ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第十三話 「レイン工房」

 

朝日が海を照らしていた。

 

港にはいつものように活気がある。

 

船員達の掛け声。

 

木材を運ぶ音。

 

船大工達の金槌の音。

 

海鳥の鳴き声。

 

潮風が運ぶ塩の香り。

 

レインは工房予定地の前に立っていた。

 

正確には、もう予定地ではない。

 

レイン工房。

 

そう呼べる場所になりつつあった。

 

もっとも。

 

まだ見た目は古い倉庫だ。

 

壁は新しくなったが、完全ではない。

 

床も補修した。

 

屋根も直した。

 

だが立派な建物とは言えない。

 

それでも。

 

レインは不思議と嬉しかった。

 

前世で会社を作った時を思い出す。

 

大きなオフィスなど最初からなかった。

 

十数坪しかない小さな事務所。

 

中古の机。

 

型落ちのパソコン。

 

資金も人脈もなかった。

 

だが夢だけはあった。

 

今も同じだった。

 

何もない。

 

だから面白い。

 

「何ニヤニヤしてる」

 

父親の声だった。

 

振り返る。

 

今日も工具を抱えている。

 

朝から工房の最終調整らしい。

 

「別に」

 

「絶対何か考えてる顔だぞ」

 

「失礼だな」

 

父親は笑う。

 

最近はこういう会話が増えた。

 

最初は息子の奇行に困惑していた父親も、少しずつ慣れてきたらしい。

 

もっとも。

 

完全には慣れていない。

 

昨日も営業だの見積書だの契約だのと言い出した息子に頭を抱えていた。

 

レインは工房の中へ入る。

 

木の香りがした。

 

新しい木材の匂いは嫌いじゃない。

 

どこか落ち着く。

 

工房の中には作業台が並んでいた。

 

工具も整理されている。

 

父親らしい。

 

必要な物が必要な場所にある。

 

無駄がない。

 

職人の仕事だった。

 

「しかし本当に必要か?」

 

父親が言う。

 

レインは振り返った。

 

父親の視線の先には机がある。

 

工房の奥。

 

窓際。

 

レイン専用の机だった。

 

父親は最後まで反対した。

 

船大工の工房に机など不要。

 

それが父親の考えだった。

 

「必要だよ」

 

レインは即答した。

 

「だから何に使うんだ」

 

「設計」

 

「頭の中で考えればいいだろ」

 

「無理」

 

父親は眉をひそめる。

 

レインは机へ近付いた。

 

手で天板を撫でる。

 

まだ新しい。

 

父親が作ってくれた物だ。

 

「父さん」

 

「なんだ」

 

「船を作る時どうする?」

 

「図面描く」

 

「だよね」

 

「それが?」

 

レインは笑った。

 

「僕も同じ」

 

父親は少し考える。

 

そして。

 

「なるほど」

 

と呟いた。

 

完全には理解していない。

 

だが納得はしたらしい。

 

レインは椅子へ座る。

 

紙を広げる。

 

鉛筆を持つ。

 

それだけで落ち着いた。

 

前世からの癖だ。

 

思考は紙へ落とす。

 

頭の中だけでは整理できない。

 

会社を作った時もそうだった。

 

事業計画。

 

営業戦略。

 

資金計画。

 

全部紙へ書いた。

 

だから今も同じだ。

 

机は必要だった。

 

未来を描くために。

 

---

 

昼過ぎ。

 

港から依頼人がやって来た。

 

以前契約した船大工だった。

 

工房へ入った瞬間。

 

男は足を止める。

 

「おぉ……」

 

感嘆の声だった。

 

レインは少し嬉しくなる。

 

父親は平然としている。

 

だが内心では少し誇らしいらしい。

 

表情で分かった。

 

「思ったより立派じゃねぇか」

 

男が言う。

 

父親が肩を竦めた。

 

「倉庫直しただけだ」

 

「それでも十分だ」

 

男は辺りを見回す。

 

作業台。

 

工具。

 

木材。

 

そして奥の机。

 

「あれは何だ?」

 

「レイン専用」

 

父親が答える。

 

男は吹き出した。

 

「船大工の机か?」

 

「俺もそう思う」

 

