ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
第百五十五話「航海計画」
ロジャー海賊団が島を去ってから一週間が経った。
レイン工房はいつも通り忙しい。
注文は増え続けている。
工房も順調。
研究も順調。
生活に特に問題はない。
だが――
一つだけ問題があった。
「剣術か……」
工房の裏庭。
レインは木箱に腰掛けながら呟いた。
横には最上大業物『黎明』が置かれている。
ロジャーとの戦い。
あれから何度も思い出していた。
特に最後の評価。
『剣は下手くそだな』
あれは地味に刺さった。
いや、事実なのだが。
「どうしたものかな」
レインは頭を掻く。
前世でも剣道経験はない。
この世界でも習っていない。
当然ながら独学には限界がある。
かといって師匠がいる訳でもない。
レイリーは剣術を覚えろと言った。
ロジャーも強くなれと言った。
その必要性も理解している。
この世界は平和ではない。
技術だけでは守れないものもある。
だが、
「どうやって覚えるんだ?」
そこが分からなかった。
レインは腕を組む。
考える。
さらに考える。
そして――
ふと一つの考えが浮かんだ。
「あ」
立ち上がる。
その瞬間。
嫌な予感を感じた人物がいた。
工房の中で作業していたルークである。
「その顔やめてください」
即座に言った。
レインは驚く。
「まだ何も言ってないぞ」
「六年の付き合いです」
ルークは真顔だった。
「絶対ろくでもないこと考えましたよね?」
「失礼な」
レインは心外そうな顔をする。
ルークは信じなかった。
一秒たりとも信じなかった。
レインは咳払いを一つする。
「聞いて驚くなよ」
「嫌な予感しかしません」
「小さな船を作ろうと思う」
ルークが瞬きをした。
予想よりはまともだった。
少し安心する。
「船ですか?」
「ああ」
レインは頷く。
そして目が輝き始めた。
ルークはさらに嫌な予感がした。
「もちろん普通の船じゃない」
「でしょうね」
「今の俺が持っている技術を全部詰め込む」
「はい」
「小さい」
「はい」
「速い」
「はい」
「頑丈」
「はい」
「操船しやすい」
「はい」
「さらに――」
レインがニヤリと笑う。
「東の海を回る」
ルークの表情が固まった。
「はい?」
「航海訓練だ」
レインは楽しそうだった。
完全に楽しそうだった。
「船大工として船の実験も出来る」
「うん」
「航海技術も学べる」
「うん」
「剣術の修行も出来る」
「うん」
そこまでは良い。
問題はその次だった。
「ついでに海賊も狩る」
沈黙。
ルークが遠い目をした。
レインは気付かない。
「ほら」
「東の海には海賊もいるだろ?」
「いるでしょうね」
「剣術の実戦訓練になる」
「はい」
「懸賞金も手に入る」
「はい」
「一石二鳥だ」
レインは満面の笑みだった。
我ながら良い案だと思っている顔だった。
ルークは天を仰いだ。
しばらく何も言わない。
レインが首を傾げる。
「どうした?」
「いえ……」
ルークは疲れた声を出した。
「何というか……」
そして本音を言った。
「多分海賊がかわいそうです」
レインが固まる。
「何で海賊の味方してるんだ?」
「してませんよ!」
ルークは即座に否定した。
「でも考えてみてください!」
「はい」
「十三歳で覇王色纏いが使えて!」
「うん」
「ロジャーさんに化け物認定されて!」
「うん」
「しかも船までレインさん製!」
「うん」
「海賊からしたら災害じゃないですか!」
レインは少し考えた。
「確かに」
「納得しないでください!」
ルークが頭を抱える。
レインは本気で考えていた。
そして本気で納得していた。
それがまた厄介だった。
ルークは深くため息を吐く。
「というかですね」
「何だ?」
「あなたは社長です!」
工房に声が響いた。
作業していた職人たちまで振り返る。
ルークは構わず続けた。
「社長が自ら海賊狩りに行く発想をやめてください!」
「いやでも」
「いやでもじゃありません!」
「現場確認だぞ?」
「違います!」
「市場調査」
「違います!」
「航海技術の研究」
「絶対途中から海賊狩りがメインになりますよね?」
レインは視線を逸らした。
図星だった。
ルークが額を押さえる。
「ほら!」
「……否定できない」
「でしょうね!」
工房の職人たちから笑いが漏れた。
レインは苦笑する。
確かに少し暴走している自覚はあった。
だが、悪い案とも思えない。
船の試験航海。
航海技術の習得。
剣術の修行。
東の海の調査。
海賊討伐。
全部出来る。
合理的だ。
非常に合理的である。
ルークはそんなレインを見ていた。
そして...
数秒後...
諦めた。
「まあ……」
大きなため息を吐く。
「止まらないんでしょうけど」
レインが笑う。
「流石ルーク」
「褒めてません」
即答だった。
だがルークも少し笑っていた。
どうせ止めても無駄だ。
十三年間で嫌というほど学んでいる。
レインがこういう顔をした時は、もう決まっているのだ。
そして、レインは既に頭の中で新しい船の設計図を書き始めていた。
ロジャーとの出会い。
レイリーの言葉。
初めての剣。
初めての本格的な航海。
新しい挑戦が、また始まろうとしていた。