ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
朝食。
レインは盛大に欠伸をしていた。
眠い。
とにかく眠い。
昨夜は地下施設で発電装置の解析をしていた。
気付けば夜明け。
そのまま帰宅。
そして母親に捕まった。
完全敗北だった。
「レイン」
「んー?」
「パン落ちるぞ」
父親が呆れたように言う。
レインは慌てて口を閉じた。
危うく朝食のパンを落とすところだった。
眠気が限界だった。
父親はそんな様子を見て苦笑する。
「だから夜更かしするなって言っただろ」
「言ってないじゃん」
「今言った」
「ずるい」
父親は笑った。
その時。
母親がお茶を持ってくる。
レインは一瞬だけ視線を逸らした。
今朝の件がある。
少し気まずい。
だが母親は何も言わなかった。
いつも通りだった。
それが逆に怖い。
「レイン」
「はい」
思わず姿勢が良くなる。
母親は微笑んだ。
「ちゃんと寝た?」
「寝た」
「何時間?」
「……」
沈黙。
父親が吹き出した。
「はははは!」
レインが睨む。
父親は腹を抱えて笑っていた。
「正直だなぁお前」
「笑い事じゃないんだけど」
「いや面白い」
母親は呆れたようにため息を吐く。
「あなたも笑ってないで注意してください」
「はい」
父親は素直に頷く。
だが笑いは止まらない。
レインは不満そうだった。
朝食後。
父親と二人で工房予定地へ向かう。
古い倉庫。
これからレイン工房になる場所だ。
まだ掃除も終わっていない。
木材も足りない。
工具も少ない。
だが。
レインには既に完成形が見えていた。
作業場。
設計室。
研究スペース。
将来的には試作品置き場も欲しい。
夢は膨らむばかりだった。
「しかし」
父親が歩きながら言う。
「母さんには敵わんな」
レインが顔を上げる。
「突然どうしたの?」
父親は苦笑した。
「今朝の話だよ」
レインの顔が少し引きつる。
「聞いてたの?」
「聞こえてた」
終わった。
レインは心の中でそう思った。
父親は笑いながら続ける。
「お前さ」
「完全に誤魔化せてると思ってただろ」
「まぁ」
「母さんは最初から気付いてるぞ」
レインは足を止めた。
「え?」
父親は肩を竦める。
「最近夜中にいなくなることも」
「朝帰りしてることも」
「寝不足なことも」
「全部な」
レインは絶句した。
完全犯罪だと思っていた。
全然だった。
父親は笑う。
「母さんを舐めるな」
「俺も昔から勝てたことない」
「そんなに?」
「そんなにだ」
即答だった。
しばらく歩く。
海風が吹いていた。
父親は空を見上げる。
「でもな」
少し真面目な声だった。
「母さんはお前が何してるか大体分かってると思うぞ」
レインは驚いた。
「分かるわけないでしょ」
地下施設。
古代技術。
未来。
普通なら想像もできない。
だが父親は首を振った。
「内容は分からなくてもな」
「何かに夢中になってることは分かる」
「無理してることも分かる」
「だから心配してる」
レインは黙った。
母親の言葉を思い出す。
『ちゃんと寝ること』
『ちゃんとご飯食べること』
世界を変えろとも。
成功しろとも。
言われていない。
ただ健康でいてほしい。
それだけだった。
父親は少し笑う。
「まぁ俺も心配してるけどな」
「そうなの?」
「当たり前だろ」
「お前息子だぞ」
レインは少しだけ嬉しくなった。
前世にはなかった感覚だった。
応援してくれる人。
心配してくれる人。
待っていてくれる人。
それは思っていた以上に大きな支えだった。
工房予定地へ到着する。
父親は古い倉庫を見上げた。
「さて」
「今日から忙しくなるぞ」
レインも倉庫を見る。
まだ何もない。
だが。
確実に未来へ近づいている。
レイン工房。
その第一歩。
そして。
世界を変える技術者への第一歩でもあった。
父親は笑う。
「ただし」
「今夜はちゃんと寝ろ」
「母さんとの約束だからな」
レインは苦笑した。
「分かったよ」
そう答えながらも。
頭の中では既に新しい発明のことを考えていた。
父親はそんな息子を見て呆れたように笑う。
「やっぱ母さんには敵わんな」
海風が吹く。
青空の下。
レイン工房の物語が、ゆっくりと動き始めていた。