ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
世界経済新聞が発行されてから三日後。
レインの島は相変わらず平和だった。
世界中で話題になっている張本人も、いつも通り工房と診療所を行き来している。
その日もレインは事務室で設計図と睨めっこしていた。
机の上には新しい船の設計図。
横には医学書。
そして別の机には商会の書類。
いつもの光景だった。
「社長」
ルークが新聞を片手に言う。
「何だ?」
「世界中で有名人になったそうですよ」
「へぇ」
反応は薄かった。
ルークは思わずため息を吐く。
「へぇじゃないですよ」
「世界経済新聞ですよ?」
「そうらしいな」
「もっと驚いてください」
「実感がないんだよ」
レインは苦笑した。
実際、島での生活は何も変わっていない。
朝起きて...
工房へ行き...
診療所へ顔を出し...
設計図を書き...
本を読む...
昨日と今日の違いがほとんどなかった。
そんな時だった。
事務室の電伝虫が鳴り始める。
プルルルルル。
プルルルルル。
ルークが受話器を取ろうとして手を止めた。
電伝虫の顔が変化したのである。
レインはその顔を見た瞬間、小さく息を吐いた。
「海軍本部ですね」
「みたいだな」
ルークが緊張した顔になる。
父も仕事の手を止めていた。
レインは受話器を取る。
「もしもし」
『久しぶりだな』
重厚な声が響いた。
海軍元帥コング。
その本人だった。
「お久しぶりです」
『うむ』
短い返事の後、コングは本題へ入る。
『確認したいことがある』
「何でしょう?」
『新聞を読んだ』
レインは察した。
『内容は本当か?』
「どの部分です?」
『医者になったという部分だ』
即答だった。
レインは思わず苦笑する。
やはりそこらしい。
「本当ですよ」
『正式に認められたのか?』
「認められました」
『半年でか?』
「半年です」
『手術もしたのか?』
「しました」
『成功したのか?』
「成功しました」
沈黙...
事務室に静寂が訪れる。
数秒後、
『意味が分からん』
コングが本音を漏らした。
ルークが吹き出しそうになる。
その気持ちはよく分かる。
誰だってそう言う。
『普通はそうならん』
「そうなんですか?」
『そうなんだ』
即答だった。
その時だった。
通信の向こうから豪快な笑い声が響く。
『ぶはははははは!!』
レインが顔をしかめる。
聞き慣れた声だった。
「ガープさんですか」
『おう!』
『新聞見たぞ!』
『本当に医者になりおったか!』
「なりました」
『ぶははははは!!』
楽しそうだった。
本当に楽しそうだった。
『やっぱり面白い奴じゃのう!』
「褒めてます?」
『褒めとる!』
ガープは断言した。
すると今度はコングが怒鳴る。
『笑い事ではないぞガープ!』
『何じゃ』
『お前は二か月もあの島にいたのだろう!』
『何か知らんのか!』
『知らん!』
ガープは即答した。
『わしも新聞で知った!』
『気付いたら医者になっとったんじゃ!』
『そんな訳があるか!』
『本当じゃ!』
ガープは全く悪びれない。
レインは思わず笑ってしまった。
確かにその通りだった。
ガープが島を去った時、自分はまだ医者ですらなかったのだから。
すると別の声が聞こえてくる。
『あー……』
クザンだった。
『相変わらずっすね』
「クザンさん」
『久しぶりっす』
クザンも新聞を読んでいたらしい。
『正直、驚きましたよ』
「そうですか?」
『そうっす』
『流石に半年で医者は予想してなかったっす』
苦笑混じりの声だった。
その言葉にコングも深く頷く。
『造船技術者』
『商会社長』
『五千万ベリーの賞金首撃破』
『ここまではまだ理解できる』
レインは少し気になった。
「そこまでは理解できるんですね」
『できんが、まだ分かる』
コングは訂正した。
『だが何故肩書きに医者が増える』
『そこだけは本当に意味が分からん』
事務室の全員が頷いた。
ルークも。
父も。
島民たちも。
たぶん世界中の読者も。
同じ意見だっただろう。
『まあいい』
コングが話を戻す。
『新聞の内容が事実だということは分かった』
「はい」
『それともう一つだ』
「何でしょう?」
『今後、お前を見に来る者が増える』
レインは少し真面目な顔になった。
『商人』
『技術者』
『医者』
『海軍』
『様々な人間が興味を持つだろう』
「でしょうね」
『気を付けろ』
コングの声には本気の心配が含まれていた。
レインも素直に頷く。
「ありがとうございます」
『うむ』
コングは満足そうに息を吐いた。
そして少しだけ声を柔らかくする。
『だが』
『医者として認められたことについては素直に祝福しよう』
『おめでとう』
レインは少し驚いた。
まさか元帥から直接祝福されるとは思っていなかった。
「ありがとうございます」
素直に礼を言う。
通信はそこで終わった。
電伝虫が元の顔へ戻る。
事務室にはしばらく静寂が流れた。
そして、
「海軍元帥からお祝いされる十三歳って何なんですかね」
ルークが遠い目をしながら呟く。
「知らん」
父が即答した。
レインも苦笑する。
ただ一つだけ分かったことがあった。
新聞の影響は、自分が思っていたより遥かに大きい。
そして世界中が、自分以上に医者になったことへ驚いているらしい。
その事実に少しだけ首を傾げながら、レインは再び設計図へ視線を落としたのだった。