ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
修復作業が終わった頃には、空はすっかり夕焼け色に染まっていた。
島のあちこちで片付けをしていた人々も、ようやく一息ついている。
倒れていた木々は植え直され、地面もある程度は元通りになった。
もちろん完全ではない。
だが、朝の惨状を思えば十分だった。
「これで終わりですかね」
ルークが額の汗を拭きながら言う。
「そうだな」
レインも頷いた。
隣ではガープが腕を組んでいる。
「中々面白かったのう」
「面白くはないです」
ルークが即座に否定した。
ガープは豪快に笑う。
「ぶわっはっはっ!」
全く反省している様子はない。
そんなやり取りを見ていた島の管理人が近付いてきた。
「本当に助かりました」
深々と頭を下げる。
その後ろでは島民たちも何度も礼を言っていた。
もしレインが海賊の襲撃を予測していなければ。
もしガープが来ていなければ。
島は大きな被害を受けていただろう。
そう考えると感謝してもしきれない。
「いや」
レインは首を横に振る。
「俺たちも壊しましたから」
その言葉に島民たちが苦笑する。
それは事実だった。
海賊の被害はゼロ。
だがレインとガープの模擬戦で島の一部が半壊しかけた。
どちらが被害を出したのか分からないくらいである。
「それでも十分ですよ」
管理人は笑った。
「海賊が来る前に守ってもらいましたから」
レインは少し考える。
そして何かを思い出したように口を開いた。
「そうだ」
「はい?」
管理人が首を傾げる。
「今回の懸賞金って一五〇〇万ベリーでしたよね」
「そうですが……」
レインは頷く。
そして当然のように言った。
「そのうち七五〇万ベリーを島へ渡します」
その場が静まり返った。
管理人が固まる。
島民たちも固まる。
海兵たちも固まる。
ルークまで固まった。
数秒の沈黙。
そして、
「え?」
全員の声が綺麗に重なった。
レインだけが不思議そうな顔をしている。
「何ですか?」
「何ですかじゃありません!」
最初に反応したのはルークだった。
「七五〇万ですよ!?」
「そうだな」
「そうだなじゃないです!」
ルークは頭を抱えた。
一五〇〇万ベリー。
一般人からすればしばらく遊んで暮らせる大金である。
その半分をあっさり渡そうとしている。
意味が分からなかった。
管理人も慌てて手を振る。
「いやいやいや!そんな大金は受け取れません!」
「何故です?」
今度はレインが首を傾げる番だった。
「俺たちも迷惑をかけましたよね」
そう言いながら周囲を見る。
植え直された木。
埋められた地面。
修復した場所の数々。
「修理代と迷惑料です」
あまりにも当然のように言う。
だが島民たちは言葉を失っていた。
普通なら、海賊を倒した英雄として感謝される側だ。
お金を受け取る側だ。
それなのに、自分から渡そうとしている。
しかも七五〇万ベリーも。
「いや、それでも多過ぎます!」
管理人が言う。
「そうですか?」
「そうです!」
レインは少し考える。
そして、
「じゃあ島のために使ってください」
管理人が固まる。
「島のため?」
「港の整備でも良いですし」
「学校でも良いですし」
「診療所でも良いです」
「必要なところへ使ってください」
レインはそう言った。
前世の経験から知っている。
お金は使い方が重要なのだ。
ただ持っているだけでは意味がない。
使ってこそ価値がある。
その考えは今も変わらない。
島民たちは顔を見合わせる。
そして、一人、また一人と頭を下げ始めた。
「ありがとうございます」
「本当にありがとうございます」
「助かります」
感謝の声が広がる。
レインは少し困ったように頭を掻いた。
こういうのは慣れない。
その横で、ガープが突然笑い出した。
「ぶわっはっはっ!」
豪快な笑い声が響く。
「何ですか」
レインが聞く。
「普通は全額持っていくんじゃがのう!」
ガープは腹を抱えていた。
確かにそうだ。
賞金首を倒した者の正当な報酬。
誰も文句は言わない。
それを半分渡す人間など中々いない。
「別にいいじゃないですか」
レインは肩を竦める。
「海賊狩りは儲かりますし」
その場が再び静まった。
ルークが額を押さえる。
「そこなんですね」
「大事だろ?」
「大事ですけど」
方向性が少し違う。
ガープはさらに大笑いした。
「ぶわっはっはっ!」
海兵たちも苦笑する。
何というか、この少年は変わっている。
優しいのか、合理的なのか、商売人なのか、よく分からない。
だが一つだけ確かなことがあった。
悪い人間ではない。
むしろかなり良い人間だ。
だからこそ人が集まるのだろう。
しばらくして、懸賞金の手続きも終わった。
海軍側も特に反対しなかった。
正当な受取人がどう使おうと自由だからだ。
結果として、七五〇万ベリーは島へ。
残り七五〇万ベリーはレインのものとなった。
「これで合計三一〇〇万ですね」
ルークが計算する。
「ん?」
レインが首を傾げる。
「前回八百万でしたよね」
「ああ」
「今回七五〇万です」
「そうだな」
「合計一五五〇万...あ!」
ルークが訂正した。
疲れているらしい。
レインは笑った。
「十分だな」
「十分ですね」
工房の資金として考えても大きい。
研究費としても大きい。
船の改造にも使える。
夢が広がる金額だった。
その様子を見ていたガープが言う。
「本当に海軍に来んのか?」
「嫌です」
即答だった。
間髪入れなかった。
ガープは大きくため息を吐く。
レインは笑う。
ルークも笑う。
島民たちも笑っていた。
夕日が港を赤く染めている。
海賊は捕まった。
島も守れた。
後始末も終わった。
そして、新たな旅が始まろうとしていた。
東の海には、まだ数え切れないほどの島がある。
数え切れないほどの出会いがある。
数え切れないほどの冒険がある。
レインは海を見つめながら思った。
――さて、次はどこへ行こうか。
その表情は、とても楽しそうだった。