに技術者を見る目になっていた。

 

すると年配の技術者が聞いた。

 

「坊主」

 

「はい?」

 

「誰に教わった?」

 

自然な疑問だった。

 

十二歳でここまで見抜くのは異常である。

 

レインは少し考えた。

 

「船大工の基礎は父です」

 

父が驚く。

 

「俺か?」

 

「そうですよ」

 

レインは頷いた。

 

「鍛冶は島の師匠です」

 

「設計は独学ですね」

 

今度は技術者たちが固まる。

 

独学。

 

それが一番おかしい。

 

「独学だと?」

 

「はい」

 

「嘘だろ……」

 

誰かが呟く。

 

すると別の技術者が口を開いた。

 

「トムと知り合いらしいな」

 

その言葉に周囲が反応する。

 

トム。

 

その名を知らない船大工はいない。

 

ロジャーの船を造った伝説の船大工である。

 

レインは頷いた。

 

「はい」

 

「何度かお会いしました」

 

「教わったのか?」

 

「いえ」

 

レインは首を横に振る。

 

「船造りを教わったわけじゃありません」

 

「ただ、相談に乗ってもらったことはあります」

 

それだけで十分だった。

 

技術者たちが再びざわつく。

 

「本当に知り合いだったのか……」

 

「驚いたな」

 

「なるほどな」

 

空気は完全に変わっていた。

 

先程までの子供扱いはない。

 

そこにいるのは同じ技術者だった。

 

その時、

 

ドゴォォォォン!!

 

突然、建物全体を揺らす轟音が響いた。

 

ルークが飛び上がる。

 

「何だ!?」

 

しかし技術者たちは慌てない。

 

「ああ」

 

「また始まったか」

 

「今日も元気だな」

 

そんな反応だった。

 

レインは首を傾げる。

 

「何です?」

 

すると技術者の一人が苦笑した。

 

「訓練場だ」

 

「最近、とんでもない若手がいる」

 

レインは少し興味を持った。

 

見聞色を広げる。

 

遠く。

 

訓練場の方向。

 

強大な気配が一つ。

 

思わず目を細める。

 

(強いな……)

 

すると技術者が続けた。

 

「名前はサカズキ」

 

「将来、大物になると言われている海兵だ」

 

レインは窓の外を見る。

 

まだ姿は見えない。

 

だが、確かに強い。

 

海軍本部。

 

やはり面白い場所らしい。

 

そして、その出会いが近付いていることを、まだ誰も知らなかった。

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