ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第百二十五話「ガープの看板」

 

五千万ベリーの賞金首騒動が一段落した翌日。

 

海賊たちは海軍によって連行され、島にもようやく平穏が戻っていた。

 

工房では職人たちが仕事を再開し、商会も通常業務へ戻りつつある。

 

そんな中、レインは事務室で腕を組みながら考え込んでいた。

 

机の上には一台の電伝虫。

 

その視線は部屋の窓の外へ向いている。

 

正確には、港の入り口付近に立っている巨大な看板だった。

 

そこには大きくこう書かれている。

 

『この島は海軍中将モンキー・D・ガープが認めた島である』

 

初めて見た時から思っていた。

 

恥ずかしい。

 

とにかく恥ずかしい。

 

「社長、何を見てるんですか?」

 

書類を抱えたルークが部屋へ入ってくる。

 

レインは窓の外を指差した。

 

ルークは一瞬で理解したらしい。

 

「ああ」

 

それだけだった。

 

「『ああ』じゃないだろ」

 

「気持ちは分かりますよ」

 

ルークは苦笑する。

 

「でも、あれのお陰で海賊が近付かなかったのも事実ですし」

 

「ぐっ……」

 

反論できない。

 

実際、今回襲ってきたのは五千万ベリーの賞金首だった。

 

普通の海賊ならガープの名前を見ただけで逃げる。

 

レイン自身、それは理解していた。

 

理解しているのだが。

 

やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。

 

「一応聞いてみるか」

 

レインは電伝虫を手に取った。

 

「誰にです?」

 

「本人」

 

ルークは嫌な顔をした。

 

数秒後。

 

電伝虫が鳴り始める。

 

プルルルルル。

 

プルルルルル。

 

数回鳴った後、繋がった。

 

『おう!』

 

いきなり大声だった。

 

レインは少しだけ顔をしかめる。

 

「ガープさん、お久しぶりです」

 

『レインか!』

 

『どうじゃ!』

 

『海軍に入る気になったか!』

 

「なってません」

 

即答だった。

 

『ちぇっ』

 

向こうで本気で残念そうな声が聞こえる。

 

レインはため息を吐いた。

 

「今日は別件です」

 

『何じゃ?』

 

「そろそろ看板外してもいいですか?」

 

沈黙。

 

数秒。

 

いや、十秒近く沈黙が続いた。

 

そして、

 

『なぜじゃ!!』

 

案の定だった。

 

レインは耳を押さえる。

 

「うるさいです」

 

『なぜ外すんじゃ!』

 

「恥ずかしいからです」

 

『何がじゃ!』

 

「全部です」

 

レインは即答した。

 

「普通に考えてください」

 

「港へ帰ってくるたびに、自分の島へガープさんの名前が書かれた看板が立ってるんですよ?」

 

『良いことじゃろ!』

 

「良くありません」

 

『良いことじゃ!』

 

全く話が進まない。

 

ルークは隣で肩を震わせている。

 

笑いを堪えているらしい。

 

レインは思わず額を押さえた。

 

しかし、その時だった。

 

ガープが珍しく真面目な声を出した。

 

『レイン』

 

「……何ですか?」

 

『お前さんは強い』

 

レインは少し驚いた。

 

いつもの調子ではない。

 

『東の海なら敵はいないじゃろう』

 

『今の賞金首も倒した』

 

『じゃがな』

 

ガープは少し言葉を切った。

 

『お前さんが島におらん時はどうする?』

 

レインが黙る。

 

『海軍本部へ来た時もそうじゃ』

 

『また別の場所へ行くこともあるじゃろう』

 

『その時に海賊が来たら誰が守る?』

 

事務室が静かになった。

 

ルークも笑うのをやめている。

 

確かにその通りだった。

 

今回だって、自分があと数日遅れていたらどうなっていたか分からない。

 

『看板は万能じゃない』

 

『五千万の馬鹿みたいな海賊には効果が薄いかもしれん』

 

『じゃが、無いよりはあった方がマシじゃ』

 

『少なくとも普通の海賊は避ける』

 

『それだけでも十分意味がある』

 

レインは反論しようとした。

 

しかし、言葉が出てこない。

 

悔しいことに、全部正論だった。

 

ルークが小さく呟く。

 

「珍しいですね」

 

「珍しいな」

 

父もいつの間にか部屋へ来ていた。

 

そして頷く、

 

「今回はガープさんが正しいと思うぞ」

 

味方がいない。

 

レインは思わず天井を見上げた。

 

しばらく悩んだ末に、観念したようにため息を吐く。

 

「……分かりました」

 

『おお!』

 

「看板はそのままにしておきます」

 

『うむ!』

 

『素直でよろしい!』

 

その言葉にレインの額へ青筋が浮かんだ。

 

悔しい。

 

非常に悔しい。

 

海軍本部ではゼファーに負けた。

 

実力ではまだ及ばないと理解している。

 

それは仕方ない。

 

だが、今日のこれは違う。

 

口論で負けた。

 

しかも相手はガープである。

 

それが何より悔しかった。

 

「ガープさん」

 

『何じゃ?』

 

「俺、いつかあなたを超えますからね」

 

電伝虫の向こうで笑い声が響く。

 

『ぶはははは!』

 

『面白い!』

 

『なら超えてみせい!』

 

『楽しみにしとるぞ!』

 

通信が切れた。

 

部屋には静寂が残る。

 

レインは窓の外を見る。

 

港の入り口。

 

相変わらず巨大な看板が立っている。

 

やはり恥ずかしい。

 

だが、今は認めるしかない。

 

あの看板は島を守っている。

 

だからこそ、いつか本当に必要なくなる日を作ろう。

 

ガープの名前が無くても誰も手を出せない島。

 

そのためには、もっと強くならなければならない。

 

もっと技術を磨かなければならない。

 

レインは静かに拳を握った。

 

ガープを超える。

 

その目標がまた一つ増えたのだった。

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