ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
出航の日。
朝から港は大賑わいだった。
雨神の前には島民たちが集まっている。
まるで祭りのようだった。
「本当に行くんだな!」
「気を付けろよ!」
「土産話を楽しみにしてるぞ!」
あちこちから声が飛ぶ。
レインは甲板の上から手を振った。
「行ってきます!」
その声に島民たちも手を振り返す。
長老もいた。
杖を突きながら笑っている。
「無理はするなよ」
「努力します」
「絶対するじゃろ」
即座に返された。
周囲から笑いが起こる。
レインは反論できなかった。
少し前までなら反論していたかもしれない。
だが今は自覚がある。
自分が普通ではないことくらい。
その隣ではルークが頭を抱えていた。
「否定してくださいよ」
「無理だな」
「ですよね」
ルークも諦めていた。
その時。
父が桟橋を歩いてくる。
レインは真っ直ぐ向き直った。
父は笑う。
「忘れ物はないか?」
「多分」
「その返事は信用できん」
「俺もそう思う」
二人とも笑った。
そして父は少しだけ真面目な顔になる。
「困ったら帰ってこい」
短い言葉だった。
だが、その中には色々な想いが込められていた。
レインは頷く。
「分かった」
父も頷く。
それ以上は言わなかった。
その代わり、大きく手を振る。
レインも振り返した。
母はというと、朝から涙目だった。
「ちゃんと食べるのよ!」
「分かってる」
「ちゃんと寝るのよ!」
「分かってる」
「怪我しないでね!」
「それは約束できない」
「レイン!」
母の叫びに周囲が笑う。
レインも苦笑した。
母らしい。
最後まで母らしかった。
「ちゃんと帰ってくるから」
そう言うと、母はようやく少し安心したようだった。
その隣ではルークの両親も立っている。
「ルーク」
「はい」
「頼まれたこと忘れるなよ」
父親が言う。
ルークは遠い目をした。
「監視ですよね」
「そうだ」
即答だった。
周囲から笑い声が上がる。
レインは不満そうだった。
「まだ言うのか」
「言います」
「言う」
「言うわ」
「言うぞ」
ルーク。
ルークの両親。
レインの父。
三方向から同時に返ってきた。
完全包囲だった。
レインは空を見上げる。
味方がいない。
「それでは!」
ルークが咳払いをする。
「そろそろ出航します!」
港が静かになった。
全員の視線が雨神へ向けられる。
ついにその時が来た。
レインは船首へ立つ。
海を見る。
どこまでも続く青い海。
まだ見ぬ世界。
未知の景色。
胸が高鳴る。
「雨神」
小さく呟く。
そして大きく息を吸った。
「出航!」
ロープが外される。
帆が広がる。
風を受けた雨神がゆっくりと動き出した。
歓声が上がる。
島民たちが手を振る。
職人たちも叫ぶ。
家族も手を振っている。
レインも手を振り返した。
そして、雨神は港を離れた。
少しずつ...
少しずつ...
島が遠ざかっていく。
レインは船尾からその景色を見ていた。
島の外へ出るのは初めてではない。
海軍本部へ行ったこともある。
海兵の皆と出会ったのも、その時だった。
だが今回は違う。
誰かに連れて行ってもらう旅ではない。
自分で作った船。
自分で決めた航路。
自分の意思で進む航海。
それはレインにとって初めての経験だった。
工房。
家族。
仲間。
全てを背負いながら進む。
そんな感覚があった。
前世では会社を作った。
今世では工房を作った。
そして今、自分の船で海へ出る。
思えば随分と遠くまで来たものだ。
「出ちゃいましたね」
ルークが隣へ来る。
レインは頷いた。
「ああ」
島はもうかなり小さくなっている。
その光景を見ていると、不思議な感情が湧いてきた。
寂しさ。
期待。
不安。
興奮。
色々な感情が混ざっている。
するとルークが突然言った。
「泣いてます?」
「泣いてない」
即答だった。
「本当に?」
「本当だ」
「なら良かったです」
ルークは笑った。
レインも笑う。
少しだけ空気が軽くなった。
その後、二人は雨神の性能確認を始めた。
帆の調整。
操舵確認。
速度測定。
積載確認。
やることは山ほどある。
「やっぱり速いな」
レインが感心する。
普通の小型船より明らかに速かった。
設計通りだ。
「当たり前です」
ルークも頷く。
「設計したのレインさんですから」
「それもそうか」
二人は笑う。
さらに雨水回収装置の確認。
倉庫の点検。
緊急修理設備の確認。
問題は見つからなかった。
順調そのものだった。
昼が過ぎる。
夕方になる。
空が赤く染まり始める。
波も穏やかだった。
レインは船首へ立つ。
気持ちの良い風が吹いていた。
「平和ですね」
ルークが言う。
「ああ」
レインは頷く。
確かに平和だった。
だが、その時だった。
レインの表情が変わる。
見聞色を広げたのだ。
遠く。
かなり遠く。
海の向こう。
何かがいる。
レインは目を細めた。
「ルーク」
「何ですか?」
「船がいる」
ルークも周囲を見渡す。
だがまだ見えない。
「商船ですか?」
レインはしばらく感知を続けた。
そして、口角が上がる。
「いや」
その笑顔を見た瞬間。
ルークは嫌な予感しかしなかった。
「まさか」
レインはニヤリと笑う。
「海賊船だ」
沈黙。
数秒後...ルークは真顔で言った。
「帰りましょう」
「何で?」
「何でじゃありません」
即答だった。
夕日に染まる海。
その先には、レインにとって初めて遭遇する海賊船があった。
そして、ルークの苦労もまた、ここから本格的に始まるのだった。