ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
翌朝。
レイン工房の前は朝から妙に騒がしかった。
理由は簡単だ。
ロジャーがいるからである。
朝食を終えたロジャーは、工房の前で腕を組みながらレインを見ていた。
そして突然言った。
「なあレイン」
「何ですか?」
「戦ってみないか?」
その場の空気が止まった。
レインが瞬きをする。
ルークが固まる。
周囲にいたロジャー海賊団の船員たちも一斉に振り返った。
「は?」
レインが聞き返す。
ロジャーは笑った。
「だから戦おうぜ」
まるで昼飯でも誘うような軽さだった。
ルークは即座に首を横へ振る。
「やめといた方が良いですよ」
真顔だった。
心の底からそう思っている顔だった。
「相手はロジャーさんですよ?」
「知ってる」
「絶対勝てませんよ?」
「知ってる」
「じゃあ何でそんなに嬉しそうなんですか?」
ルークが呆れたように言う。
するとレインは口元を吊り上げた。
ニヤリ。
完全に悪い顔だった。
その表情を見た瞬間、ルークは嫌な予感がした。
十三年の付き合いだ。
この顔を知っている。
何か面白そうなことを思いついた時の顔だ。
レインはロジャーを見る。
海賊王になる男。
世界最強クラスの怪物。
そんな相手と戦える機会など二度とないかもしれない。
負ける。
そんなことは分かっている。
だが――
「ちょっと待っててください」
そう言い残し、レインは工房へ走っていった。
ロジャーが笑う。
「おっ?」
レイリーも興味深そうに見ていた。
数分後。
レインが戻ってくる。
その手には一本の刀があった。
黒い鞘。
美しい鍔。
そして、ただならぬ存在感。
それを見たレイリーの目が細くなる。
ロジャーも笑みを浮かべた。
「ほう……」
レインはゆっくりと鞘へ手を添える。
名刀『黎明』。
鍛冶弟子を卒業した日に、師匠から託された最上大業物。
師匠の友達が生涯をかけて打ち上げた最高傑作だった。
レイン自身が作った刀ではない。
だが、だからこそ特別だった。
師匠から受け継いだ意志。
認められた証。
そして、いつかこの刀に相応しい男になろうと決意した日の象徴でもある。
しかし――
実はまだ一度も実戦で使ったことがなかった。
レインの修行は拳が中心だった。
武装色も。
見聞色も。
全て拳で鍛えてきた。
そのため黎明は工房の一番目立つ場所へ飾られたままになっていた。
使う機会がなかったのだ。
だが今日だけは違う。
未来の海賊王。
世界最高峰の怪物。
そんな相手と戦える機会など二度と訪れないだろう。
師匠から受け継いだ黎明の初陣。
相手としては、これ以上ない。
レインはゆっくりと刀を抜いた。
キィィン――
澄んだ音が響く。
朝日に照らされた刀身が輝いた。
その瞬間。
ロジャーの目が変わる。
先ほどまでの軽い雰囲気が消えた。
レイリーも静かに息を吐く。
ロジャー海賊団の船員たちがざわつく。
「おい……」
「あの刀……」
「何か凄くねぇか?」
武器の良し悪しなど分からない者も多い。
それでも分かる。
ただの刀ではない。
レイリーが静かに口を開く。
「最上大業物か」
レインは頷いた。
「はい」
ロジャーが楽しそうに笑う。
「ますます面白ぇな」
レインは黎明を構えた。
当然ながら剣術は素人だ。
まともに習ったこともない。
だが不思議と手には馴染む。
師匠から託された刀だからだろうか。
それとも、自分自身がこの刀を信頼しているからだろうか。
レインはゆっくりと息を吐く。
武装色。
見聞色。
まだ未熟。
まだ発展途上。
それでも今の自分がどこまで通用するのか。
確かめたい。
ロジャーは腰の剣へ手を置いた。
そして笑う。
「安心しろ」
「殺さねぇよ」
「それはどうも」
レインも笑った。
周囲ではロジャー海賊団の船員たちが距離を取っている。
ルークなど、すでにかなり離れていた。
「いやいやいや……」
「何でそんな楽しそうなんですか……」
レインは聞こえないふりをした。
そして黎明を握る。
緊張はない。
恐怖もない。
あるのは高揚感だけだった。
海賊王になる男。
未来の伝説。
その怪物へ今、自分の全力をぶつけられる。
こんな機会は二度とない。
ロジャーも剣を抜く。
その瞬間。
空気が変わった。
船員たちの表情が引き締まる。
レイリーも目を細めた。
ただ剣を抜いただけ。
それなのに圧力が違う。
覇気が違う。
存在感が違う。
まるで巨大な猛獣が目の前に現れたかのようだった。
レインの背中に冷たい汗が流れる。
だが――
笑みは消えない。
むしろ深くなる。
「来い」
ロジャーが言う。
その言葉を聞いた瞬間。
レインは地面を蹴った。
初めて振るう最上大業物『黎明』。
初めて挑む剣での戦い。
そして相手は未来の海賊王。
勝敗など最初から決まっている。
それでも、どこまで届くのか...
レインはその一撃に全てを込めた。