ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
「修行じゃ」
ガープの一言で、その場の空気が固まった。
レインは深いため息を吐く。
予想通りだった。
この男が「暇じゃ」と言った時点で嫌な予感しかしなかったが、案の定である。
「断ります」
即答だった。
ガープは目を丸くする。
「何故じゃ」
「貴方の修行はやり過ぎるからです」
真顔だった。
ルークが思わず吹き出す。
「正直ですね」
「大事なことだろ」
「気持ちは分かりますけど」
ガープは豪快に笑った。
「ぶわっはっはっ!」
島民たちは困惑している。
海軍の英雄から直々に修行を申し込まれて断る人間を初めて見た。
だがレインは本気だった。
目の前の男の拳がどれだけ危険か知っている。
以前、軽く手合わせしただけでも十分理解した。
あれは人間の拳ではない。
「駄目じゃ」
ガープは腕を組む。
「やるぞ」
「嫌です」
「やるぞ」
「嫌です」
完全に子供同士の喧嘩だった。
周囲の人間は何とも言えない顔をしている。
するとガープが不意にニヤリと笑った。
嫌な予感しかしない。
レインとルークは同時にそう思った。
「ならこうしよう」
ガープが言う。
「一撃じゃ」
「一撃?」
「わしに一撃でも入れられたら、お前たちのことは秘密にしてやる」
レインの目が少し細くなる。
「本当ですね?」
「海軍の英雄は嘘をつかん」
ガープは胸を叩く。
レインは考えた。
正直、この条件は悪くない。
今はまだ目立ちたくない。
技術も力も足りない。
海軍本部に名前が広まるのも避けたい。
なら、
「分かりました」
レインは頷いた。
「やります」
ガープが笑う。
「よし!」
ルークは頭を抱えた。
結局こうなる。
そして数十分後。
島の外れにある広場へ移動していた。
島民たち。
海兵たち。
全員が見物に来ている。
海軍の英雄と謎の賞金稼ぎ。
そんな戦いを見逃す理由がなかった。
ガープは軽く肩を回している。
一方のレインは黎明を腰へ差したまま立っていた。
「手加減してくださいよ」
レインが言う。
「善処する」
ガープが答える。
ルークは即座に言った。
「絶対しないやつですね」
その通りだった。
ガープは最初から全力で楽しむ気満々である。
「始めるぞ」
ガープが拳を構える。
その瞬間、レインの表情が変わった。
見聞色。
全開。
周囲の気配。
空気の流れ。
筋肉の動き。
全てを読む。
武装色。
全身へ纏う。
一瞬で戦闘態勢へ入った。
次の瞬間、レインが消えた。
島民たちが目を見開く。
速い。
あまりにも速い。
一瞬でガープの懐へ入り込む。
武装色を纏った拳。
一直線。
だが、空振り。
ガープはそこにいなかった。
「なっ!?」
レインが驚く。
背後にいつの間にか移動していた。
「まだまだじゃな」
ガープが笑う。
レインは舌打ちする。
再び突撃。
今度は蹴り。
拳。
剣。
連撃。
全てを繋げる。
だが、
当たらない。
当たらない。
当たらない。
ガープは最小限の動きで避け続ける。
まるで未来が見えているかのようだった。
いや、実際に見えている。
見聞色の覇気。
その熟練度が違う。
十分。
十五分。
時間だけが過ぎる。
島民たちは言葉を失っていた。
レインも十分化け物だ。
だが、ガープはもっと化け物だった。
一発も当たらない。
「どうした?」
ガープが笑う。
「終わりか?」
レインは息を整える。
汗が流れる。
見聞色も武装色も使っている。
それでも届かない。
「やっぱり化け物だな」
思わず呟いた。
ガープは笑う。
「今更気付いたか」
レインも笑った。
認めるしかない。
強い。
圧倒的だ。
ロジャーと戦った時も思った。
世界は広い。
怪物だらけだ。
だが、だからこそ面白い。
レインは拳を握る。
まだ一つだけ試していないものがある。
奥の手。
ロジャーとの戦いで掴んだ力。
黒い雷が走る。
バチバチバチッ!
空気が震える。
島民たちがざわつく。
海兵たちも顔色を変えた。
ガープの笑みが消える。
そして、初めて真剣な顔になった。
「ほう……」
その目に驚きが浮かぶ。
覇王色。
しかも。
纏っている。
「まさか」
ガープが呟く。
「もうその領域か」
レインは答えない。
地面を蹴った。
今までで最速。
空気が弾ける。
拳へ纏う覇王色。
武装色。
全てを込める。
ガープも拳を構えた。
だが避けない。
真正面から迎え撃つ。
そして、
ドゴォォォォォン!!
轟音。
衝撃波。
大地が揺れる。
周囲の木々が吹き飛ぶ。
島民たちが悲鳴を上げる。
海兵たちも必死に踏ん張る。
ルークは頭を抱えた。
「やり過ぎです!!」
土煙が舞う。
誰も結果が見えない。
数秒後。
風が吹く。
煙が晴れる。
そこに立っていたのは、
ガープとレイン。
両者とも健在だった。
だが、次の瞬間、島中が静まり返る。
ガープの口元から。
一筋の血が流れていた。
海兵たちが固まる。
島民たちも固まる。
誰も信じられない。
海軍の英雄。
あのガープが。
血を流した。
ガープ自身も口元を拭う。
指先に付いた血を見る。
そして、驚いたように笑った。
「まさかのう……」
その目はレインを見ていた。
「もうそこまで来とるとは」
レインは肩で息をしている。
全力だった。
だが、笑っていた。
「当たりましたよ」
ガープは一瞬黙る。
そして、
「ぶわっはっはっはっ!!」
豪快に笑った。
空へ響くほど大きな笑い声だった。
「約束じゃ!」
ガープが言う。
「しばらく秘密にしてやる!」
レインは安堵の息を吐く。
ルークも胸を撫で下ろした。
勝負には負けた。
だが条件は達成した。
そしてガープは思う。
…とんでもない化け物が育っとる…
ロジャー。
白ひげ。
シキ。
レイリー。
時代の怪物たちを知るガープだからこそ分かった。
目の前の少年は、確実にその領域へ近付き始めている。
だからこそ、ガープは楽しそうに笑ったのだった。