ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
翌日。
レイン工房は朝から異様な熱気に包まれていた。
まだ日も昇りきっていない。
それにもかかわらず、工房には既に大勢の職人たちが集まっていた。
理由は一つ。
新型船『雨神』である。
「材料確認終わりました!」
「木材搬入完了!」
「鍛冶班も準備できてます!」
あちこちから声が飛ぶ。
いつも忙しい工房だったが、今日は特別だった。
職人たち全員がどこか楽しそうなのだ。
レインが作る新しい船。
それだけで皆の心は躍っていた。
二階からその様子を見ていたレインは満足そうに頷く。
「よし」
隣ではルークが腕を組んでいた。
「本当に始まるんですね」
「始まるぞ」
「まだ信じられません」
レインは笑う。
「今さらだろ」
「それもそうですね」
六年間。
散々振り回されてきた。
今さら新しい船一つで驚くことはない。
だが、今回だけは少し違った。
工房始まって以来の大仕事なのだ。
レインは階段を下りる。
すると職人たちの視線が集まった。
自然と空気が引き締まる。
まだ十三歳。
だが、この工房の中心は間違いなくレインだった。
「聞いてくれ」
工房が静かになる。
レインは設計図を広げた。
巨大な雨神の図面。
誰が見ても普通の船ではない。
「建造期間は一週間」
沈黙。
そして、
「無理だろ!」
職人の一人が叫んだ。
周囲からも同意の声が上がる。
「一週間!?」
「正気か!?」
「普通なら数か月だぞ!」
大騒ぎだった。
ルークは思った。
やっぱりそうなるよな。
だがレインは落ち着いていた。
「普通ならな」
職人たちが黙る。
レインは続けた。
「だが俺たちは普通じゃない」
その言葉に何人かが笑った。
確かにそうだ。
この工房は普通ではない。
滑車を大量導入した。
分業体制も整えた。
新しい工具も作った。
作業効率は島で圧倒的だった。
レインは設計図を指差す。
「船体班」
「おう!」
「鍛冶班」
「任せろ!」
「内装班」
「了解!」
次々と返事が返ってくる。
職人たちの目が変わり始めていた。
無理だと思った。
だが、出来るかもしれない。
そんな気持ちになってきたのだ。
レインは笑う。
「目標は一週間」
「やってやろうじゃねぇか!」
誰かが叫ぶ。
工房中から歓声が上がった。
その瞬間、雨神建造計画が正式に始動した。
木材が運ばれる。
鉄が打たれる。
職人たちが走り回る。
工房は戦場のような忙しさになった。
だが誰一人文句を言わない。
むしろ楽しそうだった。
昼。
夕方。
そして夜。
作業は止まらない。
交代制で進み続ける。
レインも休まなかった。
設計確認。
寸法確認。
強度計算。
問題が見つかれば即座に修正。
職人たちも驚く。
「本当に十三歳か?」
「化け物だな」
「寝てるのかあいつ」
そんな声が聞こえてくる。
レイン本人は聞いていなかった。
完全に集中していた。
そして三日後、
港。
巨大な骨組みが姿を現していた。
まだ完成には遠い。
だが、確かに船だった。
職人たちはその姿を見上げる。
「本当に出来そうだな……」
誰かが呟いた。
一週間など無理だと思っていた。
だが今は違う。
完成が見えている。
レインは船体を見上げながら頷いた。
「間に合うな」
その時だった。
「レイン」
聞き慣れた声がする。
振り返る。
父だった。
仕事帰りらしく、少し疲れた顔をしている。
だが表情は真剣だった。
レインは首を傾げる。
「どうしたの?」
父はしばらく雨神を見上げる。
そしてゆっくりと口を開いた。
「本当に行くのか?」
港に静寂が落ちた。
近くにいたルークも動きを止める。
職人たちも空気を読んで少し離れた。
父の言葉の意味は分かる。
試験航海の話ではない。
海へ出るということ。
島の外へ出るということ。
それを聞いているのだ。
レインは少しだけ考えた。
そして真っ直ぐ父を見る。
「うん」
迷いはなかった。
「行くよ」
父は何も言わない。
ただレインの目を見ていた。
その瞳に迷いがないことを理解する。
そして小さく息を吐いた。
「そうか」
短い言葉だった。
だが、その中には色々な感情が詰まっていた。
心配。
不安。
誇らしさ。
寂しさ。
様々な感情が混ざっている。
レインはそれを感じ取った。
だからこそ何も言わない。
父も何も言わない。
ただ完成途中の雨神だけが、夕日に照らされて静かに港に佇んでいた。
そして、父の問いに対する本当の答えは、きっと近いうちに家族全員で話すことになるのだった。