ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
ルークがレイン工房へ入ってから三日が経っていた。
結論から言うと…
「うわっ!」
ガタンッ!
盛大に木材が崩れた。
レインは机で設計図を書いていた手を止める。
父親も作業台から顔を上げた。
そして二人同時にため息を吐く。
木材の山の前ではルークが固まっていた。
「す、すみません!!」
勢いよく頭を下げる。
レインは額を押さえた。
三回目だった。
初日…
工具箱を落とした。
二日目。
釘を全部逆向きへ並べた。
そして今日。
木材の山を崩した。
ある意味才能かもしれない。
父親が呆れたように言う。
「レイン」
「ん?」
「採用失敗じゃねぇか?」
ルークが青ざめる。
レインは吹き出した。
「まだ三日だよ」
「三日で工房壊されそうなんだが…」
「壊れてないから大丈夫」
父親は首を振る。
ルークは今にも泣きそうだった。
昼休み、ルークは一人で工房の裏に座っていた。
元気がない。
明らかに落ち込んでいる。
レインはオレンジを片手に近づいた。
前世から果物は好きだった。
「どうしたの?」
ルークが俯く。
「俺……向いてないかもしれません」
レインは少し笑った。
予想通りだった。
失敗が続けばそう思う。
誰だってそうだ。
レインも前世で何度も経験した。
失敗。
赤字。
クレーム。
契約破棄。
順風満帆だったことなど一度もない。
「なんで?」
「だって何もできないし……」
ルークは拳を握る。
「工具も使えない」
「船も作れない」
「仕事も遅い」
「失敗ばっかりです」
レインは黙って聞いていた。
そして言う。
「当たり前じゃん」
ルークが顔を上げる。
「え?」
「三日前まで船大工じゃなかったんでしょ?」
「それは……そうですけど」
「じゃあできなくて当たり前」
ルークは言葉に詰まった。
レインは続ける。
「父さんだって最初からできたわけじゃない」
「僕だってそう」
もちろん嘘だった。
中身は社長経験者だ。
だがルークには関係ない。
大事なのは別のことだった。
「失敗していいよ」
ルークが驚いた顔をする。
レインは笑った。
「でも同じ失敗は二回しない」
「それだけ」
午後…
レインは作業場へルークを呼んだ。
父親も不思議そうに見ている。
「何するんだ?」
「勉強」
父親は吹き出した。
「学校じゃねぇぞ」
「工房も学校みたいなものでしょ」
レインは机へ向かう。
紙を広げる。
そこへ円を書いた。
滑車だ。
「ルーク」
「はい!」
「これ何?」
ルークは首を傾げる。
「滑車です」
「正解」
レインは頷く。
そして聞いた。
「なんで楽になると思う?」
ルークは固まった。
考えたこともなかった。
便利だから使う。
それだけだった。
「分かりません」
「だよね」
レインは笑う。
父親も横で聞いている。
「父さんは?」
「なんとなく」
「だよね」
父親まで巻き込まれた。
レインは説明を始めた。
もちろん難しい話はしない。
ルークは十歳だ。
理解できる範囲で話す。
「例えば」
レインは木箱を指差した。
「そのまま持つのと」
「滑車を使うの」
「どっちが楽?」
「滑車です」
「なんで?」
ルークは少し考える。
「力が少なくて済むから?」
「そう」
レインは頷いた。
「大事なのはそこ」
ルークは真剣に聞いていた。
レインは続ける。
「作るだけじゃ駄目」
「なんでそうなるか知る」
「それが職人」
父親が腕を組む。
少し感心していた。
自分ならこう教えない。
まず作らせる。
身体で覚えろと言う。
だがレインは違う。
理由から教えている。
夕方…
レインは小さな木材を持ってきた。
「作ってみる?」
ルークが目を丸くする。
「俺が?」
「うん」
ルークは緊張した。
失敗したらどうしよう。
また迷惑をかける。
そんな考えが浮かぶ。
だが、レインは笑っていた。
「失敗してもいいから」
その言葉が不思議と安心させた。
作業が始まる。
木を切る。
穴を開ける。
削る。
当然失敗する。
何度も失敗する。
父親は何度も吹き出していた。
「不器用だなぁ」
「すみません!」
「まぁ俺もそんなもんだった」
その言葉にルークが驚く。
父親も昔は失敗したらしい。
少しだけ安心した。
日が沈み始めた頃。
ついに完成した。
小さな滑車だった。
歪んでいる。
見た目も悪い。
職人から見れば失敗作だ。
それでも、ちゃんと動いた。
ロープを通す。
回る。
荷物も持ち上がる。
ルークは呆然と見つめた。
「できた……」
小さく呟く。
自分で作った。
初めて…本当に初めてだった。
レインはその様子を見ていた。
そして笑う。
「うん」
ルークの目が少し潤む。
「俺……作れた」
父親も笑った。
「立派なもんだ」
ルークは嬉しそうだった。
その顔を見てレインは思う。
やはり人は面白い。
技術は教えられる。
知識も教えられる。
だが、成長するかどうかは本人次第だ。
そしてルークはきっと成長する。
そう確信できた。
工房の外。
夕焼けが港を赤く染めていた。
ルークは作った滑車を大事そうに抱えている。
レインはその横へ立った。
「ルーク」
「はい」
「君はちゃんと船大工になれるよ」
ルークが目を見開く。
「本当ですか?」
「うん」
レインは迷わず答えた。
「だって誰よりも頑張ってるから」
ルークは何も言えなかった。
ただ嬉しかった。
認めてもらえた気がした。
レイン工房。
まだ小さな工房。
だが確実に仲間が増えている。
そしてレインは知らない。
この少年が将来、自分の最も信頼する右腕の一人になることを。
まだ知らなかった。