ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
レインがエイムズの診療所へ通い始めてから数日後。
レイン商会では、とある問題が発生していた。
社長がいないのである。
いや、正確には島にはいる。
毎日元気に活動している。
だが商会にはいない。
朝になる。
レインは工房へ顔を出す。
職人たちへ指示を出す。
進捗を確認する。
そして、
「じゃあ行ってきます」
そう言い残して診療所へ向かう。
昼になっても帰ってこない。
夕方になってようやく戻ってくる。
その後は医学書を読み始める。
そんな生活が続いていた。
当然ながら、一番苦労するのはルークだった。
その日も事務室では大量の書類が積み上がっている。
ルークは机へ突っ伏していた。
「社長ぉ……」
魂が抜けそうな声だった。
目の前には見積書。
契約書。
発注書。
納品確認書。
山のような書類が並んでいる。
その時、父が部屋へ入ってきた。
「どうした?」
「どうしたじゃないですよ」
ルークは顔を上げる。
「社長がいません」
「知ってる」
「診療所です」
「知ってる」
「今日もです」
「知ってる」
全て把握済みだった。
ルークは頭を抱えた。
「何でですか」
「何でまた増やすんですか」
父は苦笑する。
気持ちはよく分かる。
実際、レインはここ数年で増やし過ぎだった。
船大工。
鍛冶。
商会経営。
発明。
覇気。
そして今度は医術。
普通の人間ならどれか一つでも人生を費やす。
しかしレインは全部やろうとしている。
「社長は寝てるんですかね」
ルークが遠い目をした。
「一応寝てるらしいぞ」
「六時間ですよね」
「らしいな」
「少ないですよね」
「少ないな」
意見が一致した。
その時だった。
事務室の扉が開く。
「ただいま」
噂をすれば本人だった。
レインが診療所から帰ってきたのである。
手には分厚い本が抱えられている。
ルークはその本を見る。
「また増えてる……」
「借りてきた」
「でしょうね」
もはや驚かない。
レインは椅子へ座る。
そして当然のように本を開いた。
ルークは我慢できなかった。
「社長」
「何だ?」
「商会はどうするんですか?」
レインは顔を上げる。
「どうするって?」
「仕事ですよ!」
「やってるだろ?」
「誰がですか!」
「ルークが」
即答だった。
ルークは机に突っ伏した。
「やっぱり……」
予想通りだった。
レインは不思議そうな顔をする。
「いや、お前優秀じゃん」
「ありがとうございます」
「だから任せた」
「その信頼重いんですよ!」
事務室に叫び声が響く。
職人たちが外で笑っていた。
最近ではすっかり日常風景になっている。
レインは苦笑した。
「別に丸投げしてる訳じゃないぞ」
「朝確認してるだろ」
「それはそうですけど……」
「何かあったら呼べば行くし」
「まあそうなんですけど……」
結局レインは責任を放棄している訳ではない。
だから強く言い返せない。
ルークがため息を吐く。
「普通、社長ってもっと仕事するんじゃないですか?」
「してるだろ」
「医学の勉強をね!」
全く悪びれない。
父が横で吹き出した。
「諦めろ」
「親方まで!」
「今更だろ」
その一言でルークは黙った。
確かに今更だった。
思い返してみれば昔からそうだった。
滑車を作ると言い出した時も。
鉱山を掘ると言い出した時も。
鍛冶を学ぶと言い出した時も。
覇気の修行を始めた時も。
全部突然だった。
そして全部本当にやってしまった。
「まあ」
ルークは天井を見上げる。
「社長ですもんね」
「そうだな」
父も頷いた。
「レインだからな」
その言葉にレインは少し不満そうな顔をする。
「何だその扱い」
「諦めろ」
「諦めてください」
父とルークが同時に言った。
完全に息が合っていた。
レインは苦笑するしかない。
そんな様子を見ながら、ルークは改めて思う。
社長は変人だ。
間違いなく変人だ。
普通の人間なら船大工だけでも十分凄い。
だがこの人は違う。
気付けば鍛冶を覚えている。
気付けば商会を作っている。
気付けば覇気を使っている。
そして今度は医者の弟子になった。
もう驚く方が疲れる。
だから...諦めた。
「まあいいです」
「俺も慣れました」
「そうか」
「その代わり」
ルークは真顔になった。
「これ以上増やさないでくださいね」
レインは一瞬だけ視線を逸らした。
ルークの額に青筋が浮かぶ。
「社長?」
「いや」
「何ですか?」
「最近、農業も大事だなって」
「増えてるじゃないですか!!」
事務室に絶叫が響いた。
外にいた職人たちが大爆笑する。
父は腹を抱えて笑っていた。
そしてレインも笑う。
平和な午後だった。
もっとも、ルークだけは頭を抱えていたが...
彼はまだ知らない。
この先もレインのやりたいことは増え続けるということを。
そして、自分がそれに付き合わされ続けるということを。