ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第百七十四話「条件」

 

「修行じゃ」

 

ガープの一言で、その場の空気が固まった。

 

レインは深いため息を吐く。

 

予想通りだった。

 

この男が「暇じゃ」と言った時点で嫌な予感しかしなかったが、案の定である。

 

「断ります」

 

即答だった。

 

ガープは目を丸くする。

 

「何故じゃ」

 

「貴方の修行はやり過ぎるからです」

 

真顔だった。

 

ルークが思わず吹き出す。

 

「正直ですね」

 

「大事なことだろ」

 

「気持ちは分かりますけど」

 

ガープは豪快に笑った。

 

「ぶわっはっはっ!」

 

島民たちは困惑している。

 

海軍の英雄から直々に修行を申し込まれて断る人間を初めて見た。

 

だがレインは本気だった。

 

目の前の男の拳がどれだけ危険か知っている。

 

以前、軽く手合わせしただけでも十分理解した。

 

あれは人間の拳ではない。

 

「駄目じゃ」

 

ガープは腕を組む。

 

「やるぞ」

 

「嫌です」

 

「やるぞ」

 

「嫌です」

 

完全に子供同士の喧嘩だった。

 

周囲の人間は何とも言えない顔をしている。

 

するとガープが不意にニヤリと笑った。

 

嫌な予感しかしない。

 

レインとルークは同時にそう思った。

 

「ならこうしよう」

 

ガープが言う。

 

「一撃じゃ」

 

「一撃?」

 

「わしに一撃でも入れられたら、お前たちのことは秘密にしてやる」

 

レインの目が少し細くなる。

 

「本当ですね?」

 

「海軍の英雄は嘘をつかん」

 

ガープは胸を叩く。

 

レインは考えた。

 

正直、この条件は悪くない。

 

今はまだ目立ちたくない。

 

技術も力も足りない。

 

海軍本部に名前が広まるのも避けたい。

 

なら、

 

「分かりました」

 

レインは頷いた。

 

「やります」

 

ガープが笑う。

 

「よし!」

 

ルークは頭を抱えた。

 

結局こうなる。

 

そして数十分後。

 

島の外れにある広場へ移動していた。

 

島民たち。

 

海兵たち。

 

全員が見物に来ている。

 

海軍の英雄と謎の賞金稼ぎ。

 

そんな戦いを見逃す理由がなかった。

 

ガープは軽く肩を回している。

 

一方のレインは黎明を腰へ差したまま立っていた。

 

「手加減してくださいよ」

 

レインが言う。

 

「善処する」

 

ガープが答える。

 

ルークは即座に言った。

 

「絶対しないやつですね」

 

その通りだった。

 

ガープは最初から全力で楽しむ気満々である。

 

「始めるぞ」

 

ガープが拳を構える。

 

その瞬間、レインの表情が変わった。

 

見聞色。

 

全開。

 

周囲の気配。

 

空気の流れ。

 

筋肉の動き。

 

全てを読む。

 

武装色。

 

全身へ纏う。

 

一瞬で戦闘態勢へ入った。

 

次の瞬間、レインが消えた。

 

島民たちが目を見開く。

 

速い。

 

あまりにも速い。

 

一瞬でガープの懐へ入り込む。

 

武装色を纏った拳。

 

一直線。

 

だが、空振り。

 

ガープはそこにいなかった。

 

「なっ!?」

 

レインが驚く。

 

背後にいつの間にか移動していた。

 

「まだまだじゃな」

 

ガープが笑う。

 

レインは舌打ちする。

 

再び突撃。

 

今度は蹴り。

 

拳。

 

剣。

 

連撃。

 

全てを繋げる。

 

だが、

 

当たらない。

 

当たらない。

 

当たらない。

 

ガープは最小限の動きで避け続ける。

 

まるで未来が見えているかのようだった。

 

いや、実際に見えている。

 

見聞色の覇気。

 

その熟練度が違う。

 

十分。

 

十五分。

 

時間だけが過ぎる。

 

島民たちは言葉を失っていた。

 

レインも十分化け物だ。

 

だが、ガープはもっと化け物だった。

 

一発も当たらない。

 

「どうした?」

 

ガープが笑う。

 

「終わりか?」

 

レインは息を整える。

 

汗が流れる。

 

見聞色も武装色も使っている。

 

それでも届かない。

 

「やっぱり化け物だな」

 

思わず呟いた。

 

ガープは笑う。

 

「今更気付いたか」

 

レインも笑った。

 

認めるしかない。

 

強い。

 

圧倒的だ。

 

ロジャーと戦った時も思った。

 

世界は広い。

 

怪物だらけだ。

 

だが、だからこそ面白い。

 

レインは拳を握る。

 

まだ一つだけ試していないものがある。

 

奥の手。

 

ロジャーとの戦いで掴んだ力。

 

黒い雷が走る。

 

バチバチバチッ!

 

空気が震える。

 

島民たちがざわつく。

 

海兵たちも顔色を変えた。

 

ガープの笑みが消える。

 

そして、初めて真剣な顔になった。

 

「ほう……」

 

その目に驚きが浮かぶ。

 

覇王色。

 

しかも。

 

纏っている。

 

「まさか」

 

ガープが呟く。

 

「もうその領域か」

 

レインは答えない。

 

地面を蹴った。

 

今までで最速。

 

空気が弾ける。

 

拳へ纏う覇王色。

 

武装色。

 

全てを込める。

 

ガープも拳を構えた。

 

だが避けない。

 

真正面から迎え撃つ。

 

そして、

 

ドゴォォォォォン!!

 

轟音。

 

衝撃波。

 

大地が揺れる。

 

周囲の木々が吹き飛ぶ。

 

島民たちが悲鳴を上げる。

 

海兵たちも必死に踏ん張る。

 

ルークは頭を抱えた。

 

「やり過ぎです!!」

 

土煙が舞う。

 

誰も結果が見えない。

 

数秒後。

 

風が吹く。

 

煙が晴れる。

 

そこに立っていたのは、

 

ガープとレイン。

 

両者とも健在だった。

 

だが、次の瞬間、島中が静まり返る。

 

ガープの口元から。

 

一筋の血が流れていた。

 

海兵たちが固まる。

 

島民たちも固まる。

 

誰も信じられない。

 

海軍の英雄。

 

あのガープが。

 

血を流した。

 

ガープ自身も口元を拭う。

 

指先に付いた血を見る。

 

そして、驚いたように笑った。

 

「まさかのう……」

 

その目はレインを見ていた。

 

「もうそこまで来とるとは」

 

レインは肩で息をしている。

 

全力だった。

 

だが、笑っていた。

 

「当たりましたよ」

 

ガープは一瞬黙る。

 

そして、

 

「ぶわっはっはっはっ!!」

 

豪快に笑った。

 

空へ響くほど大きな笑い声だった。

 

「約束じゃ!」

 

ガープが言う。

 

「しばらく秘密にしてやる!」

 

レインは安堵の息を吐く。

 

ルークも胸を撫で下ろした。

 

勝負には負けた。

 

だが条件は達成した。

 

そしてガープは思う。

 

…とんでもない化け物が育っとる…

 

ロジャー。

 

白ひげ。

 

シキ。

 

レイリー。

 

時代の怪物たちを知るガープだからこそ分かった。

 

目の前の少年は、確実にその領域へ近付き始めている。

 

だからこそ、ガープは楽しそうに笑ったのだった。

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