ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第百六十話「出航前夜」

 

雨神が完成して二日後。

 

出航の日は翌朝に決まった。

 

港には既に必要な物資が積み込まれている。

 

真水。

 

保存食。

 

工具。

 

予備資材。

 

武器。

 

そしてレインが作った様々な試作品。

 

初めての本格的な航海。

 

準備に妥協はなかった。

 

そんな中、レインは工房の倉庫で荷物の確認をしていた。

 

「よし」

 

手帳を閉じる。

 

積み忘れはない。

 

必要な物は全て揃っている。

 

そう思った瞬間だった。

 

「レイン」

 

聞き慣れた声がする。

 

振り返ると母が立っていた。

 

その後ろには大きな木箱が三つ。

 

レインは嫌な予感がした。

 

「何それ」

 

「保存食よ」

 

母は当然のように答える。

 

レインは木箱を見る。

 

そしてもう一度見る。

 

どう見ても量がおかしい。

 

「多くない?」

 

「多くないわ」

 

「いや多いよ」

 

「足りないより良いでしょう?」

 

反論を許さない笑顔だった。

 

レインは諦める。

 

その顔をされたら勝てない。

 

木箱を開ける。

 

干し肉。

 

干し魚。

 

保存用のパン。

 

乾燥野菜。

 

果物の加工品。

 

その他諸々。

 

ぎっしり詰まっていた。

 

「何日分?」

 

「分からないわ」

 

母が即答した。

 

レインは頭を抱える。

 

隣にいたルークも遠い目をした。

 

「これは……」

 

「母さんなりの愛情だと思うぞ」

 

「重いですね」

 

「物理的にもな」

 

二人同時にため息を吐いた。

 

母は満足そうだった。

 

その様子を見てレインも苦笑する。

 

心配してくれているのは分かる。

 

だから文句は言わない。

 

言えない。

 

夕方。

 

工房では出航前の最後の確認が行われていた。

 

職人たちも集まっている。

 

誰もが雨神を見上げていた。

 

自分たちで作り上げた船だ。

 

愛着もある。

 

その時だった。

 

「レイン」

 

父が声を掛けてきた。

 

手には古びた木箱を持っている。

 

レインは首を傾げた。

 

「何?」

 

「これを持っていけ」

 

父は木箱を差し出した。

 

レインが受け取る。

 

思ったより重い。

 

開けてみる。

 

中には工具が入っていた。

 

鑿。

 

鉋。

 

金槌。

 

ノコギリ。

 

船大工に必要な道具一式。

 

どれも使い込まれている。

 

だが丁寧に手入れされていた。

 

レインはすぐに気付いた。

 

「父さんのか」

 

父は頷く。

 

「若い頃から使ってた」

 

レインは黙る。

 

新品ではない。

 

だからこそ価値があった。

 

父が長年使い続けた道具。

 

船大工として生きてきた証。

 

その重みが伝わってくる。

 

「困った時は使え」

 

父は静かに言った。

 

「船大工が船大工に渡すだけだ」

 

ぶっきらぼうな言い方だった。

 

だが、その声には優しさがあった。

 

レインは木箱を抱える。

 

そして真っ直ぐ父を見る。

 

「ありがとう」

 

父は少し照れ臭そうに笑った。

 

「壊すなよ」

 

「無理だな」

 

「正直だな」

 

二人は顔を見合わせて笑った。

 

その夜、工房では小さな宴が開かれた。

 

出航祝いでもあり、完成祝いでもある。

 

酒を飲む大人たち。

 

騒ぐ職人たち。

 

笑い声が響く。

 

その輪から少し離れた場所で、ルークは帳簿を眺めていた。

 

工房の収支。

 

今後の予定。

 

在庫管理。

 

出航前に確認することは多い。

 

すると誰かが隣へ座った。

 

父だった。

 

ルークは顔を上げる。

 

「お疲れ様です」

 

「おう」

 

父は酒を飲みながら笑った。

 

しばらく二人で宴を眺める。

 

そして父が口を開いた。

 

「ルーク」

 

「はい」

 

「お前も行け」

 

ルークが固まる。

 

「え?」

 

予想外だった。

 

父は当然のように続ける。

 

「レインと一緒に行け」

 

「いや、でも工房が……」

 

ルークは慌てて言う。

 

自分もいなくなれば工房の運営が大変になる。

 

そう思ったのだ。

 

だが父は首を横に振った。

 

「工房なら俺が見る」

 

「ですが……」

 

「元々俺がやってた仕事だ」

 

確かにその通りだった。

 

レイン工房が出来る前。

 

父は島でも有名な船大工だった。

 

職人たちからの信頼も厚い。

 

運営経験もある。

 

だから工房を任せること自体に問題はない。

 

父は笑う。

 

「職人たちもいる」

 

「心配するな」

 

ルークは黙った。

 

言われてみればそうだった。

 

工房はもう一人や二人が抜けた程度で止まる組織ではない。

 

それだけ大きくなっている。

 

だが父は真面目な顔になる。

 

「それより問題はレインだ」

 

ルークは即答した。

 

「でしょうね」

 

父が吹き出した。

 

「即答か」

 

「だってそうじゃないですか」

 

ルークは本気だった。

 

父も否定しない。

 

むしろ深く頷いた。

 

「お前しか止められん」

 

「最近は俺も止められてない気がします」

 

「それでもお前しかおらん」

 

ルークは頭を抱えた。

 

否定できない。

 

悲しいことに否定できない。

 

父は真っ直ぐルークを見る。

 

「頼んだぞ」

 

その一言には重みがあった。

 

冗談ではない。

 

本気だ。

 

ルークは少し考える。

 

そして、大きくため息を吐いた。

 

「分かりました」

 

父が笑う。

 

「助かる」

 

その時だった。

 

「何の話してるんだ?」

 

レインが現れた。

 

ルークと父が顔を見合わせる。

 

そして翌朝、港の出航準備が進む中、レインは荷物の最終確認をしていた。

 

すると、ルークが荷物を抱えて歩いてくる。

 

レインは首を傾げた。

 

「何してるんだ?」

 

「見て分かりません?」

 

「荷物運び?」

 

「違います」

 

ルークは真顔だった。

 

そして当然のように言う。

 

「僕も行きます」

 

沈黙。

 

レインが固まる。

 

「え?」

 

「行きます」

 

「工房は?」

 

すると後ろから父が現れた。

 

「俺が見る」

 

レインが振り返る。

 

「父さん?」

 

父は笑う。

 

「名誉会長を舐めるな」

 

職人たちも笑っていた。

 

どうやら全員知っていたらしい。

 

知らなかったのはレインだけだった。

 

「ということで」

 

ルークは荷物を船へ運び始める。

 

「あなたの監視役です」

 

レインが固まる。

 

「ひどくない?」

 

「工房総意です」

 

即答だった。

 

職人たちが一斉に頷く。

 

父まで頷いている。

 

レインは空を見上げた。

 

どうやら反論しても無駄らしい。

 

そして港には笑い声が響く。

 

初めての航海。

 

初めての冒険。

 

その始まりは、思った以上に賑やかなものになりそうだった。

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