ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第百四十五話「石の声」

 

月明かりが森を照らしていた。

 

レインを先頭に、ロジャーとレイリーが後を歩く。

 

昼間なら見慣れた森も、夜になると別の場所のように感じられた。

 

木々の隙間から差し込む月光。

 

風に揺れる枝葉。

 

静かな虫の声。

 

その中を三人は進んでいく。

 

もっとも、緊張感など微塵も感じていない男が一人いた。

 

「はははっ! 何だか宝探しみたいだな!」

 

ロジャーが楽しそうに笑う。

 

レインは呆れたように振り返った。

 

「世界政府が必死に隠している歴史の本文を見に行くんですよ?」

 

「そうだな!」

 

「もっと緊張してください」

 

「無理だ!」

 

ロジャーは胸を張った。

 

レイリーがため息を吐く。

 

「諦めろ。こいつは昔からこうだ」

 

「でしょうね」

 

レインも苦笑した。

 

海賊王になる男とは思えない。

 

だが、それこそがロジャーなのだろう。

 

しばらく歩くと、森の景色が変わり始めた。

 

木々が減り、岩肌が露出している場所へ出る。

 

さらに奥へ進む。

 

そしてレインは足を止めた。

 

「着きました」

 

ロジャーとレイリーが前を見る。

 

そこには巨大な崖があった。

 

しかし二人が驚いたのは崖ではない。

 

その崖に埋め込まれるように存在する巨大な鉄扉だった。

 

月明かりを受けて黒く鈍く光っている。

 

高さは五メートル以上。

 

横幅も三メートル近い。

 

普通の家なら丸ごと入ってしまうほど巨大だった。

 

ロジャーの目が見開かれる。

 

「おいおい……」

 

レイリーも珍しく驚きを隠せなかった。

 

「これは凄いな」

 

二人が近付く。

 

鉄扉には無数の傷が刻まれていた。

 

だが不思議なことに、ほとんど錆びていない。

 

何百年も放置されていたとは思えない状態だった。

 

ロジャーが扉を軽く叩く。

 

コンッ。

 

低く重い音が響いた。

 

「相当頑丈だぞ、これ」

 

「俺もそう思います」

 

レインは頷いた。

 

「昔からあったらしいんですが、全然朽ちないんです」

 

「普通じゃないな」

 

レイリーが静かに呟く。

 

海を渡り続けてきた彼だからこそ分かる。

 

この時代の技術では作れない代物だった。

 

レインは鉄扉の横へ向かう。

 

そして岩陰に隠された窪みに手を差し込んだ。

 

ガコン。

 

鈍い音が響く。

 

続いて地面が微かに震えた。

 

ロジャーの顔が輝く。

 

「おおっ!」

 

ゴゴゴゴゴゴ……

 

巨大な鉄扉がゆっくりと動き始める。

 

長い年月眠っていたとは思えない滑らかな動きだった。

 

地下から冷たい空気が流れ出す。

 

ロジャーは子供のような笑顔になる。

 

「秘密基地じゃねぇか!」

 

「違います」

 

レインは即答した。

 

「どう見ても秘密基地だろ!」

 

「違います」

 

「レイリー!」

 

「今回はロジャーが正しい気がするな」

 

「何でですか!?」

 

三人の間に笑いが生まれる。

 

だが、その笑いも長くは続かなかった。

 

扉の向こうを見た瞬間、全員の表情が変わる。

 

そこには人工的な通路が続いていた。

 

石造りの壁。

 

整えられた床。

 

明らかに人の手によって造られた地下施設。

 

しかも規模が大きい。

 

ロジャーが静かに口を開く。

 

「……本物だな」

 

先ほどまでの軽い雰囲気が消えていた。

 

レインは頷く。

 

「はい」

 

三人は通路へ足を踏み入れた。

 

足音だけが響く。

 

しばらく進むと、巨大な空間へ辿り着く。

 

そこで全員が足を止めた。

 

空間の中央。

 

そこに一つの巨大な石が立っていた。

 

青黒い石。

 

圧倒的な存在感。

 

何百年、何千年という時を超えてなお、傷一つない異質な石。

 

ポーネグリフだった。

 

地下空間が静まり返る。

 

ロジャーもレイリーも言葉を失っていた。

 

レインは二人を見た。

 

「これです」

 

その瞬間だった。

 

ロジャーの表情が変わる。

 

何かに引き寄せられるように歩き出した。

 

一歩。

 

また一歩。

 

ポーネグリフへ近付いていく。

 

レイリーが眉をひそめる。

 

「ロジャー?」

 

返事はない。

 

ロジャーは石の前で立ち止まった。

 

そしてゆっくりと手を伸ばす。

 

ポーネグリフへ触れた瞬間――

 

ロジャーの身体が僅かに震えた。

 

「……っ!」

 

レインもレイリーも驚く。

 

ロジャーは目を見開いたまま石を見つめている。

 

「何だ……これ」

 

その声には戸惑いが混じっていた。

 

「どうした?」

 

レイリーが尋ねる。

 

ロジャーは石から手を離さない。

 

まるで耳を澄ませているようだった。

 

「聞こえる訳じゃねぇ」

 

「だが……何かいる」

 

地下空間に静寂が落ちる。

 

ロジャーは目を閉じた。

 

「遠い昔の誰かが」

 

「何かを伝えようとしてる気がする」

 

レインの心臓が跳ねる。

 

やはりだ。

 

万物の声。

 

文字を読めなくても、この男は石に刻まれた想いを感じ取っている。

 

レイリーは呆れたように息を吐く。

 

「また始まったか」

 

「また?」

 

レインが聞き返す。

 

「こいつは昔から時々こうなる」

 

「誰にも分からないものを感じるんだ」

 

ロジャー本人ですら理由は分かっていない。

 

だが、その感覚はいつも正しかった。

 

ロジャーはゆっくりと目を開く。

 

そしてポーネグリフを見上げた。

 

「この石には確かに誰かの想いが残ってる」

 

その言葉に嘘はなかった。

 

数百年。

 

あるいは八百年以上前。

 

滅びた誰かが未来へ託した想い。

 

それが今、この場所に残っている。

 

レインは改めて確信した。

 

この男は本当に世界の真実へ辿り着く。

 

そして今、その旅路がまた一歩前へ進んだのだった。

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