ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第百四十六話「受け継がれた知識」

 

地下空間には静寂が満ちていた。

 

ロジャーはポーネグリフの前に立ったまま、その石を見つめている。

 

先ほどまで感じていた不思議な感覚を思い出しているのだろう。

 

レイリーも黙ってその様子を見守っていた。

 

しばらくして、ロジャーが大きく息を吐く。

 

「分からねぇな」

 

その言葉にレインは苦笑した。

 

「何か感じたんじゃないんですか?」

 

「感じた」

 

ロジャーは即答する。

 

「だが、何を感じたのかは分からねぇ」

 

「何だそれ」

 

レイリーが呆れたように言う。

 

ロジャーは豪快に笑った。

 

「俺にも説明できねぇんだよ!」

 

レインも思わず笑ってしまう。

 

やはり変わった男だ。

 

だが、その感覚こそがロジャーをロジャーたらしめているのだろう。

 

世界の誰にも見えないものを見ている。

 

誰にも聞こえないものを感じている。

 

だからこそ、この男は世界の果てへ辿り着く。

 

そんな気がした。

 

「それで?」

 

ロジャーが振り返る。

 

「これで全部か?」

 

レインは首を横に振った。

 

「いえ」

 

その言葉にロジャーが笑う。

 

「やっぱりまだあるのか」

 

「あります」

 

レイリーが額を押さえた。

 

「もう驚かないぞ」

 

「多分驚きます」

 

「おい」

 

三人は再び歩き始める。

 

ポーネグリフのある空間を抜け、さらに奥へ向かう。

 

そこには一見すると何もない石壁があった。

 

だがレインは迷わず壁の一部へ手を伸ばす。

 

カチリ。

 

小さな音が響く。

 

すると石壁の一部がゆっくりと横へ動いた。

 

隠し部屋だった。

 

「本当に秘密基地じゃねぇか」

 

「だから違います」

 

ロジャーは笑う。

 

レインも半ば諦めていた。

 

隠し部屋の中は広くない。

 

十畳ほどの空間だった。

 

しかし部屋の中央には机があり、その上には何冊もの古い手帳や巻物が並んでいる。

 

壁際には棚まであった。

 

ロジャーとレイリーの表情が変わる。

 

財宝ではない。

 

だが、それ以上に価値がありそうだった。

 

「これは……」

 

レイリーが呟く。

 

レインは静かに頷いた。

 

「俺の一族に代々受け継がれてきたものです」

 

そう言いながら、一冊の古びた手帳を手に取る。

 

革表紙は色褪せている。

 

だが丁寧に保管されていたため、今でも十分読める状態だった。

 

「これが一番古いものです」

 

ロジャーが机へ近付く。

 

「何が書いてある?」

 

「見た方が早いです」

 

レインは手帳を開いた。

 

ロジャーとレイリーが覗き込む。

 

そして二人は同時に眉をひそめた。

 

そこに書かれていたのは文章ではなかった。

 

精密な図面。

 

歯車。

 

軸。

 

滑車。

 

複雑な機構。

 

見たこともない装置。

 

ページ一面に細かな線が描かれている。

 

「何だこれは……」

 

ロジャーが呟く。

 

レイリーも真剣な顔になっていた。

 

「船の設計図ではないな」

 

「はい」

 

レインは頷く。

 

ページをめくる。

 

次のページ。

 

また図面だった。

 

さらに次。

 

さらに次。

 

そこに描かれているのは様々な機械。

 

荷物を持ち上げる装置。

 

大量の水を汲み上げる装置。

 

人力を効率良く利用する仕組み。

 

どれも今の世界には存在しない技術ばかりだった。

 

ロジャーが頭を掻く。

 

「全然分からねぇ」

 

「俺も最初はそうでした」

 

レインは苦笑する。

 

だが前世の知識があった。

 

だから理解できた。

 

理解できてしまった。

 

この手帳の価値を。

 

「これは滑車です」

 

レインが図面を指差す。

 

「これは荷物を持ち上げるための装置」

 

さらにページをめくる。

 

「こっちは大型クレーンの原型みたいなものですね」

 

ロジャーが首を傾げる。

 

「便利なのか?」

 

「かなり便利です」

 

「ほう」

 

レインはさらにページをめくる。

 

そこには見覚えのある形が描かれていた。

 

翼。

 

細長い胴体。

 

そして尾翼。

 

レインの動きが止まる。

 

ロジャーとレイリーも気付いた。

 

「何だこれは?」

 

レイリーが尋ねる。

 

レインはしばらく黙っていた。

 

何度見ても信じられない。

 

前世で見慣れた形。

 

それによく似ている。

 

「……空を飛ぶための乗り物です」

 

その言葉に二人が固まった。

 

「空を飛ぶ?」

 

ロジャーが聞き返す。

 

「はい」

 

「鳥みたいにか?」

 

「鳥みたいにです」

 

沈黙。

 

数秒後。

 

ロジャーが爆笑した。

 

「ははははははっ!」

 

地下空間に笑い声が響く。

 

「空を飛ぶ船か!」

 

「面白ぇ!」

 

レイリーも苦笑している。

 

普通なら笑うだろう。

 

だがレインは笑えなかった。

 

なぜなら、この図面は理論的に成立しているように見えたからだ。

 

少なくとも自分にはそう見える。

 

「本当に作れると思うのか?」

 

レイリーが尋ねる。

 

レインはゆっくりと頷いた。

 

「材料と技術があれば」

 

その言葉に二人の笑みが消える。

 

冗談ではない。

 

レインは本気だった。

 

そして、この少年は本当に作りかねない。

 

ロジャーとレイリーは同じことを考えていた。

 

レインはさらにページをめくる。

 

その時だった。

 

何枚もの設計図の間から、一枚の紙が落ちる。

 

ひらりと床へ舞い落ちた。

 

レインはそれを拾い上げる。

 

そして、その紙を見た瞬間――

 

表情が変わった。

 

そこに描かれていたのは設計図ではなかった。

 

文字だった。

 

手帳の中に挟まれていた一通の手紙。

 

そして冒頭には、こう書かれていた。

 

『我が親友へ』

 

地下空間に再び静寂が訪れる。

 

ロジャーとレイリーの視線が紙へ向けられる。

 

そしてレインは静かに息を呑んだ。

 

設計図ではない。

 

誰かが誰かへ宛てた言葉。

 

八百年以上前から残されていた、本物の遺言がそこにあった。

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