ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
地下空間に静寂が落ちる。
レインの手には一枚の古びた紙が握られていた。
何百年も前のものとは思えないほど状態は良い。
それだけ大切に保管されていたのだろう。
ロジャーもレイリーも、その紙を見つめていた。
設計図ではない。
技術書でもない。
誰かが誰かへ宛てた手紙だった。
そして、その冒頭に書かれていた言葉。
『我が親友へ』
たったそれだけの一文なのに、不思議な重みがあった。
まるで八百年以上の時を超えて語りかけてくるような感覚。
ロジャーが口を開く。
「読んでみろ」
レインは小さく頷いた。
そして紙へ視線を落とす。
古い文字だったが、これまで何度も読んできた。
だから内容は理解できる。
レインは静かに読み始めた。
『我が親友へ』
『君がこれを読んでいる頃、私はもうこの世にはいないだろう』
地下空間にレインの声だけが響く。
『この手紙が君へ届くかも分からない』
『だが、どうしても残しておきたかった』
『だから私は書く』
ロジャーもレイリーも黙って聞いていた。
『まず謝らせてほしい』
『約束を守れなかった』
『君と共に未来を見ることが出来なかった』
『本当にすまない』
レインの声が止まる。
地下空間が静まり返る。
誰も何も言わない。
ただ、その文章の重さだけが伝わってくる。
まるで書いた本人の後悔が、そのまま残っているかのようだった。
レインは続きを読む。
『君は最後まで諦めなかった』
『最後まで笑っていた』
『最後まで未来を信じていた』
『だから私は君を尊敬している』
『そして今も親友だと思っている』
ロジャーの表情が少し変わる。
その言葉に何か感じるものがあったのかもしれない。
レイリーも静かに目を閉じていた。
レインはさらに読み進める。
『世界は変わってしまった』
『我々は敗れた』
『仲間は散り散りになった』
『王国は滅びるだろう』
『多くの知識も歴史も失われる』
その文章にロジャーの目が鋭くなる。
王国。
その単語に反応したのだ。
レインも気付いていた。
おそらくこれは巨大な王国のことだ。
だが、まだ名前は書かれていない。
『だから私は未来へ残す』
『歴史を』
『知識を』
『技術を』
『そして希望を』
レインの視線が自然と机の上の設計図へ向く。
滑車。
揚水装置。
巨大クレーン。
飛行機に似た設計図。
あれら全てが、この文章へ繋がっていた。
『君は昔から笑っていたな』
『不可能だと言われても笑っていた』
『無理だと言われても笑っていた』
『だから最後まで信じている』
『いつか君の想いを受け継ぐ者が現れることを』
地下空間に沈黙が落ちる。
ロジャーは腕を組んでいた。
その顔から笑みは消えている。
真剣だった。
レインは次の一文を読む。
そして、その瞬間だった。
ロジャーとレイリーの表情が変わる。
『もし未来に辿り着いた者がいるなら』
『どうか伝えてほしい』
『ジョイボーイ』
地下空間の空気が変わった。
レインはそこで一度読むのを止める。
ロジャーが静かに呟いた。
「ジョイボーイ……」
初めて聞く名前のはずだった。
だが、不思議だった。
どこかで聞いたことがあるような感覚があった。
ポーネグリフへ触れた時と同じだ。
説明出来ない。
だが心の奥が反応している。
レイリーも眉をひそめる。
「知り合いか?」
「知らねぇ」
ロジャーは即答した。
「知らねぇんだが……」
そこで言葉を切る。
そしてポーネグリフのある方向を見る。
「妙に引っかかる」
レインは内心で驚いていた。
やはり万物の声だ。
まだ何も知らない。
それでもロジャーは何かを感じている。
八百年以上前の人物の名前に。
レインは再び手紙へ目を落とす。
続きを読もうとした、その時だった。
パサリ。
一枚の紙が手帳の奥から滑り落ちた。
三人の視線が集まる。
床に落ちたそれは手紙ではない。
設計図だった。
だが、今までの設計図とは明らかに違う。
レインがそれを拾い上げる。
そして息を呑んだ。
「これは……」
ロジャーが覗き込む。
レイリーも見る。
そこに描かれていたのは船だった。
しかし普通の船ではない。
翼があった。
巨大な翼。
そして無数の見たこともない機構。
レインの知識をもってしても、一目では理解できないほど高度な設計だった。
手紙の続きよりも先に、その設計図が目に飛び込んでくる。
まるで八百年前の技術者が、
『まだ終わりではない』
そう言っているかのように。
地下遺跡の奥深く。
失われた歴史は、まだほんの入口に過ぎなかった。