ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
翌朝。
レインたちは宿舎の食堂で朝食を取っていた。
海軍本部へ来てから数日。
本来ならそろそろ東の海へ帰る準備を始める頃である。
ルークがパンを齧りながら言った。
「今日こそ平和だと良いですね」
「そうだな」
父も頷く。
昨日は元帥室でガープが乱入してきた。
もう何が起きても驚かない気がする。
レインも同意しようとした。
その時だった。
バァン!!
食堂の扉が勢いよく開いた。
レインは頭を抱える。
聞き覚えのある音だった。
「レイーーーン!!」
やはりだった。
ガープである。
「おはようございます」
レインが諦めたように言う。
「おう!」
ガープは満面の笑みだった。
嫌な予感しかしない。
「何か用ですか?」
「案内じゃ!」
「嫌です」
即答だった。
ルークも頷く。
「嫌です」
父も頷く。
「嫌だな」
三人とも息が合っていた。
ガープが固まる。
「何でじゃ!?」
「昨日言いましたよね?」
「言ったのう!」
「だからです」
正論だった。
しかしガープは諦めない。
「安心せい!」
胸を叩く。
嫌な予感が増した。
「今日はまともじゃ!」
三人とも黙った。
信用できない。
全く信用できない。
そんな様子を見たガープは不満そうだった。
「本当じゃ!」
「本当ですか?」
「本当じゃ!」
レインは少し考える。
どうせ断っても無駄だろう。
ガープは諦めない。
それはこの数か月でよく理解していた。
「分かりました」
「行きます」
「おお!」
ガープは嬉しそうだった。
まるで孫を遊びに連れていく祖父である。
数十分後、レインたちは海軍本部の訓練区域へ来ていた。
広大な敷地。
そこでは数多くの海兵たちが訓練を行っている。
掛け声。
剣戟の音。
砲撃訓練の音。
海軍本部の活気が伝わってくる。
すると、
「違う!」
大きな声が響いた。
全員の視線がそちらへ向く。
一人の男が海兵たちへ指導をしていた。
筋骨隆々の体格。
短い紫色の髪。
鋭い眼光。
腕も両方健在だ。
レインは見た瞬間に理解した。
強い。
ガープとも違う。
センゴクとも違う。
戦い慣れた猛者特有の雰囲気がある。
「おお!」
ガープが手を振る。
「ゼファー!」
男が振り返る。
そしてガープを見る。
「ガープか」
低く落ち着いた声だった。
ガープは豪快に笑う。
「久しぶりじゃのう!」
「昨日も会っただろう」
「細かいことは気にするな!」
ゼファーはため息を吐いた。
レインは少し笑う。
まともな人らしい。
ガープはレインの肩を掴む。
そして、
「ゼファー!」
嫌な予感。
「こいつ強いぞ!」
「やめてください」
レインが即座に突っ込む。
しかしもう遅かった。
ゼファーの興味がこちらへ向いている。
「ほう」
その視線がレインを見据える。
圧力があった。
見られているだけなのに緊張する。
「君がレイン君か」
「はい」
レインは頭を下げる。
「レインです」
ゼファーは頷いた。
「話は聞いている」
「クザンがお世話になった」
「あれはクザンさんが頑張っただけですよ」
ゼファーは少し笑った。
謙遜するタイプらしい。
悪い印象ではない。
すると、
「どうだ」
ゼファーが言う。
「軽く組手でもしてみるか」
レインが固まる。
やはりそうなった。
ガープが大喜びする。
「おお!」
「良いのう!」
「楽しそうじゃ!」
完全に他人事だった。
ルークが小声で呟く。
「社長」
「何だ?」
「頑張ってください」
「他人事だな」
「他人事です」
レインはため息を吐いた。
断る理由もない。
むしろ興味はあった。
目の前の男がどれほど強いのか。
知ってみたい。
「お願いします」
ゼファーが頷いた。
周囲の海兵たちも集まってくる。
「組手?」
「相手はあの子供か?」
「レイン商会の社長だぞ」
「十二歳だろ?」
ざわめきが広がる。
クザンもいつの間にか来ていた。
「面白そうっすね」
サカズキも遠くから見ている。
ボルサリーノまでいる。
「怖いねぇ〜」
完全に見世物になっていた。
訓練場中央。
レインとゼファーが向かい合う。
「いつでも来い」
ゼファーが言う。
その瞬間、レインの姿が消えた。
剃。
そして武装色。
流桜。
今出せる全力だった。
周囲の海兵たちが目を見開く。
「速い!」
「十二歳だぞ!?」
レインの拳がゼファーへ迫る。
しかし、ゼファーは動かない。
最小限の動きだけで躱す。
レインは驚く。
見えている。
完全に見切られている。
さらに追撃。
蹴り。
拳。
肘。
全て避けられる。
届かない。
全く届かない。
ゼファーは静かに言った。
「凄いな」
「十二歳とは思えん」
レインは嬉しくない。
褒められている場合ではない。
一発も当たらないのだ。
見聞色を最大まで広げる。
未来を読む。
それでも避けられる。
捌かれる。
圧倒的な経験差。
圧倒的な技量差。
レインの額に汗が浮かぶ。
そして理解した。
強い。
今まで会った誰よりも。
いや、コングやガープと同じ領域だ。
ゼファーは僅かに踏み込んだ。
その瞬間、世界が変わる。
速い。
見えた。
だが身体が追い付かない。
ドン!!
鈍い衝撃。
レインの身体が吹き飛ぶ。
地面を転がりながら受け身を取る。
周囲が静まり返った。
勝負あり。
誰の目にも明らかだった。
レインは立ち上がる。
悔しい。
だが不思議と清々しかった。
ゼファーは歩み寄る。
そして手を差し出した。
「十二歳としては規格外だ」
レインはその手を握る。
ゼファーは続けた。
「だが焦る必要はない」
「お前はまだ十二歳だ」
「十年後が楽しみだな」
レインは苦笑した。
負けた。
完敗だった。
だが得るものは大きかった。
世界は広い。
東の海では見えなかった景色がある。
ガープ。
センゴク。
コング。
そしてゼファー。
まだまだ上がいる。
レインは空を見上げた。
もっと強くなりたい。
もっと技術を磨きたい。
もっと世界を知りたい。
そんな思いが自然と湧いてくる。
海軍本部への旅は、まだ終わっていなかった。