ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
レインが正式に医者として認められてから一か月後。
島の景色に、また一つ新しい建物が増えていた。
レイン工房のすぐ隣。
木造二階建ての小さな建物。
入口には簡素な看板が掛けられている。
そこには、
『レイン診療所』
と書かれていた。
「本当に作ったんですね……」
建物を見上げながらルークが呟く。
「作ったな」
レインは満足そうに頷いた。
「いや、そんな満足そうに言われても」
ルークは思わず頭を抱えた。
工房の隣に診療所。
普通なら意味が分からない。
船大工の工房の横に診療所がある光景など、この世界のどこを探してもないだろう。
しかし、目の前には現実として存在していた。
「社長」
「何だ?」
「もう驚かないつもりでした」
「おう」
「でも流石に工房の横に診療所は予想できませんでした」
「そうか?」
「そうです」
即答だった。
レインは首を傾げる。
むしろ合理的だと思っていた。
船大工は怪我をする。
鍛冶職人も怪我をする。
工房の近くに診療所があればすぐ対応できる。
それだけの話だった。
父も建物を見ながら苦笑する。
「まあ理屈は分かる」
「分かるんですか!?」
「レインだからな」
その一言で全てが終わった。
ルークも諦めたようにため息を吐く。
最近では父のこの言葉が万能になりつつある。
何かおかしいことが起きる。
理由を聞く。
レインだからな。
終わりである。
診療所の中へ入る。
広さはそれほどではない。
待合室。
診察室。
薬品保管庫。
処置室。
必要最低限の設備だけを揃えた小さな診療所だった。
もっとも、置かれている器具は普通ではない。
レイン自身が設計し、自ら製作したものばかりである。
エイムズですら驚くほど使いやすい器具が並んでいた。
「それにしても」
ルークが診察室を見回す。
「患者なんて来るんですか?」
「来るだろ」
レインは答える。
「ただ基本的にはエイムズ先生が優先だ」
それが今回の診療所設立の条件だった。
島の医者は今まで通りエイムズ。
レインはその補助。
エイムズが往診中だったり、別の患者を診ていたり、どうしても手が離せない時だけレインが対応する。
つまり連携体制である。
最初にその話を聞いた時、島民たちは大喜びした。
単純に医者が二人になるのだから。
しかも片方はエイムズが認めた医者である。
安心感が違った。
その時だった。
診療所の電伝虫が鳴る。
プルルルルル。
プルルルルル。
全員が視線を向ける。
レインが受話器を取った。
「はい、レイン診療所です」
隣でルークが吹き出しそうになる。
何だろう...物凄く違和感がある。
船大工だったはずなのに...半年後普通に医者をやってる...
「はい」
「はい」
レインが頷いている。
そして通信が終わった。
「患者か?」
父が尋ねる。
「ああ」
レインは受話器を置いた。
「エイムズ先生からだ」
「早速ですか」
ルークが驚く。
「往診先で怪我人が出たらしい」
「こっちへ連れてくるそうだ」
全員が顔を見合わせた。
診療所完成初日。
いきなり仕事である。
三十分後。
患者が運び込まれてきた。
木材を運んでいる最中に足を捻った若い漁師だった。
命に関わる怪我ではない。
だが放置もできない。
「よろしくお願いします」
漁師が少し緊張した顔で言う。
相手は十三歳の少年だからだろう。
レインは苦笑した。
「大丈夫ですよ」
そう言いながら診察を始める。
足を確認する。
腫れ具合を見る。
触診する。
骨の異常がないか調べる。
動作は落ち着いていた。
迷いがない。
数分後。
診察が終わる。
「骨は折れていません」
「捻挫ですね」
患者が安堵する。
処置を終えた頃には不安も消えていた。
説明も分かりやすい。
対応も丁寧だ。
何より、腕は確かだった。
患者が帰った後、ルークが呆然と呟く。
「普通に診察してる……」
「医者だからな」
「社長なのに」
「医者でもある」
「船大工なのに」
「船大工でもある」
「意味が分かりません」
レインは笑った。
父も笑う。
その頃、往診先から戻ったエイムズは報告を聞いて満足そうに頷いていた。
「問題ありませんでしたか?」
看護を手伝っていた女性が尋ねる。
エイムズは笑う。
「ありませんよ」
「もう私が心配する必要はありません」
そして窓の外を見る。
工房の隣に建つ新しい診療所。
あの建物は島にとって大きな財産になるだろう。
船大工であり。
鍛冶師であり。
商会社長であり。
覇気使いであり。
そして医者。
常識では考えられない少年だったが、今ではそれが当たり前になりつつあった。
もっとも、ルークだけは未だに慣れていないらしい。
その日の夕方...
工房からは、
「次は何を始めるんですか!?」
という叫び声が響いていた。
島民たちは聞き慣れた声だと笑いながら仕事を続けるのだった。