ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第百四十三話「信用」

 

夜の海岸に静寂が流れる。

 

聞こえるのは、寄せては返す波の音だけだった。

 

「ヴェルク・D・レイン。それが俺の本名です」

 

レインの言葉が静かな夜の海へ溶けていく。

 

ロジャーもレイリーも、すぐには何も言わなかった。

 

それほどまでに衝撃的だったのだ。

 

十三歳の少年。

 

天才技術者。

 

船大工。

 

医者。

 

覇王色の覇気の持ち主。

 

それだけでも十分に規格外だった。

 

しかし今、そこへDの名まで加わった。

 

レイリーは静かに息を吐く。

 

「……驚いたな」

 

それは珍しく飾り気のない本音だった。

 

ロジャーもしばらく黙っていたが、やがて小さく笑う。

 

「ははっ」

 

そして立ち上がり、ゆっくりとレインへ歩み寄った。

 

「もう一度聞こう」

 

ロジャーの目は真剣だった。

 

昼間のような気楽さはない。

 

「ヴェルク・D・レイン。それが本名なんだな?」

 

「はい」

 

レインは真っ直ぐ頷く。

 

「家族以外には?」

 

「初めてです」

 

その言葉にレイリーの眉が僅かに動いた。

 

初めて...

 

つまり、この少年は今、自分たちへ最も大きな秘密を打ち明けているということだった。

 

ロジャーはしばらくレインを見つめる。

 

そして静かに口を開いた。

 

「お前」

 

「何ですか?」

 

「俺たちは海賊だぞ?」

 

その声は重かった。

 

レインもその意味を理解している。

 

Dの名がどれほど危険か。

 

もし世界政府に知られればどうなるか。

 

ロジャーも知っている。

 

レイリーも知っている。

 

だからこその問いだった。

 

「そんな相手に本名を明かすのか?」

 

普通なら有り得ない。

 

いや、賢い人間ほど絶対にしない選択だ。

 

しかしレインは迷わなかった。

 

「ええ」

 

即答だった。

 

ロジャーが目を細める。

 

「何故だ?」

 

レインは夜空を見上げた。

 

満天の星々が輝いている。

 

しばらくその光景を眺めた後、静かに答えた。

 

「俺は、あなたたち二人がこの世界で一番信用できると確信しています」

 

沈黙が訪れる。

 

波が静かに岸へ打ち寄せる。

 

レイリーは目を見開いていた。

 

ロジャーも予想外だったらしい。

 

数秒間、誰も言葉を発しなかった。

 

やがてロジャーが苦笑する。

 

「買い被り過ぎじゃねぇか?」

 

「そうですか?」

 

「そうだ」

 

ロジャーは肩を竦めた。

 

「俺は海賊だぞ。善人じゃねぇし、褒められるような人間でもねぇ」

 

だが、レインは首を横へ振る。

 

「いいえ」

 

「俺はそう思いません」

 

ロジャーが黙る。

 

レインは続けた。

 

「少なくとも俺が知る限り、あなたたちは弱い者を踏みにじる人じゃない」

 

「仲間を裏切る人でもない」

 

「守るべきものは守る人です」

 

その言葉には一切の迷いがなかった。

 

断言だった。

 

まるで二人の人生を知っているかのような口ぶりだった。

 

レイリーが小さく笑う。

 

「随分と高く評価してくれているな」

 

「事実ですから」

 

レインはそう答えた。

 

そして少し考えた後、さらに言葉を続ける。

 

「それに」

 

「あなたたちはモーガニアじゃなくて、ピースメインでしょう?」

 

静寂。

 

今度こそ、ロジャーとレイリーが完全に固まった。

 

風が吹く。

 

波が鳴る。

 

だが三人は動かない。

 

「……何だと?」

 

ロジャーが聞き返す。

 

その声には明らかな驚きが混じっていた。

 

レイリーの表情も消えている。

 

普段の穏やかな顔ではなく、鋭い目でレインを見つめていた。

 

「何故、その言葉を知っている?」

 

レイリーが尋ねる。

 

静かな声だったが、その場の空気は一気に張り詰めた。

 

当然だ。

 

モーガニア。

 

ピースメイン。

 

それは海賊の分類だ。

 

一般人が知るような言葉ではない。

 

海賊ですら知らない者が大半である。

 

レインは苦笑した。

 

「色々ありまして」

 

曖昧な答えだった。

 

だが今はそれ以上説明できない。

 

転生者です、などと言えるはずもない。

 

「少なくとも俺はそう思っています」

 

レインは続ける。

 

「略奪を目的とするモーガニア」

 

「冒険を目的とするピースメイン」

 

「あなたたちは少なくとも後者です」

 

ロジャーが笑った。

 

今度は豪快な笑いではない。

 

少し困ったような笑みだった。

 

「参ったな」

 

「ここまで見抜かれるとは思わなかった」

 

レイリーも同意するように頷く。

 

「確かにな」

 

二人とも理解していた。

 

目の前の少年は普通ではない。

 

技術力が異常なのではない。

 

知識が異常なのでもない。

 

もっと根本的な何かがおかしい。

 

まるで世界の裏側を知っているような。

 

そんな感覚だった。

 

そして、レインはまだ話を終えていなかった。

 

「実は――」

 

その言葉に二人が反応する。

 

「まだあるのか?」

 

ロジャーが思わず聞く。

 

レインは苦笑した。

 

「あります」

 

「というか、本題はここからです」

 

ロジャーとレイリーが顔を見合わせる。

 

今までの話が前座だったというのか。

 

二人とも少し呆れていた。

 

そして次の瞬間、レインは静かに告げる。

 

「この島にはポーネグリフがあります」

 

時間が止まった。

 

ロジャーの笑みが消える。

 

レイリーの目が大きく見開かれる。

 

それは今までで一番大きな衝撃だった。

 

夜の海岸に、再び波の音だけが響く。

 

そして運命の歯車は、さらに大きく回り始めるのだった。

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