ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
翌日。
雨神の甲板には大きな地図が広げられていた。
朝の海風が帆を揺らし、波が船体を優しく叩いている。
港町を出発して数時間。
現在の雨神は目的もなく海を漂っているわけではなかった。
船首付近に座ったレインは真剣な顔で地図を見つめている。
その横ではルークが呆れたような顔をしていた。
「何してるんですか?」
「航路を考えてる」
「それは見れば分かります」
ルークはため息を吐いた。
問題はそこではない。
レインの横には大量の資料が置かれている。
海軍支部から貰った手配書や海賊の情報だった。
どう考えても地図よりそちらに意識が向いている。
「絶対そっちが本命ですよね」
「何のことだ?」
レインは視線を逸らした。
非常に分かりやすい反応だった。
ルークは確信する。
絶対に海賊を探している。
「レインさん」
「何だ?」
「普通の旅をしません?」
「してるだろ」
「してません」
即答だった。
レインは納得していない顔をする。
だがルークは引かなかった。
「出航してから何日ですか?」
「三日」
「その間に海賊団二つ壊滅させてます」
「向こうから来たんだ」
「事実ですけど!」
ルークは頭を抱えた。
確かにレインから襲ったわけではない。
最初の海賊も。
町を襲った海賊も。
どちらも向こうから来た。
だが結果だけ見ると異常だった。
三日で海賊団二つ壊滅。
懸賞金八百万ベリー獲得。
普通の旅人の実績ではない。
レインは気にせず資料をめくる。
そこには東の海の賞金首たちの情報が並んでいた。
三百万。
五百万。
七百万。
様々な数字が並んでいる。
そして、一枚の紙で手が止まった。
「ほう」
その声を聞いた瞬間、ルークは嫌な予感を覚えた。
「何ですか?」
レインは一枚の手配書を差し出した。
そこには大柄な男が描かれている。
顔には大きな傷。
手には巨大な斧。
そして、
懸賞金一五〇〇万ベリー。
「高いですね」
「ああ」
東の海としては破格だった。
レインは資料へ目を通す。
海賊団名。
活動海域。
被害記録。
そして目撃情報。
そこには複数の村を襲撃した記録が残されていた。
商船襲撃。
略奪。
放火。
死者多数。
決して褒められるような相手ではない。
「こいつは駄目だな」
レインが珍しく真面目な声で言う。
ルークも資料を覗き込んだ。
そして顔をしかめる。
「確かに」
海賊にも色々いる。
冒険者に近い者もいる。
だが目の前の男は違った。
明らかな略奪者だった。
「モーガニアですね」
「ああ」
レインは頷く。
ピースメイン。
モーガニア。
ロジャー達と話した時のことを思い出す。
目の前の男は間違いなく後者だった。
「近いな」
レインが呟く。
「近いんですか?」
「ああ」
地図を指差す。
現在地から数日程度。
雨神の性能ならもっと早いかもしれない。
ルークは嫌な予感しかしなかった。
「まさか」
「まさかだ」
レインは笑った。
ルークは天を仰ぐ。
予想通りだった。
「普通の観光は?」
「後で」
「本当に?」
「多分」
「信用できません」
即答だった。
レインは苦笑する。
だが真面目な話でもあった。
ロジャーとの戦い。
あれで嫌というほど理解した。
覇気は通用する。
体術も問題ない。
だが剣術だけは未熟だった。
今回の海賊戦でも結局ほとんど拳で終わらせている。
黎明を使いこなせているとは言い難かった。
だからこそ実戦が必要だった。
「やっぱり海賊が可哀想です」
「何でだ?」
「何でもです」
ルークは諦めたように言う。
意味が分からない。
レインは首を傾げた。
その後も二人は地図を広げる。
風向き。
海流。
補給地点。
寄港可能な島。
レインは細かく確認していく。
前世で会社を経営していた癖なのだろう。
準備は徹底する。
「相変わらずですね」
「何がだ?」
「こういう時だけ社長です」
レインは少し笑った。
否定できなかった。
行き当たりばったりに見えて、実はかなり計画的なのだ。
「準備は大事だぞ」
「知ってます」
「勉強も大事だ」
「まだ言います?」
「大事だからな」
二人は笑った。
平和な時間だった。
少なくとも今は...
その頃、海軍本部では...
ガープが机の上の報告書を眺めていた。
黒いフード。
若い男。
異常な強さ。
海賊団二つ壊滅。
何度見ても心当たりしかない。
「やっぱりあやつかのう」
そう呟きながら煎餅を口へ放り込む。
近くにいた海兵が恐る恐る尋ねた。
「中将?」
「ん?」
「何かありましたか?」
ガープはニヤリと笑った。
そして報告書をひらひらと振る。
「面白いもんを見つけた」
嫌な予感しかしない。
海兵はそう思った。
長年の経験が警鐘を鳴らしている。
そして次の瞬間。
ガープは勢いよく立ち上がった。
「よし!」
海兵が身構える。
絶対にろくなことではない。
「ちょっと東の海へ行ってくるかのう!」
「またですか!?」
思わず叫んでしまった。
ガープは豪快に笑う。
「問題ない!」
「問題あります!」
即答だった。
しかしガープは聞いていない。
既に出発する気満々である。
「仕事はどうするんですか!?」
「後でやる!」
「絶対やりませんよね!?」
海兵の悲痛な叫びが本部に響く。
だがガープは気にしない。
楽しそうに笑っていた。
その視線は遥か東の海へ向いている。
一方その頃...当の本人は...
「よし、この賞金首にするか」
「決めちゃったよ……」
雨神の甲板で次の目標を決定していた。
前からは一五〇〇万ベリーの賞金首。
後ろからは海軍の英雄。
二つの運命が少しずつ近付いていることなど。
レインもルークも、まだ知る由はなかった。