ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
レインの身体が地面を蹴る。
土が弾ける。
一歩。
二歩。
そして三歩目で一気に加速した。
見聞色を最大限に研ぎ澄ます。
呼吸。
重心。
筋肉の動き。
ロジャーの全てを捉えようとする。
同時に武装色を黎明へ流し込む。
さらに――
覇王色。
黒い覇気が刀身へ纏わりつく。
バチッ。
黒い稲妻が走った。
その瞬間だった。
ロジャーの目が見開かれる。
レイリーの表情も変わった。
レインは気付かない。
ただ全力だった。
「はああああっ!!」
黎明が振り下ろされる。
ガキィィィィン!!
凄まじい衝撃が周囲へ広がった。
地面が砕ける。
砂が舞い上がる。
船員たちが思わず目を見開いた。
「なっ!?」
「今の何だ!?」
「黒い雷みたいなのが……!」
ロジャーは片手で受け止めていた。
だが、その顔から笑みは消えている。
真剣だった。
レインの一撃を真正面から受けながら、ロジャーは呟く。
「おいおい……」
その声には驚きが混じっていた。
「嘘だろ」
レインは歯を食いしばる。
全力だ。
だが動かない。
まるで巨大な山だった。
押しても。
押しても。
一ミリも動かない。
ロジャーはレインを見る。
そして聞いた。
「お前」
「はい?」
「覇王色を纏ってるのか?」
レインは首を傾げた。
「多分?」
沈黙。
レイリーが額を押さえた。
「多分で済む話じゃない」
ロジャーが吹き出す。
「はははっ!」
「だよなぁ!」
船員たちは意味が分からない。
だがレイリーとロジャーだけは理解していた。
十三歳。
覇王色持ち。
それだけでも異常。
その上、覇王色纏い。
普通なら有り得ない。
ロジャーは笑みを浮かべる。
「面白ぇ」
そして次の瞬間、空気が変わった。
レインの見聞色が絶叫する。
危険。
危険。
危険。
危険。
身体中の細胞が警鐘を鳴らす。
本能が逃げろと叫ぶ。
しかし遅い。
ドォォォォォン!!
ロジャーの覇王色が解放された。
空が震える。
大地が軋む。
周囲の空気そのものが重くなる。
船員たちですら息を呑んだ。
レインは真正面からそれを受ける。
「ぐっ……!」
足が沈む。
膝が震える。
意識が揺らぐ。
だが倒れない。
覇王色を解放する。
黒い雷が周囲へ走る。
二つの覇王色がぶつかり合った。
バチバチバチッ!!
大気が悲鳴を上げる。
ルークは青ざめていた。
「何なんですかこれ……」
意味が分からない。
ただ恐ろしかった。
数秒後、ロジャーが覇気を引っ込める。
空気が軽くなる。
レインは荒い息を吐いた。
それだけで全身が汗だくだった。
ロジャーは笑う。
「立ってるか」
「何とか」
「そうか」
その瞬間、ロジャーが動いた。
消えたように見えた。
速い。
レインの見聞色が必死に追う。
右。
違う。
左。
違う。
上。
来る!
黎明を振り上げる。
ガキン!!
受けた。
しかし喜ぶ暇はない。
二撃目。
三撃目。
四撃目。
ガキン!
ガキィン!
ガキィィン!!
火花が散る。
レインは必死に防ぐ。
だが技術が違う。
経験が違う。
剣術が違う。
レインは剣術を学んでいない。
ロジャーは何十年も戦い続けてきた怪物だ。
差は歴然だった。
そして――
ドン!!
最後の一撃。
黎明が空中へ弾き飛ばされる。
レインも後方へ吹き飛んだ。
地面を転がりながらも受け身を取る。
そして立ち上がる。
勝負ありだった。
静寂。
数秒後、ロジャーが剣を肩へ担ぐ。
「終わりだな」
レインは苦笑した。
「完敗です」
「当たり前だ」
ロジャーは笑う。
周囲の船員たちも笑っていた。
だがロジャーの目は真剣だった。
「どうでした?」
レインが聞く。
ロジャーは少し考えた。
そして言う。
「剣は下手くそだな」
レインが固まる。
ルークが吹き出した。
レイリーまで笑っている。
「ですよね……」
レインは肩を落とした。
するとロジャーが続ける。
「だが」
その一言で空気が変わる。
「覇気は異常だ」
ロジャーは断言した。
「武装色も見聞色も十分強い」
「だが一番おかしいのは覇王色だ」
船員たちがざわつく。
レイリーも静かに頷いた。
「私も同意見だ」
「十三歳で覇王色纏いなど聞いたことがない」
レインが苦笑する。
自覚はあった。
普通ではないことくらい。
だが目の前の二人に言われると流石に実感する。
ロジャーはレインを見る。
「お前、本当に十三歳か?」
「多分」
再び沈黙。
そしてロジャーとレイリーが同時に吹き出した。
「またそれか!」
「またそれだな」
周囲もつられて笑う。
緊張感が一気に消えた。
しばらく笑った後。
ロジャーは真面目な顔になる。
「レイン」
「はい」
「技術を磨くのは良い」
「だが戦う力も磨け」
その言葉は重かった。
「この海は甘くねぇ」
「お前みたいな奴ほど狙われる」
ポーネグリフ。
古代技術。
Dの名。
レインは秘密を抱え過ぎている。
だから強くならなければならない。
ロジャーは笑う。
「今のお前はまだ未熟だ」
「だが――」
そして空を見上げた。
「その歳でそこまで来てるなら」
「十年後は本当に分からんな」
レインは目を見開く。
ロジャーは本気だった。
冗談ではない。
未来の話をしている。
期待している。
そう理解できた。
レインは地面に落ちていた黎明を拾い上げる。
そしてロジャーを見る。
その背中は大きかった。
果てしなく遠かった。
今はまだ届かない。
だが――
いつか...
そう思わせるには十分過ぎるほど。
その背中は眩しかった。