ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
ガレスが島へ来てから二日後。
いつも通り、レイン商会で注文していた品々の積み込みが行われていた。
港には職人たちが集まり、荷物を次々と船へ運び込んでいる。
工具。
金具。
滑車。
歯車。
その他様々な注文品。
どれもレイン商会の主力商品だった。
「相変わらず良い出来だな」
ガレスは商品を手に取りながら満足そうに頷く。
レイン商会の品質は年々向上していた。
今では東の海でもかなり評判になっている。
納期も正確。
品質も良い。
値段も適正。
商人として文句の付けようがなかった。
「ありがとうございます」
レインが答える。
ガレスは振り返る。
そして、固まった。
白衣だった。
「……」
「……」
「どうしました?」
レインが首を傾げる。
ガレスは何も言わない。
ただ白衣を見ている。
数秒後、
「いや、やっぱり慣れねぇ」
思わず本音が漏れた。
レインは苦笑する。
「まだ言うんですか」
「言うだろ!」
ガレスは即座に返した。
「俺の知ってるお前は船大工なんだよ!」
「船大工ですよ」
「そう見えないんだよ!」
白衣姿で工具の確認をしている少年。
どう見ても医者である。
しかも妙に似合っているのが腹立たしい。
横で積み込みをしていたルークが吹き出した。
「俺も最初そうでした」
「だろう!?」
「半年経っても慣れません」
「だろうな!」
意気投合していた。
レインだけが納得していない。
「そんなに変ですか?」
「変だ」
ガレス。
「変ですね」
ルーク。
「変だな」
父。
全員一致だった。
レインは少しだけ不満そうな顔になる。
しかし反論しようとしても無理だった。
確かに船大工の工房の隣に診療所がある時点でかなりおかしい。
そこから白衣姿の社長が出てくるのだから、なおさらである。
「まあいいじゃないですか」
レインが肩を竦める。
「便利ですよ」
「便利なのは認める」
ガレスは頷いた。
実際、島へ来ている間にも怪我人が診療所へ運ばれてくる場面を見た。
そしてレインは普通に診察していた。
普通に。
本当に普通に。
その姿を見た時も衝撃だった。
「慣れると思ったんだがな」
ガレスが呟く。
「二日見てれば慣れると思った」
「結果は?」
ルークが聞く。
「無理だった」
即答だった。
積み込みをしていた職人たちが笑う。
最近では島の住民も慣れている。
だが外から来た人間は違う。
初見の反応は大体同じだった。
そして大体ガレスと同じ結論に至る。
理解を諦めるのである。
やがて全ての荷物の確認が終わった。
ガレスは懐から帳簿を取り出す。
「よし」
「数量問題なし」
「品質問題なし」
「納期も問題なし」
商人として最後の確認を終える。
そしてレインへ袋を渡した。
中には大量のベリーが入っている。
「毎度あり」
レインが笑う。
「こちらこそだ」
ガレスも笑った。
こうして見ると、いつもの取引である。
昔から変わらない。
変わったのは。
白衣くらいだ。
「いや、全然変わってるな……」
ガレスは思わず呟いた。
「何がです?」
「全部だ」
即答だった。
十歳で会った時は小さな船大工見習いだった。
次に来たら商会を作っていた。
その次に来たら鍛冶を覚えていた。
さらに次に来たら海軍本部へ招待されていた。
そして今回来たら医者になっていた。
意味が分からない。
「次来る時は何になってるんだろうな」
ガレスが遠い目をする。
その言葉にルークが苦笑した。
「俺も知りたいです」
「おい」
レインが呆れる。
「そんなに増やさないですよ」
その瞬間、ルークと父とガレスが同時にレインを見た。
誰一人信じていない。
「何ですかその目は」
レインが抗議する。
しかし三人とも何も言わない。
ただ見ている。
数秒後...
レインが視線を逸らした。
「農業くらいなら……」
「増やす気じゃねぇか!!」
ガレスとルークの声が綺麗に重なった。
港に笑い声が響く。
父は腹を抱えて笑っていた。
やがて出港の時間になる。
ガレスは船へ乗り込み、甲板から手を振った。
「じゃあな!」
「お気を付けて!」
レインも手を振り返す。
船がゆっくりと港を離れていく。
ガレスは最後にもう一度島を見る。
工房。
診療所。
そして、白衣姿のレイン。
「……やっぱり慣れねぇ」
思わずそう呟いた。
最後の最後まで、白衣を着た船大工には慣れなかったのである。
そんなガレスの呟きを乗せながら、商船は水平線の向こうへ消えていった。