ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第百七十二話「剣士の修行」

 

海賊船はゆっくりと港へ近付いていた。

 

船首に立つ海賊船長は不敵な笑みを浮かべている。

 

その後ろでは部下たちが武器を手にしながら騒いでいた。

 

「久しぶりの大当たりだな!」

 

「補給船も停まってるぞ!」

 

「酒も食料も山ほどありそうだ!」

 

歓声が上がる。

 

誰一人として自分たちの敗北を疑っていなかった。

 

それも当然だった。

 

東の海で一五〇〇万ベリー。

 

この海域では間違いなく強者の部類に入る。

 

海軍にも何度も追われ、その度に逃げ延びてきた。

 

村を襲い。

 

商船を沈め。

 

略奪を繰り返してきた。

 

だから今回も同じ。

 

そう思っていた。

 

「船長」

 

部下の一人が港を指差す。

 

「あいつ、まだいますぜ」

 

全員の視線が集まる。

 

港の先端。

 

黒いフードの男。

 

ただ一人。

 

微動だにせず立っている。

 

船長は鼻で笑った。

 

「馬鹿だな、逃げる時間はあっただろうに」

 

周囲も笑う。

 

だが、誰も気付いていなかった。

 

レインが既に見聞色で船全体を把握していることを。

 

人数。

 

配置。

 

武器。

 

力量。

 

全て見えていた。

 

港では島民たちが固唾を呑んで見守っている。

 

「大丈夫なのか……?」

 

「一人だぞ……」

 

「本当に戦うのか?」

 

不安の声が広がる。

 

するとルークが苦笑した。

 

「大丈夫ですよ」

 

「本当か?」

 

島民が聞く。

 

ルークは少し考えた。

 

そして真顔で言った。

 

「むしろ海賊の方が心配です」

 

島民たちは意味が分からなかった。

 

だがルークだけは知っている。

 

ロジャーと覇王色をぶつけ合った男だ。

 

東の海の海賊がどうこうできる相手ではない。

 

問題は勝敗ではない。

 

レインが剣術の修行を優先するか。

 

それとも途中で面倒になって拳を使うかだ。

 

数分後、海賊船が接岸する。

 

ドンッという音と共に船体が岸へぶつかった。

 

そして海賊たちが飛び降りる。

 

一人。

 

二人。

 

三人。

 

次々と武器を持った男たちが現れる。

 

総勢三十人近い。

 

普通なら絶望的な光景だった。

 

だがレインは動かない。

 

ただ静かに立っている。

 

船長が前へ出た。

 

巨大な斧を肩へ担ぐ。

 

「おい小僧」

 

レインは答えない。

 

「聞いてんのか?」

 

それでも答えない。

 

船長の額に青筋が浮かぶ。

 

「なめてんのか!」

 

怒鳴った瞬間だった。

 

レインが一歩前へ出る。

 

そして腰の剣へ手を掛けた。

 

黎明。

 

最上大業物。

 

鍛冶職人の師匠から託された名刀。

 

今のレインが持つ最高の武器だった。

 

ゆっくりと鞘から抜く。

 

美しい刀身が陽光を反射する。

 

その瞬間、船長の表情が変わった。

 

長年生き残ってきた勘が警鐘を鳴らしている。

 

目の前の相手は危険だ。

 

理由は分からない。

 

だが危険だ。

 

本能がそう告げていた。

 

「行くぞ」

 

レインが呟く。

 

次の瞬間...

 

地面を蹴った。

 

速い。

 

海賊たちの目では追えない。

 

一人目。

 

剣の腹で首筋を叩く。

 

気絶。

 

二人目。

 

手首を打つ。

 

武器が吹き飛ぶ。

 

三人目。

 

膝裏を斬るように打つ。

 

転倒。

 

四人目。

 

鳩尾へ峰打ち。

 

気絶。

 

レインは次々と海賊を無力化していく。

 

圧倒的だった。

 

だが、本人は不満だった。

 

「遅いな……」

 

思わず呟く。

 

動きが重い。

 

拳ならもっと速い。

 

もっと正確だ。

 

もっと自然に身体が動く。

 

だが剣は違う。

 

剣を意識する。

 

剣筋を意識する。

 

間合いを意識する。

 

その全てが余計な思考になっていた。

 

