ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

171 / 172
第百七十話「賞金首の痕跡」

 

雨神が次の島へ到着したのは、その翌日の昼頃だった。

 

港へ入る前から、レインは違和感を覚えていた。

 

「静かだな」

 

船首に立ちながら呟く。

 

隣ではルークも同じことを感じていたらしい。

 

「ああ、確かに」

 

港は見える。

 

船もある。

 

人もいる。

 

だが活気がない。

 

漁港特有の騒がしさもなければ、商人たちの呼び込みの声も少ない。

 

どこか重苦しい空気が漂っていた。

 

雨神が接岸し、二人は上陸する。

 

港には荷物を運ぶ人々の姿もある。

 

だが誰もが周囲を警戒していた。

 

子供の姿も少ない。

 

まるでいつ何かが起きてもおかしくないと思いながら生活しているようだった。

 

「何かあったんでしょうか」

 

ルークが小声で言う。

 

「聞いてみるか」

 

レインは近くの商店へ向かった。

 

店主は五十代くらいの男性だった。

 

品物を並べているが、客は少ない。

 

レインが適当に果物を一つ手に取る。

 

「こんにちは」

 

「ああ、いらっしゃい」

 

店主は笑った。

 

だが、その笑顔にも疲れが見える。

 

「旅人かい?」

 

「ああ」

 

「なら気を付けな」

 

店主は周囲を確認してから声を潜めた。

 

「最近、この辺りは物騒なんだ」

 

「海賊ですか?」

 

ルークが聞く。

 

店主は頷いた。

 

「一五〇〇万ベリーの大物だ」

 

レインの目が僅かに光る。

 

ルークは見なかったことにした。

 

絶対に面倒なことを考えている。

 

「ここ一ヶ月で商船が三隻やられた」

 

店主は続ける。

 

「近くの村も襲われた」

 

「海軍は?」

 

「追いかけてるらしいが捕まらん」

 

店主は悔しそうに言った。

 

「現れる場所が毎回違うんだ」

 

レインは黙って聞いていた。

 

店主の話は海軍から貰った資料とも一致している。

 

つまり情報の信頼性は高い。

 

「ありがとう」

 

代金を払い、二人は店を後にした。

 

しばらく歩いた後、ルークが聞く。

 

「どう思います?」

 

「妙だな」

 

レインはそう答えた。

 

「何がですか?」

 

「移動速度だ」

 

懐から資料を取り出す。

 

海軍から貰った記録。

 

被害が出た日時。

 

場所。

 

目撃情報。

 

それらを順番に見ていく。

 

村。

 

商船。

 

村。

 

商船。

 

一見すると規則性はない。

 

だがレインは違和感を覚えていた。

 

「何か分かるんですか?」

 

「まだ断定はできない」

 

そう言いながらもレインは歩き続ける。

 

やがて港のベンチへ腰掛けた。

 

地図を広げる。

 

資料を横に置く。

 

そして印を付け始めた。

 

前世で営業をしていた頃の癖だった。

 

情報を集める。

 

整理する。

 

共通点を探す。

 

仮説を立てる。

 

検証する。

 

その繰り返しだ。

 

ルークも隣から覗き込む。

 

最初は何をしているのか分からなかった。

 

だが数分後。

 

「これ……」

 

気付いた。

 

「海流ですか?」

 

「ああ」

 

レインは頷いた。

 

「こいつら、海流に沿って動いてる」

 

ルークは目を見開く。

 

言われてみればその通りだった。

 

襲撃場所はバラバラに見える。

 

しかし海流を考慮すると、ほぼ一直線上に並んでいる。

 

「偶然じゃないんですか?」

 

「偶然にしては出来過ぎてる」

 

レインは指で線を引く。

 

「この海賊団は航海技術が高い」

 

「なるほど」

 

「無駄な移動をしてない」

 

だから海軍も捕まえられない。

 

現れる場所が予測できないのではない。

 

海流を利用して効率良く動いているのだ。

 