父親も苦笑する。

 

レインは不満そうだった。

 

「必要だから置いてるんだけど」

 

「まぁお前だからな」

 

男は笑った。

 

---

 

依頼内容は前回より少し大きかった。

 

滑車の増設。

 

作業台の改善。

 

工具配置の見直し。

 

普通の船大工ならそこまで考えない。

 

だがレインは違った。

 

紙を広げる。

 

図を書き始める。

 

父親と依頼人が横から覗き込む。

 

レインは説明を始めた。

 

「まず作業台をこっちへ移動」

 

「工具棚はこっち」

 

「滑車は増設」

 

「木材置き場はここ」

 

依頼人は首を傾げた。

 

「そんなに変える必要あるか?」

 

レインは笑った。

 

「ある」

 

そして紙へ線を引く。

 

「今はここからここまで歩いてる」

 

「だから時間が掛かる」

 

「でもこうすれば移動距離が減る」

 

依頼人は黙った。

 

父親も黙った。

 

レインは続ける。

 

「職人は歩くために仕事してるわけじゃない」

 

「作るために仕事してる」

 

その言葉に依頼人は目を見開く。

 

確かにその通りだった。

 

今まで考えたこともない。

 

だが言われてみれば納得だった。

 

レインは前世を思い出していた。

 

工場。

 

倉庫。

 

物流。

 

会社。

 

効率化。

 

全て同じだった。

 

人は無駄を減らすだけで大きく変わる。

 

だからこそ改善する価値がある。

 

---

 

説明が終わる。

 

依頼人は図面を見る。

 

しばらく見つめる。

 

そして。

 

「頼む」

 

そう言った。

 

迷いはなかった。

 

レインは笑う。

 

「ありがとうございます」

 

依頼人が帰った後。

 

父親は工房の椅子へ腰掛けた。

 

珍しく疲れた顔をしている。

 

「どうしたの?」

 

レインが聞く。

 

父親は天井を見上げた。

 

「お前さ」

 

「ん?」

 

「本当に六歳か?」

 

またその質問だった。

 

レインは苦笑する。

 

父親は続けた。

 

「職人なら分かる」

 

「だがお前がやってることは違う」

 

「もっと別の何かだ」

 

レインは少し考えた。

 

そして笑う。

 

「経営かな」

 

父親は頭を抱えた。

 

「その言葉を六歳で知ってる時点でおかしい」

 

---

 

夕方。

 

作業を終えた父親が工房の外へ出る。

 

レインも続く。

 

すると父親が何かを持っていた。

 

大きな木板だった。

 

見覚えがない。

 

「それ何?」

 

父親は答えない。

 

代わりに脚立を持ち出す。

 

工房入口へ立て掛ける。

 

そして木板を取り付け始めた。

 

金槌の音が響く。

 

カン。

 

カン。

 

カン。

 

夕焼けの中へ音が消えていく。

 

数分後。

 

父親は脚立を降りた。

 

「よし」

 

レインは見上げる。

 

そこには文字が刻まれていた。

 

---

 

レイン工房

 

---

 

風が吹く。

 

木製の看板が静かに揺れた。

 

レインは言葉を失う。

 

父親がいつ作ったのか分からない。

 

おそらく夜だ。

 

自分が寝た後だろう。

 

不器用な人だ。

 

こういうことは何も言わない。

 

だから余計に嬉しかった。

 

「どうだ」

 

父親が聞く。

 

レインは看板を見上げたまま答える。

 

「小さいな」

 

父親は笑った。

 

「最初はみんなそうだ」

 

レインも少し笑う。

 

前世の会社もそうだった。

 

最初は小さかった。

 

誰も知らなかった。

 

だが積み上げた。

 

だから今度も同じだ。

 

レインは夕焼け空を見上げる。

 

工房。

 

技術。

 

研究。

 

仲間。

 

未来。

 

まだ始まったばかりだ。

 

だが確実に前へ進んでいる。

 

港の片隅に生まれた小さな工房。

 

その看板を見上げながら、レインは静かに決意する。

 

――この名前を、世界中に知らしめてやる。

 

レイン工房。

 

その物語は、ここから本当の意味で始まるのだった。

 

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