ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
海賊船はゆっくりと港へ近付いていた。
船首に立つ海賊船長は不敵な笑みを浮かべている。
その後ろでは部下たちが武器を手にしながら騒いでいた。
「久しぶりの大当たりだな!」
「補給船も停まってるぞ!」
「酒も食料も山ほどありそうだ!」
歓声が上がる。
誰一人として自分たちの敗北を疑っていなかった。
それも当然だった。
東の海で一五〇〇万ベリー。
この海域では間違いなく強者の部類に入る。
海軍にも何度も追われ、その度に逃げ延びてきた。
村を襲い。
商船を沈め。
略奪を繰り返してきた。
だから今回も同じ。
そう思っていた。
「船長」
部下の一人が港を指差す。
「あいつ、まだいますぜ」
全員の視線が集まる。
港の先端。
黒いフードの男。
ただ一人。
微動だにせず立っている。
船長は鼻で笑った。
「馬鹿だな、逃げる時間はあっただろうに」
周囲も笑う。
だが、誰も気付いていなかった。
レインが既に見聞色で船全体を把握していることを。
人数。
配置。
武器。
力量。
全て見えていた。
港では島民たちが固唾を呑んで見守っている。
「大丈夫なのか……?」
「一人だぞ……」
「本当に戦うのか?」
不安の声が広がる。
するとルークが苦笑した。
「大丈夫ですよ」
「本当か?」
島民が聞く。
ルークは少し考えた。
そして真顔で言った。
「むしろ海賊の方が心配です」
島民たちは意味が分からなかった。
だがルークだけは知っている。
ロジャーと覇王色をぶつけ合った男だ。
東の海の海賊がどうこうできる相手ではない。
問題は勝敗ではない。
レインが剣術の修行を優先するか。
それとも途中で面倒になって拳を使うかだ。
数分後、海賊船が接岸する。
ドンッという音と共に船体が岸へぶつかった。
そして海賊たちが飛び降りる。
一人。
二人。
三人。
次々と武器を持った男たちが現れる。
総勢三十人近い。
普通なら絶望的な光景だった。
だがレインは動かない。
ただ静かに立っている。
船長が前へ出た。
巨大な斧を肩へ担ぐ。
「おい小僧」
レインは答えない。
「聞いてんのか?」
それでも答えない。
船長の額に青筋が浮かぶ。
「なめてんのか!」
怒鳴った瞬間だった。
レインが一歩前へ出る。
そして腰の剣へ手を掛けた。
黎明。
最上大業物。
鍛冶職人の師匠から託された名刀。
今のレインが持つ最高の武器だった。
ゆっくりと鞘から抜く。
美しい刀身が陽光を反射する。
その瞬間、船長の表情が変わった。
長年生き残ってきた勘が警鐘を鳴らしている。
目の前の相手は危険だ。
理由は分からない。
だが危険だ。
本能がそう告げていた。
「行くぞ」
レインが呟く。
次の瞬間...
地面を蹴った。
速い。
海賊たちの目では追えない。
一人目。
剣の腹で首筋を叩く。
気絶。
二人目。
手首を打つ。
武器が吹き飛ぶ。
三人目。
膝裏を斬るように打つ。
転倒。
四人目。
鳩尾へ峰打ち。
気絶。
レインは次々と海賊を無力化していく。
圧倒的だった。
だが、本人は不満だった。
「遅いな……」
思わず呟く。
動きが重い。
拳ならもっと速い。
もっと正確だ。
もっと自然に身体が動く。
だが剣は違う。
剣を意識する。
剣筋を意識する。
間合いを意識する。
その全てが余計な思考になっていた。
ロジャーが何故あれほど強かったのか。
戦って初めて分かった。
剣が身体の一部になっていたのだ。
レインはまだそこに届いていない。
「囲め!」
海賊たちが叫ぶ。
十数人が同時に襲い掛かる。
普通なら終わりだった。
だが、レインは普通ではない。
見聞色が未来を読む。
武装色が身体を守る。
覇王色が存在感だけで相手を萎縮させる。
攻撃は当たらない。
避ける。
流す。
弾く。
その合間に剣を振るう。
一人。
また一人。
海賊が倒れていく。
「化け物だ!」
誰かが叫ぶ。
だがレインは納得していない。
「違う」
もっと上がいる。
ロジャー。
レイリー。
ガープ。
自分が知る怪物たちなら、こんな相手は一瞬で終わらせるだろう。
だからこそ、自分はまだ弱い。
「難しいな」
本音が漏れた。
遠くで見ていたルークが叫ぶ。
「だから言ったじゃないですか!」
「分かってる!」
「全然分かってません!」
島民たちは混乱していた。
圧倒している。
どう見ても圧倒している。
三十人近い海賊を相手に一方的だ。
それなのに本人は不満そうだった。
意味が分からない。
十分過ぎるほど強い。
誰もがそう思っていた。
そして十分後、海賊たちは全員地面へ転がっていた。
ただし、船長だけは立っている。
額から汗を流しながら。
周囲を見渡す。
仲間全滅。
誰一人立っていない。
信じられなかった。
「化け物が......」
船長が呟く。
レインは剣を構えた。
「違うな」
静かな声だった。
「俺はまだ未熟だ」
船長は意味が分からなかった。
周囲も意味が分からない。
ルークだけが納得している。
この人は本気でそう思っているのだ。
ロジャーやレイリーと比べているから。
だが東の海基準なら十分化け物だった。
船長は巨大な斧を握り直す。
逃げられない。
戦うしかない。
ならば全力だ。
雄叫びを上げながら突撃する。
斧が振り下ろされる。
レインはそれを見据える。
そして、初めて武装色を纏わせた黎明を振るった。
黒く染まる刀身。
鋭い斬撃。
ガキィィィン!!
凄まじい音が響いた。
船長の斧が弾き飛ぶ。
船長の目が見開かれる。
次の瞬間、レインの峰打ちが首筋へ入った。
船長の意識が飛ぶ。
巨体がゆっくりと崩れ落ちる。
静寂。
島民たちは言葉を失っていた。
一五〇〇万ベリー。
東の海で恐れられていた海賊。
それが僅か十数分で壊滅した。
そしてレインは、倒れた船長を見ながら呟く。
「うーん」
ルークが嫌な予感を覚える。
「どうしました?」
「剣術難しいな」
島民たちがずっこけた。
勝ったのに。
圧勝だったのに。
感想がそれだった。
ルークは額を押さえる。
「だから言ったじゃないですか」
「思ったより難しい」
「贅沢な悩みですね」
その時だった。
遠くの海から聞き覚えのある豪快な笑い声が響いた。
「はっはっはっ!」
レインの動きが止まる。
ルークも固まる。
嫌な予感しかしない。
二人は同時に海を見る。
そして水平線の向こうから現れた。
巨大な軍艦。
船首に立つ男。
モンキー・D・ガープ。
「見つけたぞレイン!」
レインは思った。
…何で此処に居るんですか…
ルークは思った。
――海賊、本当に可哀想ですね...
そして気絶した海賊船長は知らない。
自分が負けた相手を追ってきたのが、海軍の英雄だということを...
東の海の平和な一日は、まだ終わりそうになかった。