ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第百二十七話「医者に弟子入り」

 

医学を学ぼう。

 

そう決めた翌日、レインは朝から島の診療所へ向かっていた。

 

手には数冊の本が抱えられている。

 

昨日まで読んでいたドラム王国の医療史や人体構造に関する資料だ。

 

興味を持ったらまず行動。

 

それがレインという人間だった。

 

診療所は島の中央付近にある。

 

大きな建物ではないが、島民たちにとっては命を預ける大切な場所だ。

 

レインが扉を叩くと、中から穏やかな声が聞こえた。

 

「どうぞ」

 

扉を開ける。

 

薬草の香りが漂う室内では、この島唯一の医者であるエイムズが書類を整理していた。

 

「おや、レイン君じゃないか」

 

「珍しいね」

 

エイムズは笑顔を浮かべる。

 

レインは一歩前へ進むと、迷うことなく頭を下げた。

 

「医術を教えてください」

 

その瞬間だった。

 

診療所の空気が固まる。

 

エイムズは目を見開いたまま動かなくなった。

 

数秒。

 

いや、十秒近く沈黙が続いた。

 

レインが不思議そうに顔を上げる。

 

「先生?」

 

するとエイムズは慌てて立ち上がった。

 

「お、おやめください!」

 

「頭を上げてください!」

 

「え?」

 

「ガロアーク様が私なんかに頭を下げる必要はありません!」

 

レインは思わず苦笑した。

 

やっぱりそうなるか。

 

島の人間は皆そうだ。

 

ガロアーク。

 

それはこの島で最も名誉ある称号だった。

 

代々、島へ多大な貢献をした者だけに与えられる称号であり、現在その名誉を授かっているのがレインだった。

 

もっとも、本人は未だに慣れていない。

 

「いや、関係ないですよ」

 

「関係あります!」

 

エイムズは本気だった。

 

「ガロアーク様ですよ!?」

 

「島の誇りですよ!?」

 

「東の海でも有名になり始めているんですよ!?」

 

レインは額を押さえた。

 

話が進まない。

 

「先生」

 

「は、はい」

 

「俺は医術を教えてもらいたいんです」

 

「なら頭を下げるのは当然でしょう?」

 

エイムズは言葉を失った。

 

レインは続ける。

 

「今の俺はガロアークとか関係ありません」

 

「ただの弟子志望です」

 

「だから、よろしくお願いします」

 

そう言って再び頭を下げる。

 

エイムズは何も言えなくなった。

 

この少年は昔からそうだった。

 

地位や肩書きを気にしない。

 

自分が必要だと思ったことには真っ直ぐ向かっていく。

 

だからこそ島民たちはレインを慕っているのだろう。

 

「……分かりました」

 

エイムズは観念したように息を吐いた。

 

「私でよければ教えましょう」

 

「本当ですか!」

 

レインの表情が明るくなる。

 

まるで新しい設計図を見つけた時のような顔だった。

 

「ただし」

 

エイムズが指を立てる。

 

「医術は甘くありません」

 

「はい」

 

「知識だけでは人は救えない」

 

「はい」

 

「判断を間違えれば人を傷付けることもある」

 

「はい」

 

レインは真剣な顔で頷く。

 

その様子を見て、エイムズも表情を引き締めた。

 

遊びではない。

 

本気で学ぶつもりなのだ。

 

「まず聞きます」

 

「何でしょう」

 

「なぜ医術を学びたいのですか?」

 

レインは少し考えた。

 

そして素直に答える。

 

「船を作るからです」

 

エイムズは目を瞬かせた。

 

予想外だった。

 

「船?」

 

「はい」

 

レインは頷く。

 

「船乗りは怪我をします」

 

「病気にもなります」

 

「海の真ん中で医者がいないことだってあります」

 

「だから最低限の医術は必要だと思いました」

 

エイムズは黙って聞いていた。

 

確かにその通りだった。

 

海は広い。

 

病は待ってくれない。

 

船乗りにとって医術は命綱だ。

 

「それに」

 

レインは診療室に置かれた器具へ視線を向ける。

 

「医療器具にも興味があります」

 

「医療器具ですか?」

 

「もっと使いやすくできるかもしれません」

 

「もっと精密に作れるかもしれません」

 

「技術で医者の手助けができるかもしれない」

 

その言葉を聞いた瞬間、エイムズは目を見開いた。

 

実は彼も同じことを考えていた。

 

レイン商会の工具を見た時からだ。

 

もっと細かい作業ができる器具。

 

もっと扱いやすい道具。

 

医療に応用できるものがあるのではないか。

 

そう思っていた。

 

だが、まさかレインの方から同じ話が出るとは思わなかった。

 

「……面白い」

 

エイムズは小さく呟く。

 

「え?」

 

「いや、こちらの話です」

 

老人は笑った。

 

そして本棚へ向かう。

 

そこから数冊の古びた本を取り出した。

 

「人体の基礎」

 

「薬草学」

 

「応急処置」

 

「まずはここからです」

 

レインは目を輝かせた。

 

「ありがとうございます!」

 

その様子を見ながらエイムズは思う。

 

造船。

 

鍛冶。

 

商会経営。

 

覇気。

 

そして今度は医術。

 

普通なら手を広げすぎだと言われるだろう。

 

だが、この少年だけは違う。

 

興味を持ったことを本気で学び、本当に形にしてしまう。

 

だからこそ、

 

もしかすると、いつの日か医術の世界ですら何かを変えてしまうかもしれない。

 

そんな予感を抱かせる少年だった。

 

こうしてレインは、新たに医術という分野へ足を踏み入れる。

 

それは後に、多くの人々を救う技術へと繋がっていく第一歩だった。

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