ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第百五十四話「出航の日」

 

翌朝。

 

港には多くの島民が集まっていた。

 

ロジャー海賊団が出航する日だった。

 

数日という短い滞在だったが、島民たちにとっては強烈な時間だった。

 

最初は海賊ということで警戒していた者も多い。

 

だが今では違う。

 

宴では大騒ぎし。

 

子供たちと遊び。

 

酒を飲み。

 

笑い合った。

 

少なくとも、この島にいる間のロジャー海賊団は悪人には見えなかった。

 

港には見送りの声が飛び交っている。

 

「また来いよー!」

 

「次はもっと酒持ってこい!」

 

「元気でなー!」

 

船員たちも笑いながら手を振っていた。

 

そんな中、レインは少し離れた場所からその光景を眺めていた。

 

隣にはルークもいる。

 

「行っちゃいますね」

 

ルークが呟く。

 

「そうだな」

 

レインは頷いた。

 

不思議な気分だった。

 

ほんの数日前まで、まさかロジャーとこんな関係になるとは思ってもいなかった。

 

未来の海賊王。

 

世界最強の一角。

 

そんな男と酒を飲み、笑い、戦い、秘密まで共有した。

 

普通なら一生あり得ない経験だ。

 

その時だった。

 

「よう」

 

聞き慣れた声がした。

 

振り返る。

 

ロジャーだった。

 

その後ろにはレイリーもいる。

 

レインは苦笑した。

 

「出航準備は良いんですか?」

 

「問題ねぇ」

 

ロジャーは笑う。

 

どう考えても問題ありそうだが、本人がそう言うならそうなのだろう。

 

レイリーも肩を竦めるだけだった。

 

「レイン」

 

ロジャーが呼ぶ。

 

「何ですか?」

 

「強くなれよ」

 

短い言葉だった。

 

だが、その声には真剣さがあった。

 

レインは少し笑う。

 

「そっちこそ死なないでください」

 

沈黙。

 

数秒後。

 

ロジャーが吹き出した。

 

「ははははっ!」

 

「無茶言うな!」

 

周囲の船員たちも笑い出す。

 

レイリーまで口元を押さえていた。

 

レインもつられて笑う。

 

海賊に向かって死ぬなと言うのも変な話だ。

 

だが本音だった。

 

この男には生きていてほしい。

 

少なくとも今は。

 

ロジャーは笑いながら言う。

 

「安心しろ」

 

「簡単には死なねぇよ」

 

その言葉にレインは何とも言えない表情になる。

 

未来を知っているからだ。

 

だが、それを言うことは出来ない。

 

だからただ頷いた。

 

「そうですね」

 

それ以上は言わなかった。

 

しばらくして。

 

ロジャーは突然真面目な顔になる。

 

そして海を見た。

 

水平線の向こう。

 

まだ誰も知らない世界。

 

まだ誰も辿り着いていない場所。

 

その景色を眺めながら言う。

 

「お前は必ず海へ出る」

 

レインが目を瞬かせた。

 

「何でそう思うんです?」

 

ロジャーは振り返る。

 

そして笑った。

 

「目だよ」

 

「目?」

 

「ああ」

 

ロジャーは頷く。

 

「お前の目は島で終わる奴の目じゃねぇ」

 

静かな声だった。

 

レインは何も言えなかった。

 

ロジャーは続ける。

 

「今は家族もいる」

 

「工房もある」

 

「やることもある」

 

「だから出ないだろう」

 

そこまではレインも同意だった。

 

だがロジャーは笑う。

 

「それでもいつか出る」

 

「世界を見たくなる」

 

「確かめたくなる」

 

「自分の足で歩きたくなる」

 

ロジャーはレインを見る。

 

「そういう目をしてる」

 

レインは思わず黙り込んだ。

 

否定出来なかった。

 

数日前までなら否定していただろう。

 

島の発展。

 

工房の経営。

 

それだけで十分だと思っていた。

 

だが今は違う。

 

ポーネグリフ。

 

ジョイボーイ。

 

ヴェルク・D・ルーメン。

 

巨大な王国。

 

知ってしまった。

 

そして知ってしまった以上、気にならない訳がない。

 

ロジャーはそんなレインの様子を見て笑った。

 

「ほらな」

 

「……ずるいですよ」

 

「何がだ?」

 

「そういうところです」

 

ロジャーは意味が分からないという顔をした。

 

だがレイリーは笑っていた。

 

「確かに」

 

レインが思わず聞き返す。

 

「レイリーさんまで」

 

「こいつは昔からそうだ」

 

レイリーは苦笑する。

 

「妙なところで人の本質を見抜く」

 

ロジャーは胸を張った。

 

「だろ?」

 

「褒めてない」

 

即答だった。

 

そのやり取りにレインもルークも笑う。

 

するとレイリーがレインへ視線を向けた。

 

「それと」

 

「はい?」

 

「剣術も覚えろ」

 

レインの動きが止まる。

 

レイリーは容赦なく続けた。

 

「せっかくの最上大業物が泣いているぞ」

 

昨日の模擬戦を思い出す。

 

剣は下手くそ。

 

見事にそう評価された。

 

レインは苦笑した。

 

「善処します」

 

するとレイリーは即答した。

 

「その返事は信用できんな」

 

ロジャーが吹き出す。

 

ルークまで笑い始めた。

 

レインは肩を落とす。

 

「そんなに信用ありません?」

 

「ないな」

 

「無いですね」

 

「無い」

 

三人の返答が綺麗に揃った。

 

港に笑い声が響く。

 

そして。

 

船の方から出航準備完了の声が聞こえた。

 

ロジャーが振り返る。

 

「さて」

 

ついにその時が来た。

 

ロジャーは船へ向かって歩き出す。

 

レイリーも続く。

 

数歩進んだところで、ロジャーは振り返った。

 

そして大きく手を振る。

 

「またな!」

 

レインも手を上げた。

 

「はい!」

 

短いやり取りだった。

 

だが、それで十分だった。

 

ロジャー海賊団は船へ乗り込む。

 

やがて錨が上がる。

 

帆が広がる。

 

船はゆっくりと港を離れていった。

 

島民たちの見送りの声。

 

船員たちの笑い声。

 

全てが少しずつ遠ざかっていく。

 

レインはその背中を見送った。

 

未来の海賊王。

 

世界の果てを目指す男。

 

やがて船は水平線の向こうへ消えていく。

 

その姿が見えなくなっても、レインはしばらく海を見続けていた。

 

海風が吹く。

 

どこまでも広い海。

 

そしてその向こうにある世界。

 

レインは小さく呟く。

 

「海、か……」

 

その言葉は風に溶けて消えた。

 

だが、その日。

 

確かにレインの中で何かが変わり始めていた。

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