ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第百三十話「初めての手術」

 

レインが十三歳になってから数日後。

 

その日は朝から工房の拡張工事について打ち合わせをしていた。

 

「ここをもう少し広げれば作業効率が上がると思うんです」

 

レインが図面を広げながら説明する。

 

父も職人たちも頷いていた。

 

そんな時だった。

 

工房の扉が勢いよく開かれる。

 

「大変だー!!」

 

島の若者が血相を変えて飛び込んできた。

 

全員が振り返る。

 

「どうした?」

 

父が尋ねる。

 

若者は息を切らしながら叫んだ。

 

「船大工のマークさんが!」

 

「作業中に刃物が胸に刺さった!!」

 

空気が凍り付いた。

 

レインの表情が変わる。

 

胸。

 

それはまずい。

 

非常にまずい。

 

「今どこです!?」

 

「診療所です!」

 

その言葉を聞いた瞬間、レインは走り出していた。

 

ルークも慌てて後を追う。

 

診療所まで全力疾走し、数分後には到着していた。

 

中へ飛び込む。

 

すると診察室には血だらけの男が横たわっていた。

 

船大工のマークだった。

 

胸には布が押し当てられている。

 

顔色は真っ青だった。

 

エイムズが必死に処置をしている。

 

「先生!」

 

レインが声を掛ける。

 

エイムズが振り返った。

 

その顔は険しい。

 

「来ましたか」

 

「状況は?」

 

レインが尋ねる。

 

「作業中に工具が滑ったそうです」

 

「胸に深く刺さっています」

 

レインは傷口を見る。

 

かなり危険だ。

 

「抜いたんですか?」

 

「いや」

 

エイムズは首を横に振る。

 

「そこは流石に止めました」

 

レインは少し安心した。

 

迂闊に抜けば出血で死ぬ可能性がある。

 

「手術ですか」

 

「そうなります」

 

エイムズが静かに答えた。

 

診療所の空気が重くなる。

 

島民たちも不安そうに見守っていた。

 

するとエイムズは真剣な表情でレインを見る。

 

「レイン君」

 

「はい」

 

「手伝ってください」

 

診療所が静まり返る。

 

ルークが目を見開いた。

 

父も驚いている。

 

レイン自身も少し驚いた。

 

知識はある。

 

練習もしてきた。

 

縫合も覚えた。

 

器具の扱いも覚えた。

 

だが実際の患者は初めてだ。

 

「先生」

 

レインは確認する。

 

「本気ですか?」

 

「本気です」

 

エイムズは迷わず頷いた。

 

「君ならできる」

 

「少なくとも私一人より成功率は上がる」

 

レインは黙った。

 

初めての実践。

 

失敗すれば人が死ぬ。

 

だが逃げる気はなかった。

 

「分かりました」

 

レインは頷く。

 

「やります」

 

診療所が慌ただしく動き始めた。

 

お湯を沸かす。

 

器具を消毒する。

 

包帯を準備する。

 

薬を用意する。

 

ルークや島民たちも必死に手伝う。

 

やがて準備が整った。

 

診療室にはエイムズとレインだけが残る。

 

患者は意識が朦朧としていた。

 

「落ち着いてください」

 

エイムズが言う。

 

「焦った方が負けです」

 

レインは深く息を吐く。

 

怖い。

 

緊張もしている。

 

だが頭は冷静だった。

 

造船も鍛冶も同じだ。

 

失敗できない時ほど冷静になる。

 

「大丈夫です」

 

「なら始めましょう」

 

手術が始まった。

 

慎重に傷口を確認する。

 

出血箇所を探す。

 

器具を渡す。

 

血を拭う。

 

縫合する。

 

レインの動きは正確だった。

 

迷いがない。

 

エイムズですら驚くほどだった。

 

本当に初めてなのかと疑うほどに。

 

時間が過ぎる。

 

十分。

 

二十分。

 

三十分。

 

外では全員が祈るような気持ちで待っていた。

 

ルークも落ち着かず歩き回っている。

 

父も腕を組んだまま黙っていた。

 

そして約一時間後。

 

診療室の扉が開いた。

 

全員が立ち上がる。

 

現れたのはエイムズだった。

 

額には汗が浮かんでいる。

 

しかし顔には笑みがあった。

 

「成功です」

 

歓声が上がる。

 

島民たちが涙を流して喜んだ。

 

ルークも飛び上がる。

 

「やった!」

 

父も安堵の息を吐いた。

 

その後ろからレインが出てくる。

 

流石に疲れたらしく椅子へ腰を下ろした。

 

「お疲れ様です!」

 

ルークが駆け寄る。

 

レインは苦笑した。

 

「緊張した……」

 

珍しい弱音だった。

 

しかしそれだけ命の重さを感じていたのだろう。

 

エイムズはそんなレインを見つめる。

 

しばらく沈黙した後、静かに口を開いた。

 

「レイン君」

 

「はい」

 

「私は半年前、君を弟子として迎えました」

 

レインは首を傾げる。

 

突然どうしたのだろうか。

 

周囲も静まり返っていた。

 

エイムズは続ける。

 

「ですが、今日で卒業です」

 

全員が固まった。

 

ルークが目を見開く。

 

父も驚いている。

 

レイン自身も予想していなかったらしい。

 

「卒業……ですか?」

 

「ええ」

 

エイムズは力強く頷いた。

 

「もう私が教えることはほとんどありません」

 

「知識量は既に私以上」

 

「技術も十分」

 

「判断力も問題ない」

 

そして苦笑した。

 

「正直に言えば、数週間前から教えることがなくなり始めていました」

 

レインも苦笑する。

 

「それ早く言ってくださいよ」

 

「言ったら勉強をやめるかもでしょう?」

 

「やめませんよ」

 

「まぁ、君ならそうでしょうね」

 

エイムズも笑った。

 

そして改めて真剣な顔になる。

 

「レイン君」

 

「君はもう医者の卵ではありません」

 

「立派な医者です」

 

診療所が静まり返る。

 

レインも言葉を失っていた。

 

その言葉の重みを理解していたからだ。

 

エイムズは島で唯一の医者であり、多くの命を救ってきた人物である。

 

その人物から正式に認められた。

 

それはどんな賞賛よりも重かった。

 

「ありがとうございます」

 

レインは静かに頭を下げる。

 

エイムズも満足そうに頷いた。

 

その様子を見ていたルークが呟く。

 

「十三歳で船大工で、鍛冶師で、商会社長で、覇気使いで、医者……」

 

そして遠い目になる。

 

「もう意味が分かりません」

 

父も深く頷いた。

 

「俺も分からん」

 

二人の反応に診療所は笑いに包まれる。

 

こうしてレインは十三歳にして、正式に医者として認められたのだった。

 

船大工。

 

鍛冶師。

 

商会社長。

 

覇気使い。

 

そして医者。

 

また一つ、常識外れな肩書きが増えたのである。

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