「つまり」

 

ルークが言う。

 

「次が分かる?」

 

レインは少し笑った。

 

「多分な」

 

地図の一点を指差す。

 

そこは小さな島だった。

 

商業都市でもない。

 

観光地でもない。

 

人口も少ない。

 

だが、

 

「補給船が集まる島だ」

 

レインは説明する。

 

「海賊にとっては美味しい獲物になる」

 

ルークも納得した。

 

金目の物。

 

食料。

 

酒。

 

補給品。

 

全てが揃っている。

 

確かに狙う価値は十分ある。

 

「行くんですか?」

 

「もちろん」

 

即答だった。

 

ルークは空を見上げた。

 

もう驚かない。

 

今さら止めても無駄である。

 

「海賊が可哀想になってきました」

 

「だから何でだ」

 

「何でもです」

 

ルークは真顔だった。

 

一五〇〇万ベリーの賞金首。

 

東の海では名の知れた海賊。

 

普通なら恐れられる存在である。

 

だが今のレインを見ていると、どうしても海賊側に同情してしまう。

 

レイン本人は全く自覚がない。

 

それが余計に酷かった。

 

二人は雨神へ戻る。

 

船へ乗り込むと、レインはすぐに出航準備を始めた。

 

風向きを確認。

 

帆の角度を調整。

 

海流を計算。

 

航路を修正。

 

その姿は完全に船長だった。

 

「相変わらず手際良いですね」

 

「準備は大事だからな」

 

ルークは苦笑した。

 

レインは否定しない。

 

前世でも計画を立てるのは好きだった。

 

だからこそ会社も大きくできた。

 

もっとも、そのせいで周囲は大変だったのだが。

 

雨神は静かに港を離れる。

 

帆が風を受ける。

 

船体が前へ進む。

 

小型船とは思えない速度だった。

 

「速いですね」

 

「ああ」

 

レインも満足そうに頷く。

 

雨神は自分の技術を詰め込んだ船だ。

 

速さ。

 

頑丈さ。

 

操作性。

 

全てに妥協していない。

 

だからこそ愛着もある。

 

 

 

 

その頃...

 

海の別の場所。

 

巨大な海賊船が進んでいた。

 

船首には大柄な男が立っている。

 

顔の傷。

 

巨大な斧。

 

そして一五〇〇万ベリーの懸賞金。

 

東の海では有名な海賊だった。

 

男は酒を飲みながら笑う。

 

「次の獲物は明日だ」

 

部下たちも笑う。

 

既に次の略奪先は決まっている。

 

補給船が集まる小島。

 

守りも薄い。

 

簡単な仕事のはずだった。

 

誰も気付いていない。

 

既に自分たちの行動が読まれていることに。

 

 

 

 

さらに別方向の海では...

 

一隻の軍艦が猛スピードで進んでいた。

 

海兵たちは必死に帆を張っている。

 

全員汗だくだった。

 

理由は簡単である。

 

船長が張り切り過ぎているのだ。

 

船首には一人の男が立っていた。

 

モンキー・D・ガープ。

 

海軍の英雄。

 

「はっはっはっ!」

 

豪快な笑い声が海へ響く。

 

「待っとれレイン!」

 

海兵たちは顔を見合わせた。

 

やはり知り合いらしい。

 

しかも様子を見る限り、かなり気に入っている。

 

「レインさんって誰なんですか?」

 

若い海兵が聞く。

 

すると古参の海兵が遠い目をした。

 

「知ったら驚くぞ」

 

「そんなにですか?」

 

「ああ」

 

それ以上は誰も語らなかった。

 

説明が面倒だからだ。

 

その瞬間、全員が同じことを思った。

 

――レインも大変だな。

 

前方には一五〇〇万ベリーの賞金首。

 

後方には海軍の英雄。

 

どちらも普通なら関わりたくない存在である。

 

そして運命の三隻は、少しずつ、確実に、同じ海域へ近付いていくのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。