ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
レイン工房へ足を踏み入れたロジャー海賊団は、思わず足を止めた。
工房の中は活気に満ちていた。
職人たちが忙しく働き、金属を打つ音や木材を削る音が絶え間なく響いている。大きな建物の中には様々な設備が並び、材料置き場から加工場、組み立て場までが綺麗に整理されていた。
ロジャーはゆっくりと周囲を見回した。
その表情からは先ほどまでの陽気さが少し消えている。
代わりに浮かんでいたのは純粋な興味だった。
「おいおい……」
ロジャーが思わず声を漏らす。
「想像していたよりずっとすげぇな」
レインは肩を竦めた。
「そうですか?」
「そうですか、じゃねぇよ」
ロジャーは笑った。
「普通の十三歳が作る工房じゃねぇ」
それはロジャーだけの感想ではなかった。
船員たちも同じだった。
彼らは世界中を航海している。
大小様々な造船所や工房を見てきた。
その経験があるからこそ分かる。
この工房は異常だった。
ただ広いだけではない。
ただ設備が多いだけでもない。
全てが計算されている。
材料を運ぶ距離。
職人たちの移動経路。
完成品の保管場所。
どこを見ても無駄がない。
レイリーは静かに周囲を観察していた。
そして自然と感心してしまう。
「これは誰が考えた?」
レイリーが尋ねる。
「何がです?」
「工房の配置だ」
レインは即答した。
「俺です」
その答えにレイリーは少し目を細めた。
「全部か?」
「全部ですね」
「なるほどな」
短い返事だった。
しかしその言葉には驚きが含まれていた。
普通なら有り得ない。
工房というものは長年の経験を持つ職人が改良を重ねて完成させるものだ。
それを十三歳の少年が一から設計している。
しかも完成度が高い。
ロジャーも同じことを考えていたらしい。
「本当に面白ぇ奴だな」
そう言って豪快に笑う。
レインは苦笑した。
「皆さん、そればっかりですね」
「だって本当だからな!」
ロジャーは楽しそうだった。
一方でルークは少し離れた場所で船員たちへ説明していた。
「この設備も社長が考えました」
「こっちの工具もです」
「滑車も改良してます」
説明を聞くたびに船員たちの表情が変わる。
最初は半信半疑だった。
しかし実際に見れば信じるしかない。
全て事実なのだから。
「なあ」
一人の船員がルークへ尋ねる。
「本当に十三歳なんだよな?」
「そうですよ」
「嘘じゃなく?」
「俺もそう思います」
ルークが真顔で答える。
船員たちが吹き出した。
「お前もか!」
「だっておかしいじゃないですか」
ルークは真面目だった。
「医者ですよ?」
「船大工ですよ?」
「商会社長ですよ?」
「しかも研究までしてます」
言われた船員たちも頷く。
確かにおかしい。
ロジャーも大笑いしていた。
「ははははは!」
「やっぱり周りもそう思うよな!」
「毎日思ってます」
ルークが即答する。
父も腕を組みながら頷いた。
「俺もだ」
「父さんまで」
レインは不満そうだった。
しかし誰も味方をしてくれない。
そんなやり取りをしながら工房の奥へ進んでいく。
すると大きな机の上に広げられた設計図が目に入った。
ロジャーが足を止める。
「何だこれ?」
「設計図です」
「見てもいいか?」
「どうぞ」
許可を得たロジャーは設計図へ近付いた。
そして、笑顔が消えた。
レイリーも同じだった。
二人とも真剣な顔になる。
そこに描かれていたのは船だった。
しかし普通の船ではない。
構造が違う。
発想が違う。
設計思想そのものが違った。
レイリーは思わず身を乗り出す。
「これはお前が描いたのか?」
「そうです」
「誰かに教わったのか?」
「いいえ」
その返事にレイリーは黙り込む。
教わった形跡がない。
だが完成度は高い。
十三歳の少年が独力で辿り着ける領域ではない。
ロジャーも設計図を見つめていた。
しばらくして、
「これ、作れるのか?」
そう尋ねる。
レインは当然のように答えた。
「作れますよ」
ロジャーとレイリーは顔を見合わせた。
そして、二人同時に笑った。
「ははははは!」
「くくっ」
全く違う笑い方だったが、思っていることは同じだった。
この少年は本物だ。
新聞の記事は決して誇張ではない。
むしろ足りていない。
実際に会った方が異常さが分かる。
工房見学はその後も続いた。
鍛冶場では改良された炉に驚き。
工具置き場では見たことのない道具に感心し。
完成した船を見ては何度も足を止める。
気付けば数時間が経過していた。
夕日が差し込み始めた頃。
ロジャーは満足そうに息を吐いた。
「楽しかったな」
「それは良かったです」
レインが答える。
「久しぶりに面白いものを見た」
ロジャーは本心からそう言った。
レイリーも静かに頷く。
工房。
設備。
技術。
知識。
どれを見ても驚かされた。
しかし。
レイリーの中には別の感情もあった。
違和感だった。
いや、予感と言った方が近い。
この少年にはまだ何かある。
まだ見えていない部分がある。
そんな気がしてならない。
覇王色。
異常な技術力。
年齢に見合わない知識。
それだけでも十分異常だ。
だが、それだけでは説明できない何かを感じる。
レイリーは歩くレインの背中を見る。
不思議な少年だった。
そしてその予感は、今夜現実になる。
まだ誰も知らない。
この日の夜、レインが人生で初めて家族以外へ本名を明かすことを。
そして、その名前がロジャーとレイリーを驚愕させることを。
運命の夜は、静かに近付いていた。