ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
ロジャーとの模擬戦が終わった後も、工房の前には興奮が残っていた。
船員たちは口々に感想を言い合っている。
「あのガキ、本当に十三歳か?」
「覇王色を纏ってただろ?」
「いや、俺も見間違いかと思った」
「ロジャー船長が驚いてたぞ」
誰もが信じられないものを見た顔をしていた。
それも無理はない。
十三歳の少年が未来の海賊王と剣を交えたのだ。
しかも一撃とはいえ、ロジャーを驚かせた。
普通ではない。
どう考えても普通ではなかった。
レインはそんな周囲の声を聞きながら、黎明を鞘へ納める。
初陣は完敗だった。
だが不思議と悔しさよりも収穫の方が大きかった。
今の自分に何が足りないのか。
どこを鍛えるべきなのか。
それがよく分かった。
ロジャーはそんなレインを見て笑う。
「いい顔してるな」
「そりゃあ、あれだけ差を見せられましたからね」
レインは苦笑した。
ロジャーとの差は圧倒的だった。
技術。
経験。
戦闘勘。
全てが違う。
だが同時に目標も出来た。
いつか追い付く。
そんな無謀なことを本気で思ってしまうくらいには...
その時だった。
一人の船員が恐る恐る近付いてきた。
「あのー……」
ロジャーが振り返る。
「ん?」
船員は何とも言えない表情をしていた。
困っているような。
呆れているような。
そんな顔だった。
「ちょっと報告が……」
「何だ?」
船員は頭を掻きながら言った。
「二人の覇気で二十人くらい気絶しました……」
沈黙...
数秒後、レインが固まる。
ロジャーも固まる。
「……は?」
二人の声が重なった。
船員は遠くを指差す。
そこには地面へ転がっている船員たちの姿があった。
一人。
二人。
三人。
いや、それどころではない。
あちこちで人が倒れている。
中には白目を剥いている者までいた。
レインの頬が引きつる。
「え?」
ロジャーも目を瞬かせる。
「そんなに?」
「そんなにです」
船員は即答した。
「というか途中から数えるのやめました」
レインが思わずルークを見る。
ルークは呆れた顔だった。
「だから言ったじゃないですか」
「いや、まさか……」
「まさかじゃないです」
ルークはため息を吐く。
その隣ではレイリーも額を押さえていた。
「やり過ぎだ」
呆れた声だった。
そしてロジャーを見る。
「お前もだ」
「俺もか?」
「お前以外に誰がいる」
即答だった。
ロジャーは笑う。
「はははっ!」
反省の色が全くない。
レイリーはさらに呆れた。
そして今度はレインを見る。
「お前もだ」
「俺ですか?」
「当然だ」
レイリーは断言する。
「ロジャーが異常なのは今さらだが、お前まで全力で覇王色をぶつけるな」
「いや、だって……」
「だってじゃない」
レインが言い訳しようとした瞬間、切り捨てられた。
ルークも大きく頷く。
「レイリーさんの言う通りです」
そして二人を交互に見る。
「やり過ぎです。二人とも」
完全に保護者だった。
ロジャーが吹き出す。
レインも笑ってしまう。
「すみません」
「反省してます」
「してねぇだろ」
レイリーが即座に突っ込む。
「してますよ」
「お前、今ちょっと嬉しそうだったぞ」
図星だった。
レインは思わず目を逸らす。
確かに少しだけ嬉しかった。
二十人も気絶させたことではない。
自分の覇気がそれだけ通用したことにだ。
それを察したレイリーはため息を吐いた。
「全く……」
だが、その表情には僅かに笑みも混じっていた。
十三歳でここまで来るとは思わなかった。
ロジャーも同じ気持ちなのだろう。
楽しそうにレインを見ている。
「まあいいじゃねぇか」
「良くない」
「誰も死んでねぇし」
「そういう問題じゃない」
レイリーの突っ込みが飛ぶ。
周囲の船員たちは笑い始めていた。
倒れている船員たちも、気絶しているだけで命に別状はない。
むしろ後で格好の酒の肴になるだろう。
『ロジャーとレインの覇王色で気絶した』
そんな話がしばらく船で語られるに違いない。
レインは苦笑しながら黎明へ視線を落とした。
そして心の中で思う。
まだまだだ...
ロジャーとの差は遠い。
だが今日、その背中を少しだけ見ることが出来た。
それだけでも十分な収穫だった。
そして、その様子を見ていたロジャーは。
「次は拳でもやるか?」
と笑顔で言い放った。
「やめてください」
「やめとけ」
「やめといた方が良いです」
レイン。
レイリー。
ルーク。
三人の声が見事に揃ったのだった。