ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
レインがエイムズの弟子となってから半年が過ぎた。
季節は移り変わり、島にも新しい風が吹いている。
その半年の間にもレイン商会は順調に成長を続けていた。
新しい船の受注。
工具の改良。
工房の拡張計画。
やるべきことは山ほどあった。
しかし、そんな中でもレインは毎日のように診療所へ通い続けていた。
最初の頃は薬草の名前を覚えるところから始まった。
そこから人体構造。
病気の種類。
怪我の処置。
薬の調合。
診察方法。
医者として必要な知識を次々と学んでいく。
普通なら何年も掛かる内容だった。
だが、レインは普通ではなかった。
「……信じられませんね」
ある日、診療所の診察室でエイムズは深いため息を吐いた。
目の前ではレインが分厚い医学書を読んでいる。
その本は本来、弟子入りして数年経った医者が読むような内容だった。
それを、十三歳にもなっていない少年が理解している。
「何か間違ってましたか?」
レインが顔を上げる。
「いえ」
エイムズは首を横に振った。
「むしろ全部合っています」
「なら良かったです」
そう言って再び本へ視線を戻す。
エイムズは思わず天井を見上げた。
おかしい。
どう考えてもおかしい。
半年。
たった半年である。
普通の弟子なら薬草の名前を覚えるだけでも一苦労だ。
しかしレインは違った。
一度見たものを忘れない。
一度教えた内容を理解する。
そして理解した知識を応用する。
しかも、手先が異常なほど器用だった。
縫合の練習をさせれば数日で習得する。
包帯の巻き方も正確。
器具の扱いも上手い。
薬草の調合もほとんど失敗しない。
最初は偶然かと思った。
だが違った。
何をやらせても上達が異常に早いのである。
「やはり……」
エイムズは呟く。
「ガロアークに選ばれるだけありますね」
レインが顔を上げた。
「関係ありますか?」
「ありますよ」
即答だった。
「普通はこうなりません」
「そうですか?」
「そうです」
エイムズは断言した。
半年でここまで到達する人間など見たことがない。
才能。
努力。
好奇心。
その全てが揃っている。
だからこそガロアークの称号を与えられたのだろう。
そんなことを考えていると、診療所の外から声が聞こえてきた。
「失礼します」
ルークだった。
手には書類の束が抱えられている。
「社長、サインお願いします」
「そこ置いといて」
「分かりました」
ルークは机へ書類を置く。
そして自然な動作で診療所の様子を見回した。
本棚。
薬草。
医学書。
人体図。
そして当然のように勉強しているレイン。
その光景を見て。
ルークは遠い目をした。
「どうした?」
レインが尋ねる。
「いや……」
ルークは首を横に振った。
「もう何も言いません」
「何だよ」
「慣れました」
それだけだった。
半年も見ていれば嫌でも理解する。
普通の人間ではない。
船大工になったと思ったら鍛冶を始める。
鍛冶を覚えたと思ったら商会を作る。
商会を軌道に乗せたと思ったら覇気を覚える。
覇気を覚えたと思ったら医者になる。
意味が分からない。
理解しようとする方が疲れる。
だから諦めた。
すると診療所の奥から父も出てきた。
どうやら薬を届けに来ていたらしい。
父もレインを見る。
そして苦笑した。
「どうだ?」
「順調ですよ」
エイムズが答える。
「正直、もうそこらの医者では勝負になりません」
ルークが固まった。
「は?」
父も目を丸くする。
「半年ですよ?」
「分かっています」
エイムズも苦笑する。
「私も信じられません」
だが事実だった。
もちろん経験では敵わない。
長年診察を続けてきた医者には及ばない部分もある。
しかし知識量だけなら。
そして技術だけなら。
既に多くの医者を追い抜いていた。
ルークはレインを見る。
父も見る。
そして二人同時にため息を吐いた。
「やっぱり変人だな」
「超人ですね」
意見は完全に一致していた。
レインは不満そうな顔になる。
「何でそうなるんだよ」
「逆に聞きますけど」
ルークが真顔になる。
「十三歳になる前に船大工で、鍛冶師で、社長で、覇気使いで、医者の卵な人間がどこにいるんですか?」
「……」
レインが黙る。
確かにいなかった。
少なくともこの島には...
父が笑う。
「諦めろ」
「そうですね」
ルークも頷く。
「もう社長はそういう生き物なんだと思います」
「生き物って言うな」
診療所に笑い声が響いた。
そんな平和な時間の中。
レインはふと窓の外を見る。
青い海が広がっていた。
そして今日、レインは十三歳になっていた。
まだ十三歳。
だが既に多くの技術を身に付けている。
それでも、レイン自身は満足していなかった。
学びたいことはまだ山ほどある。
作りたいものも山ほどある。
世界は広い。
だからこそ。
もっと知りたい。
もっと学びたい。
そんな思いを胸に、レインは再び医学書へ視線を落としたのだった。