ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
レイン診療所ができてから数週間後。
その日、港には一隻の商船が停泊していた。
船から降りてきた男は、周囲を見回しながら懐かしそうに笑う。
「相変わらず平和な島だな」
ガレスだった。
レイン商会と長い付き合いのある商人である。
最近は別の航路を回っていたため、島へ来るのはかなり久しぶりだった。
「さて、今回は何が増えてるかねぇ」
ガレスは苦笑する。
レインの島へ来る度に何かが変わっている。
工房が大きくなっていたり、新しい設備ができていたり、見たこともない道具が増えていたりする。
最初の頃は驚いていたが、最近では半分諦めていた。
どうせ今回も何か増えているのだろう。
そんなことを考えながら工房へ向かう。
そして、工房の隣に見慣れない建物を見つけた。
「ん?」
ガレスが足を止める。
見たことがない。
新築らしい。
入口には看板が掛かっていた。
そこに書かれている文字を見て、ガレスは眉をひそめる。
『レイン診療所』
「診療所?」
思わず読み直した。
もう一度見る。
やはり診療所と書いてある。
「いや、待て待て待て」
ガレスは混乱した。
確かここは船大工の工房だったはずだ。
何故診療所がある。
意味が分からない。
とりあえず工房へ向かおう。
そう考えて歩き出した時だった。
診療所の扉が開く。
中から誰かが出てきた。
ガレスは何気なく視線を向ける。
そして、固まった。
「……は?」
そこにいたのはレインだった。
それだけなら問題ない。
問題なのは服装である。
白衣だった。
どう見ても医者が着る白衣だった。
しかも妙に似合っている。
白衣の裾を整えながら診療所から出てくる姿は、普通に医者そのものだった。
ガレスの思考が停止する。
数秒...いや、十秒ほど固まっていた。
レインが気付く。
「あれ?」
「ガレスさんじゃないですか」
いつも通りだった。
何事もないような顔をしている。
ガレスはレインと白衣を交互に見た。
そして再び白衣を見る。
さらにレインを見る。
「……は?」
もう一度同じ言葉しか出なかった。
レインが首を傾げる。
「どうしたんですか?」
「いや、お前こそどうしたんだ!?」
ガレスは思わず叫んだ。
「何だその格好は!」
「白衣です」
「見れば分かる!」
当然だった。
白衣であることくらい誰でも分かる。
問題はそこではない。
「何で船大工が白衣着てるんだ!?」
ガレスが叫ぶ。
レインは不思議そうな顔をした。
「医者だからですけど」
沈黙。
ガレスの思考が完全に停止した。
「……何て?」
「医者です」
「船大工じゃなくて?」
「船大工です」
「鍛冶師じゃなくて?」
「鍛冶師です」
「社長じゃなくて?」
「社長です」
「じゃあ医者じゃないだろ!」
「医者でもあります」
意味が分からない。
ガレスは頭を抱えた。
その時、工房からルークが出てきた。
「あ、ガレスさん」
「ルーク!」
ガレスは助けを求めるような顔をする。
「説明してくれ!」
「俺も最初そうなりました」
ルークは遠い目をした。
完全に悟りの境地である。
「何があったんだ?」
「半年前に医学を勉強すると言い出しました」
「うん」
「半年で医者になりました」
「うん?」
「正式に認められました」
「うん??」
「診療所建てました」
「待て」
ガレスは頭を押さえる。
情報量が多すぎる。
半年。
今ルークは半年と言った。
普通の人間が医者になるのにどれだけ時間が掛かると思っているのだ。
「嘘だろ……」
ガレスが呟く。
すると診療所の中からエイムズが出てきた。
「ああ、ガレスさん」
「久しぶりですね」
「先生!」
ガレスは即座に尋ねた。
「これ本当なんですか!?」
エイムズは何を聞かれているのか理解したらしい。
苦笑しながら頷く。
「本当ですよ」
「今では私と同じ医者です」
「半年で?」
「半年で」
「……」
ガレスは空を見上げた。
理解を諦めた。
昔からレインは規格外だった。
十歳で商会を作った。
十二歳で五千万ベリーの賞金首を倒した。
海軍本部へ招待された。
そして今度は医者になった。
もはや驚く方が疲れる。
しばらく沈黙した後、ガレスは深くため息を吐いた。
「まあ」
「何です?」
レインが尋ねる。
ガレスは苦笑した。
「お前ならやると思った」
「ですよね」
ルークが即座に同意する。
父も頷く。
「レインだからな」
最近の島で最も便利な言葉だった。
ガレスは笑う。
そして白衣姿のレインを見ながら改めて思った。
船大工。
鍛冶師。
商会社長。
覇気使い。
医者。
十三歳。
どう考えてもおかしい。
だが、目の前にいる少年は、それを当たり前のようにやってのける。
「次は何になるんだ?」
ガレスが半ば冗談で聞いた。
するとレインは少し考える。
嫌な予感がした。
ルークも父も同じ顔になる。
数秒後、レインが口を開いた。
「農業とか面白そうですね」
その瞬間、ガレスは思わず天を仰いだ。
ルークは頭を抱えた。
父は大笑いした。
どうやら、この天才少年はまだまだ止まる気がないらしい。