ロジャーが何故あれほど強かったのか。

 

戦って初めて分かった。

 

剣が身体の一部になっていたのだ。

 

レインはまだそこに届いていない。

 

「囲め!」

 

海賊たちが叫ぶ。

 

十数人が同時に襲い掛かる。

 

普通なら終わりだった。

 

だが、レインは普通ではない。

 

見聞色が未来を読む。

 

武装色が身体を守る。

 

覇王色が存在感だけで相手を萎縮させる。

 

攻撃は当たらない。

 

避ける。

 

流す。

 

弾く。

 

その合間に剣を振るう。

 

一人。

 

また一人。

 

海賊が倒れていく。

 

「化け物だ!」

 

誰かが叫ぶ。

 

だがレインは納得していない。

 

「違う」

 

もっと上がいる。

 

ロジャー。

 

レイリー。

 

ガープ。

 

自分が知る怪物たちなら、こんな相手は一瞬で終わらせるだろう。

 

だからこそ、自分はまだ弱い。

 

「難しいな」

 

本音が漏れた。

 

遠くで見ていたルークが叫ぶ。

 

「だから言ったじゃないですか!」

 

「分かってる!」

 

「全然分かってません!」

 

島民たちは混乱していた。

 

圧倒している。

 

どう見ても圧倒している。

 

三十人近い海賊を相手に一方的だ。

 

それなのに本人は不満そうだった。

 

意味が分からない。

 

十分過ぎるほど強い。

 

誰もがそう思っていた。

 

そして十分後、海賊たちは全員地面へ転がっていた。

 

ただし、船長だけは立っている。

 

額から汗を流しながら。

 

周囲を見渡す。

 

仲間全滅。

 

誰一人立っていない。

 

信じられなかった。

 

「化け物が......」

 

船長が呟く。

 

レインは剣を構えた。

 

「違うな」

 

静かな声だった。

 

「俺はまだ未熟だ」

 

船長は意味が分からなかった。

 

周囲も意味が分からない。

 

ルークだけが納得している。

 

この人は本気でそう思っているのだ。

 

ロジャーやレイリーと比べているから。

 

だが東の海基準なら十分化け物だった。

 

船長は巨大な斧を握り直す。

 

逃げられない。

 

戦うしかない。

 

ならば全力だ。

 

雄叫びを上げながら突撃する。

 

斧が振り下ろされる。

 

レインはそれを見据える。

 

そして、初めて武装色を纏わせた黎明を振るった。

 

黒く染まる刀身。

 

鋭い斬撃。

 

ガキィィィン!!

 

凄まじい音が響いた。

 

船長の斧が弾き飛ぶ。

 

船長の目が見開かれる。

 

次の瞬間、レインの峰打ちが首筋へ入った。

 

船長の意識が飛ぶ。

 

巨体がゆっくりと崩れ落ちる。

 

静寂。

 

島民たちは言葉を失っていた。

 

一五〇〇万ベリー。

 

東の海で恐れられていた海賊。

 

それが僅か十数分で壊滅した。

 

そしてレインは、倒れた船長を見ながら呟く。

 

「うーん」

 

ルークが嫌な予感を覚える。

 

「どうしました?」

 

「剣術難しいな」

 

島民たちがずっこけた。

 

勝ったのに。

 

圧勝だったのに。

 

感想がそれだった。

 

ルークは額を押さえる。

 

「だから言ったじゃないですか」

 

「思ったより難しい」

 

「贅沢な悩みですね」

 

その時だった。

 

遠くの海から聞き覚えのある豪快な笑い声が響いた。

 

「はっはっはっ!」

 

レインの動きが止まる。

 

ルークも固まる。

 

嫌な予感しかしない。

 

二人は同時に海を見る。

 

そして水平線の向こうから現れた。

 

巨大な軍艦。

 

船首に立つ男。

 

モンキー・D・ガープ。

 

「見つけたぞレイン!」

 

レインは思った。

 

…何で此処に居るんですか…

 

ルークは思った。

 

――海賊、本当に可哀想ですね...

 

そして気絶した海賊船長は知らない。

 

自分が負けた相手を追ってきたのが、海軍の英雄だということを...

 

東の海の平和な一日は、まだ終わりそうになかった。

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