ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
地下遺跡には静かな空気が流れていた。
レインとロジャーは固く握手を交わしている。
未来の約束。
それは口約束かもしれない。
だが、この場にいる三人は誰も軽いものだとは思っていなかった。
ロジャーは約束を守る男だ。
レインもそれを理解している。
しばらくして、ロジャーが握っていた手を離した。
そして突然、楽しそうに笑う。
「なあレイン」
「何ですか?」
「お前、うちの船に乗らねぇか?」
あまりにも自然に言われたので、レインは一瞬意味が分からなかった。
数秒後、
「は?」
思わず間の抜けた声が出る。
レイリーは額を押さえた。
「やっぱり言ったか」
「何ですかその反応」
レインが呆れる。
レイリーはため息を吐いた。
「気に入った奴はすぐ誘うんだ」
「なるほど」
レインは納得した。
確かにロジャーらしい。
ロジャーは腕を組む。
「だって面白ぇじゃねぇか」
「十三歳で工房を経営してる」
「医者もやってる」
「覇王色も持ってる」
「空飛ぶ船みたいなもんも作ろうとしてる」
「その上Dだ」
ロジャーは笑う。
「こんな奴、仲間に欲しいだろ」
レインは苦笑した。
確かに言いたいことは分かる。
だが答えは決まっていた。
「お断りします」
即答だった。
ロジャーもレイリーも笑う。
まるで予想していたかのようだった。
「理由は?」
ロジャーが聞く。
レインは少しだけ考える。
そして静かに答えた。
「家族がいます」
まずそれが一つ。
「工房もあります」
二つ目。
「それに」
レインは周囲を見渡した。
ポーネグリフ。
設計図。
地下遺跡。
先祖が残したもの。
「俺にはまだ、この島でやることがあります」
その言葉に迷いはなかった。
ロジャーは数秒間レインを見つめる。
そして大笑いした。
「はははははっ!」
地下遺跡に笑い声が響く。
「だと思った!」
「聞く意味ありました?」
「ある!」
ロジャーは胸を張った。
「誘わなきゃ後悔するからな!」
レインは呆れてしまう。
だが嫌な気分ではなかった。
ロジャーらしいと思ったからだ。
レイリーも苦笑する。
「安心したよ」
「何がですか?」
「もし付いていくと言ったら、逆に心配になる」
その言葉にレインも笑った。
確かにそうかもしれない。
今の自分が島を捨てて海へ出ることはない。
まだ早い。
やるべきことが残っている。
ロジャーは笑みを浮かべたまま言った。
「だが覚えておけ」
「はい?」
「いつか海へ出る気になったら来い」
ロジャーは親指で自分を指す。
「歓迎してやる」
レインは思わず笑った。
「その頃には解散してるかもしれませんよ」
「それもそうだ!」
ロジャーは豪快に笑う。
レイリーまで吹き出した。
数分前まで世界の歴史について語っていたとは思えない空気だった。
しかし、それが心地良かった。
重い話ばかりでは疲れてしまう。
だからこそ、この二人は特別なのだろう。
しばらくして、ロジャーがふと思い出したように口を開いた。
「そういや」
「何ですか?」
「お前の先祖の名前は何て言うんだ?」
レインの動きが止まる。
レイリーも視線を向けた。
ロジャーは真剣だった。
ふざけている訳ではない。
約束したからだ。
最後の島へ辿り着いた時。
何か見つけたら教える。
そのためには名前を知らなければならない。
レインは静かに息を吐く。
そして答えた。
「ヴェルク・D・ルーメン」
地下遺跡にその名が響く。
ロジャーもレイリーも黙っている。
レインは続けた。
「俺の一族で最も有名な人物です」
「少なくとも、この手帳や設計図を残した本人だと伝わっています」
ロジャーはゆっくりと頷いた。
「ヴェルク・D・ルーメンか」
一度。
そしてもう一度。
忘れないように繰り返す。
「ヴェルク・D・ルーメン」
レイリーも静かに口にした。
「覚えた」
ロジャーは笑う。
「よし」
そしてレインを見る。
「約束だ」
その目は真剣だった。
「もし最後の島にその名前があったら」
「必ずお前に伝える」
レインは頷く。
「お願いします」
短いやり取りだった。
だが十分だった。
信頼があった。
だから成立する約束だった。
ロジャーは再びポーネグリフを見上げる。
八百年前の歴史。
ヴェルク・D・ルーメン。
ジョイボーイ。
巨大な王国。
失われた技術。
全てはまだ繋がっていない。
だが確かに何かがある。
そんな予感がしていた。
そして数年後、世界の果てで、ロジャーはこの夜の約束を思い出すことになる。
まだ誰も知らない未来だった。