ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第百二十六話「医学」

 

ガープとの電話から数日後。

 

レイン商会は再び忙しい日々を送っていた。

 

工房では職人たちが船の修理を行い、ルークは各所を走り回りながら仕事をこなしている。

 

五千万ベリーの賞金首騒動による被害もほぼ復旧し、島にはいつもの活気が戻っていた。

 

そんなある日の午後、レインは珍しく工房にも事務室にもいなかった。

 

「社長どこ行ったんだ?」

 

ルークが辺りを見回しながら呟く。

 

父は苦笑した。

 

「あそこだろ」

 

視線の先、商会の二階にある資料室だった。

 

ルークが扉を開ける。

 

すると案の定、部屋の中央にある机へ向かい、レインが真剣な顔で本を読んでいた。

 

周囲には大量の書籍が積み上がっている。

 

造船。

 

航海術。

 

数学。

 

物理学。

 

化学。

 

いつもの光景だった。

 

だが、その中に一冊だけ異質な本が混ざっていた。

 

ルークは本の表紙を見て首を傾げる。

 

「ドラム王国医療史?」

 

レインは顔を上げた。

 

「おう」

 

「何読んでるんですか?」

 

「だからドラム王国の本だ」

 

「いや、それは見れば分かります」

 

ルークは呆れたように言う。

 

「何で医療の本なんですか?」

 

その言葉にレインは当たり前のような顔をした。

 

「医学を学ぼうと思って」

 

ルークは固まった。

 

数秒。

 

完全に思考が停止する。

 

そして、

 

「は?」

 

ようやく出てきた言葉がそれだった。

 

レインは不思議そうな顔をする。

 

「何だよ」

 

「何だよじゃないですよ!」

 

ルークが思わず机を叩いた。

 

「社長は船大工ですよね!?」

 

「そうだな」

 

「技術者ですよね!?」

 

「そうだな」

 

「何で医学なんですか!?」

 

レインは首を傾げた。

 

本気で疑問らしい。

 

「必要だから」

 

「何にですか!?」

 

「全部に」

 

意味が分からない。

 

ルークは頭を抱えた。

 

すると父も資料室へ入ってくる。

 

「またレインが変なこと言ってるのか?」

 

「言ってます」

 

「今回は何だ?」

 

「医学を勉強するそうです」

 

父も固まった。

 

そして、

 

「何で?」

 

全く同じ反応だった。

 

レインはため息を吐く。

 

どうして二人とも理解してくれないのだろうか。

 

「例えばだぞ」

 

本を閉じながら話し始める。

 

「船が完成しました」

 

「航海に出ます」

 

「乗組員が病気になりました」

 

ルークが頷く。

 

「なるほど」

 

「その時どうする?」

 

「医者呼びます」

 

「海の上で?」

 

「……」

 

ルークが黙った。

 

「海の真ん中で?」

 

「……」

 

さらに黙る。

 

「医者がいなかったら?」

 

「……困りますね」

 

「だろ?」

 

レインは頷いた。

 

「だから知識は必要なんだ」

 

父も腕を組む。

 

確かに言われてみればその通りだった。

 

海は広い。

 

病気や怪我はいつ起こるか分からない。

 

船乗りにとって医学知識は重要だ。

 

「それに」

 

レインは本を開いた。

 

そこには人体の図が描かれている。

 

「技術者なら人体構造くらい知っておきたい」

 

「何でです?」

 

「人体も機械みたいなものだから」

 

ルークは顔をしかめた。

 

何だか危険な発言に聞こえる。

 

レインは気にせず続ける。

 

「骨があって」

 

「筋肉があって」

 

「血管があって」

 

「神経がある」

 

「構造を知れば故障箇所も分かる」

 

「人体を故障扱いしないでください」

 

即座にツッコミが飛ぶ。

 

父も苦笑した。

 

相変わらず発想が変だ。

 

しかし、レインの言っていること自体は間違っていない。

 

「それでドラム王国か」

 

父が本を見る。

 

レインは頷いた。

 

「世界一の医療大国だからな」

 

ドラム王国。

 

医療で世界中に名を知られる国である。

 

優秀な医者が集まり、数多くの医学書が存在すると言われている。

 

「今は本しかないけど」

 

レインはページをめくる。

 

「いつか行ってみたいな」

 

その目は本気だった。

 

ルークが嫌な予感を覚える。

 

「社長」

 

「何だ?」

 

「まさかまた将来の予定増やしました?」

 

「増えたな」

 

即答だった。

 

ルークは天を仰ぐ。

 

潜水艦。

 

飛行船。

 

覇気の鍛錬。

 

商会経営。

 

造船技術。

 

そして今度は医学。

 

一体どこまでやるつもりなのだろうか。

 

父も同じことを思ったらしい。

 

「お前、寝てるか?」

 

「寝てるぞ」

 

「本当に?」

 

「六時間は」

 

「少ないな」

 

「少ないですね」

 

二人同時だった。

 

レインは苦笑する。

 

だが仕方ない。

 

面白いのだから。

 

この世界には知らないことが多すぎる。

 

技術も。

 

歴史も。

 

医学も。

 

知れば知るほど興味が湧いてくる。

 

前世では時間が足りなかった。

 

だからこそ今世では出来る限り学びたい。

 

その思いは日に日に強くなっていた。

 

窓の外では海風が吹いている。

 

遠くには港が見えた。

 

レインは再び本へ視線を落とす。

 

ドラム王国。

 

医療大国。

 

いつか必ず行ってみたい場所がまた一つ増えた。

 

そしてその頃、ルークと父は同じことを考えていた。

 

――また社長のやりたいことが増えた。

 

きっと近いうちに、とんでもない話を聞かされることになる。

 

そんな予感がしてならなかった。

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